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アリババがわずか15ヶ月で香港から撤退。日本も反面教師にすべき中国ECが世界で通用しない理由=牧野武文

ジャック・マーが惚れ込んだ二人の創業メンバー

なお、この農村タオバオに絡んで、ある夫婦が重要な働きをします。孫トン宇(スン・トンユー)と彭蕾(ポン・レイ)の夫婦です。2人ともアリババの創業メンバー「アリババ十八羅漢」に入っています。2人は、元々、杭州財経学院の教師で、職場恋愛をして結婚しました。

その後、孫トン宇は杭州市の広告会社に転職をします。その広告営業で、起業したばかりの中国黄頁という会社を訪問します。ジャック・マーがアリババの前に起業した企業で、後のAlibaba.comの前身となるサービスを開発していましたが、結果的に失敗をします。しかし、孫トン宇はジャック・マーという人物に惚れ込んでしまいました。そこに、ジャック・マーが電話をかけてきて、中国黄頁に転職してきてくれないかと誘われます。

その後、アリババを創業する時には、孫トン宇はもちろん、妻の彭蕾も創業に参加することになります。

孫トン宇は、EC「タオバオ」の責任者を務めます。タオバオは成功をしましたが、マネタイズ問題に直面して、タオバオ商城が新設されます。この時、孫トン宇はジャック・マーと激しい論争をしました。

孫トン宇は、タオバオとTmallは、同じECと言っても、性格がまったく異なるのだから、異なるポリシーで運営していかなければならないと主張をしました。しかし、ジャック・マーは統一的な運営でかまわないというのです。ジャック・マーはTmallこそがアリババの核心的事業で、タオバオはTmallに入るべき販売業者、ブランドを発見するためのファーム=2軍という考え方だったのです。ジャック・マーの頭には、フリーミアムモデルがあったのだと思います。

しかし、孫トン宇から見ると、タオバオの販売業者は未熟で、さまざまな支援をする必要があるように見えました。農家には農産物を商品として見る目を持ってもらわなければなりませんし、地方の弱小メーカーには品質を上げる意識を持ってもらわなければなりません。一方、Tmallに出店する企業は、すでにビジネスを完成させているブランドです。アリババが何かを教える必要はなく、各ブランドがビジネスをしやすい環境を提供することが重要です。

この路線の違いから、孫トン宇は2008年にアリババを辞職し、後任の現在のCEOとなる張勇(ジャン・ヨン)がタオバオとTmallの責任者となり、双十一セールを始め、大成功をします。

これにより、タオバオの品質もあがっていきました。ビジネスが大きくなると、品質の低い販売業者は淘汰されていきました。これはジャック・マーも望んでいたことでした。しかし、地方の農家や地方メーカーは、行き場を失います。

巨大EC・ピンドードーの誕生

アリババを辞職した孫トン宇は、新しく登場したEC「ピンドードー」に出資をしました。出資するだけでなく、軍師としてさまざまなアドバイスを行なったようです。ピンドードーは、地方農家やメーカーにビジネスの基本を教えるセミナーなどを積極的に開催をしていき、タオバオから脱落した販売業者たちを育てていきます。これにより、ピンドードーは地方の販売業者と地方の消費者を獲得し、さらには大都市にも進出をし、アリババを脅かすほどの巨大ECに成長をしていきます。

アリババの下沈市場へのアプローチは、決して悪くはなく、積極的に行い、結果も出していましたが、ピンドードーのきめ細やかさとスピード感に負けてしまった観があります。

なぜアリババは海外進出に失敗したのか?

3の海外進出も、アリババを成長させる戦略として重要です。その第一歩として、香港に、アリペイ、タオバオ、Tmallを進出させました。また、東南アジアではLazada(ラザダ)を買収し、中国の製品を東南アジアで販売するチャンネルを構築しようとしています。

しかし、ここも、理想通りにうまくいっているとは言えません。それが、Tmallの香港からの撤退ということになってしまいました。これは、ニュースとしては小さな扱いですが、私個人は今後の分岐点になるできごとであるように思います。なぜ、Tmallは香港ではうまくいかなかったのでしょうか。

なぜアリババは香港で通用しなかったのか、その理由をご紹介し、アリババの海外戦略の今後を占います。

まず、Tmallが中国国内で成功した理由を考えます。よく、ECは「実店舗を駆逐した」と言われ、大都市では確かにそうですが、下沈市場では違います。私たちの日本は、大都市はもちろん、地方、郊外ですら、世界的に見ると高度に発達しているため、勘違いをしてしまいがちです。

巨大な中国ではユニクロ、ファミマも中国展開の店舗数が足りない

例えば、ユニクロは中国で990店舗を展開していて、すでに日本の店舗数よりも多くなっていますが、多くの専門家は不十分だと考えています。ユニクロを購入するような中国人消費者にうまくアプローチをするには3,000店舗程度が必要だと言われています。

これは、他のブランドでも似たような状況です。例えば、私たちは中国でもセブンイレブン、ローソン、ファミリーマートというコンビニをよく見かけ、中国でも日系コンビニが広がっていると勘違いしてしまいます。しかし、実際の店舗数を見ると、2021年末で日系トップのローソンが4,466店です。ところが、コンビニ業界のトップを走っているのは、「易捷」(イージエ)で2万8249店、2位が「美宜佳」(メイイージャー)で2万6168店。日系コンビニのだいたい6倍の規模です。

もうお分かりだと思いますが、日系コンビニは大都市中心の展開で、国内系コンビニは地方都市まで浸透しているのです。ブランド、特に海外ブランドが店舗を中国全土に浸透させることは簡単ではありません。

ましてや高級ブランドになると、大都市以外には展開ができません。それでも、SNSの発達により、下沈市場の消費者たちもブランドの名前は知っており、大都市に旅行した時に買ったりしてファンになっていることもあります。Tmallはこのような消費者の受け皿となって成長をしました。つまり、中国はまだオフライン小売が未成熟で、それを補えることからECが成長した面もあるのです。

Tmallの成功の理由はまさにこれでした。双十一で、下沈市場の消費者の購買欲を刺激します。しかし、近所に店舗はありません。そこでTmallを使うのです。

Next: 高密度でコンパクトな大都市香港ではECは流行らない

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