委縮しつつある日本
「世界の中の大国」として足りなかったのは政治力だったような気がする。経済交流が東西で遮断されていた冷戦時代、国際的な製造業の拠点は日本と西ドイツに集中した。その結果、日本と西ドイツは米国に次ぐ経済力や技術力を誇るようになった。
ところが、今は世界第二位の経済・技術の大国ではなく、中国・韓国を含めて、アジアのいくつかの国は日本と同格か日本以上の力を付けた。日本が謳歌してきた米国一極による世界秩序の安定は揺らぎ、強い円も失いつつある。日本の対外政策の前提となった技術立国はもはや存在しない。
例えば、英国は経済大国の地位は既に失って久しいが、エリザベス女王逝去に対する世界の反応を見ても判るように、ソフトパワーは今も圧倒的に強い。日本にはそれさえもない。安倍首相は衰退する日本を再び経済大国に押し戻したという大功績があった。しかし、今はそれもしぼみつつある。
衰退中の日本を救うのは、新機軸しかない
日本経済はあらゆる政策を総動員したにもかかわらず、30年間はゼロ成長が続いてきた。これは第一次オイルショック1973年秋に、当時高度成長論の立役者であった大蔵省出身の下村治博士(池田内閣の所得倍増計画のブレーン)が、突然手のひらを返したように「ゼロ成長」を言い出した。人騒がせなことであるから時の経済企画庁も政権も、これを「安定成長」と言い換えた。しかし、結果的に「下村氏の豹変」は当たっていたことになる。「君子豹変す」とはこれを云うのだろうとさえ思う。
30年間ゼロ成長が続いた。アベノミクス時代に株価は平均株価2.8倍になり、時価総額も3倍近くになり、日本の対外資産も増えたし、年金基金も4割以上も増えたし、雇用も最大になったし、企業の経常利益も創業以来最高が6年間も続いた。
しかし、安倍政権時代の7年間を通算してみると、GDPは1.1%の成長しかなく、ゼロ成長に近い。最もその期間に消費税が5%から8%になり、8%が10%になるというふうに増税して2倍になった。これによって、四半期別のGDPは2期間連続してマイナスになったことが安倍政権時代に二度あった。これを含めているので、通算すれば7年間で1.1%にしかならなかったという事実はある。
しかし、30年間ほとんどゼロ成長が続いたことは事実である。これは日本の景気低迷が、単純に需給ギャップの問題ではないということを端的に示している。したがって、財政出動で需要を増やしても、それだけでは日本経済は救えないということを示している。
財政出動のメカニズムは、ある均衡点から次の均衡に至るまでのものである。景気がなかなか良くならないために経済政策に期待する声が大きいが、日本の場合は経済の仕組みそのものに問題があり、社会の仕組みそのものに問題があるのではなかろうか。
一般的な経済政策では充分な効果は発揮できない。財政や金融といった経済政策は一時的な需給ギャップの解消など転機的な経済の救済にはなるが、自動的な成長を促すものではない。アベノミクスの「三本の矢」の時に言われた「三本目の矢」(「設備投資を呼び込む成長戦略」)が必要なのだ。
古い話しだが、シュンペーターが説いたイノベーションこそ必要である。ところが、政府が技術革新を主導するという官製イノベーションはむしろ逆効果になることすらある。政府はあくまでも競争環境の整備とか、イノベーションに妨げになるような諸々の規制の配慮とか、そういうことに動くべきではないだろうか。
<山崎和邦の投機の流儀vol.541 10/16号>
第1部:当面の市況
(1)市況コメント
(2)日本市場に織り込まれていない短期的な材料は、NY大幅高or大幅安。
(4)年末までの大まかな見方
(5)日本国内の中長期債、海外勢は8年半ぶりの最大の売り越し。
(6)日銀の景況感
(7)鉱工業生産の9月・10月の見通しは上方修正
(8)「QUICK投資家心理指数は4ヶ月連続で弱気」
(9)ファンダメンタルを無視した相場操縦だけでは、円安は止められない。
(10)「悪い円安論」「良い円安論」
(11)円は12日に146円台後半を付けて、9月22日の為替介入時よりも安値を付けた
(12)日米金利差という為替相場のファンダメンタル要素の落ち着き所
(13)進む円安で、外国人労働者が減った。
(14)米中間選挙、有権者の関心度においてコロナ問題は15位で最下位
(15)個人資金が海外投信へ2.4兆円弱の流入
■ 第2部:中長期の見方
(1)岸田政権の支持率急落は無理もない。
(2)「アベノミクス離れ」ができない岸田政権の衰退
(3)委縮しつつある日本
(4)衰退中の日本を救うのは、新機軸しかない。
(5)プーチンの狡猾さ
(6)ウラジミール・プーチンの奇々怪々─そして誰も居なくなる。
(7)追いつめられたプーチン
(8)日米の金利政策
(9)「次の株価暴落を乗り切る投資法」
(10)「米国株の逆金融相場は年末まで」「激変した株式サイクル」
(11)「資産形成支援と所得格差拡大の二律背反は、避けて通れない。
(12)東電株の行方
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『山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年10月16日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。