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組織の新陳代謝を上げるカギは「やめる」ことができるか 日本企業の特性から見たアクティビストの存在意義

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2023年2月4日に行われた、マネックス証券株式会社主催の「マネックス・アクティビスト・フォーラム2023」パネルディスカッション第1部の内容を書き起こしでお伝えします。
・基調講演
・ビデオ講演①
・ビデオ講演②
・パネルディスカッション第2部

パネルディスカッション 第1部

井村俊哉氏(以下、井村):みなさま、こんにちは。モデレーターを務めさせていただきます、投資家の井村俊哉と申します。よろしくお願いいたします。

ディスカッションに入る前に、冨山さんから簡単な自己紹介をお願いします。

プロフィール 冨山和彦氏

冨山和彦氏(以下、冨山):みなさまこんにちは、冨山でございます。スライドに記載のとおり、いろいろなことに関わっています。新しい資本主義実現会議の委員もしています。今は停滞していますが、この国の資本主義について考えなければいけないと思っています。

また、産業再生機構時代には、いろいろな会社の再建に取り組んできました。再建とはつまり投資をしているわけですので、日本企業の中身と投資と経営にも関わってきました。政府、投資家、経営と、さまざまな立場で仕事をしています。本日の議論は、あらゆる立場の交錯点のような、まさにアクティビズムな議論になると思いますので、非常に楽しみにしています。

井村:冨山さんはさまざまな会社で社外役も務められていますので、ガバナンス面でもいろいろなご指摘をいただけるのではないかと期待しています。

冨山:ガバナンス的なところでは、優等生と言われるオムロンの社外取締役を務めて15年ほどになります。また、現在一生懸命変えていこうと試行錯誤しているパナソニックにおいて、社外取締役としての支援も務めています。

プロフィール テスタ氏

井村:続いて、テスタさんお願いします。手短なプロフィールですね。

テスタ氏(以下、テスタ):僕はテスタという名前で個人投資家をしています。個人投資家にとって、アクティビストファンドというものはあまり馴染みがありません。しかし、かえって会場のみなさまと一番近い立ち位置でお話ができるのではないかと思います。僕自身もいろいろとわからないことがありますので、疑問に思うことを質問して、良い話ができればと思っています。

井村:ちなみに、アクティビストに対する印象はいかがでしょうか。好意的ですか? 少しネガティブに見ていますか?

テスタ:がっつりネガティブですね。僕はアクティビストの意味も知らなかったため調べたところ、「物言う株主」といったワードが出てきました。

井村:そうですね。かなり前には某ファンドが話題になりましたね。

テスタ:僕は2006年くらいから株を始めていましたので、ライブドア・ショックや村上ファンドが非常に話題になった世代です。当時を知っている人にとっては、やはりネガティブなイメージがあるのではないかと思います。

井村:汚い言葉ですが「銭ゲバ」といったイメージもあります。しかし、テスタさんには、アクティビストの現状がまったく変わっていることを本日のディスカッションで知ってほしいと個人的に思っています。

プロフィール 広木隆氏

井村:続いて、広木さんお願いします。

広木隆氏(以下、広木):こんにちは。マネックス証券の広木でございます。

私は松本さんと同い年で、証券業界に関わって35年になります。マーケットと日本企業にずっと携わってきて、本当に良くなってほしいと心から思っています。また、この先良くなる兆しや期待がたくさん出ていて、その1つのキーワードが「アクティビズム」だと思っています。本日はみなさまとそのような話ができるのを非常に楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。

井村:いつもさまざまなメディア等を拝見して、勉強しています。本日は景気の良い話などもうかがえればと期待しています。

プロフィール イェスパー・コール氏

イェスパー・コール氏(以下、イェスパー):こんにちは、イェスパー・コールと申します。ドイツ出身ですが、日本が大好きです。しかし、ワールドカップの日本対ドイツ戦は、2対1でドイツが負けてしまいショックでした。日本は強いです。

井村:サッカーの話ですか? 今回はアクティビスト・フォーラムで、サッカーのフォーラムではありませんが。

イェスパー:アクティビスト・フォーラムだからこそです。日本のサッカーチームのように、「野心」を見せることが重要だと思っています。サッカーで世界一を目指すように、経営者が「野心」を見せると投資家の方々はうれしいと思います。

井村:なるほど。イェスパーさんには、世界から見た日本市場や、日本の発行体の経営者などの視点でも意見をいただければと思っています。

プロフィール 松本大氏

松本大氏(以下、松本):本日は、ふだんのマネックス証券セミナーと比べると、ずいぶんとパネリストが賑やかな印象です。私も広木と同じく、1987年からこの仕事をして35年になります。債券や金利などのトレーダーから始めて、その後は不良債権の購入など、ずっとマーケットの中で行ってきました。

東証の取締役を務め、現在は東証のフォローアップ会議の委員もしています。また、我が国の上場制度をいろいろと考える「上場制度整備懇談会」のメンバーでもあり、どっぷりとこの世界に浸かってきました。

最近では、アクティビスト運用にも取り組んでおり、個人的にはアメリカのマスターカード社の社外取締役も務めています。資本市場関係のことでしたら川上から川下まで、アメリカから日本まで、ほとんどに取り組んできました。そのような経験をもとに、役に立っていければと思っています。

井村:今お話にあった東証のフォローアップ会議は、日本企業の資本効率を高めるための会議で、個人投資家の間でもかなり注目度が高まっています。そのメンバーとして、どのような議論が行われているのかについてもお聞きしたいと思っています。

プロフィール 井村俊哉 氏

井村:最後に、僭越ながら私も簡単に自己紹介します。本日は錚々たるメンバーが参加されていますが、その中でも株式投資にかける情熱ではおそらく私が一番だと思っています。後は覚えなくてもかまいませんので、会場のみなさま、それだけは覚えて帰ってください。

パネルディスカッション

井村:さっそく進めていきたいと思います。本日のパネルディスカッションでは、テーマを大きく3つ用意しています。1つ目は日本の株価が上がらない理由、2つ目は日本と海外の経営の違い、3つ目はアクティビストの存在意義です。こちらについて議論していきたいと思います。

日本の株価が上がらない理由

井村:1つ目の「日本の株価が上がらない理由」についてです。伊藤忠商事の岡藤会長から「日本の株価は決して安くないんですよ」といった言葉があり、意外に思われた方も多いと思います。あらためてパネリストのみなさまは、日本株は安いと思いますか? まずはテスタさんに、トレーダー目線でお話をうかがっても良いでしょうか?

テスタ:僕は2005年、2006年頃からトレーダーを始めましたが、2011年から2012年頃の日経平均株価は7,000円から8,000円の時がありました。それから10年と少し経ちましたが、現在の日経平均株価は一時3万円を超えて、現在は少し下がっているものの、それでも2万7,000円くらいを維持している訳です。そのため、自分が取り組んできた歴史では、そもそも安いどころか、非常に上がっている感覚があります。

井村:確かに、バブル期などを経験せずに2010年頃から投資を始めたような方々は、基本的に上げ相場しか経験していませんので、「上がらない」という感覚はないのかもしれません。

「現在の株価の位置感や値ごろ感から見ると上がっている」とのお話ですが、広木さんはファンダメンタルズの指標面から見て、どのように感じられていますか?

広木:リターンという意味では、アベノミクス相場が始まってから過去10年間で倍以上になっていますし、テスタさんや伊藤忠商事の岡藤さんがおっしゃるとおり、リターンの面では決して上がらなかった訳ではなく、むしろ非常に上がってきたと言えます。

ただし、「安いかどうか」については、何をもって評価するのか難しいのですが、例えば指標面では、PBR(株価純資産倍率)があります。一株あたりの純資産を企業が持っている帳簿上の価値(ブックバリュー)と比較するものです。

先ほどビデオの中では、ユルマズさんが「会社が持っている現金より、時価総額が安い会社がある」と発言していました。これは極端な例ですが、会社が持っている純資産には帳簿上の価格があります。それよりも時価評価が低い会社はどのくらいあると思いますか? 

例えば、1月末で東証プライム市場に上場している企業の半分がPBR1倍割れを起こしています。このようなものは、まさに安いと言えるのではないかと思います。市場でまったく評価されていないということになりますが、それが割安なのか、つまりバーゲンセールで安いのかという判断は難しいところです。それが1つ目のテーマ「株価がなぜ上がらないのか」の理由になります。

理屈で言えば、利益率(ROE)が低いからPBRが1倍を超えない訳です。簡単に言うと、日本のPBR1倍割れは、「この企業が持っている純資産は、この先何年かけても倍に成長しない」と誰もが思っているという、低評価が付いているということです。よって株価が上がらないのです。

一方で、アメリカではどうかと言えば、PBRが2倍、3倍になっています。日本とは逆に、企業が持っている純資産が「この先何年かかけて2倍、3倍になる」と誰もが思うため、そのくらいの評価になります。日本は何年経っても純資産が成長していかないと思っている表れとして、PBR1倍割れという結果を生んでいます。

井村:おっしゃるとおり、基本的に日本株は万年割安で「安い、安い」と言われています。

広木:問題はそこなのです。「利益率が低いから、PBRが上がらない」と言ってしまえば話は終わってしまいますが、肝心なのは「どうしてその純資産が増えていくとみんなが期待できないのか?」です。そこには一言で言えない、さまざまな要因があると思います。

井村:この後のテーマにもけっこう関わってくる視点です。さて、先ほどからイェスパーさんが話したくて仕方がなさそうな雰囲気です。

イェスパー:毎晩、外国の機関投資家と話していますが、誰もが「日本の株を買いたい」と言っています。それは間違いなく割安感があるためです。しかし、なぜ売れないのかというと、「会社の経営者、CEOと話すと、あまり大きな目標や成長への野心がないから買わない」と答えます。

外国人から見て、日本にはすばらしい技術、すばらしい会社、すばらしいブランドがたくさんあります。しかしながら、その最終責任者であるCEOに「何のために経営しているのか?」尋ねると、「いや、俺はサラリーマンだよ」と答えるのです。

きちんと目標を見せてほしいと思います。これはやはりアクティビストの1つの役目だと思います。

松本さんは、まったく怖くない人です。どこにでも行って、誰にでも会って、すばらしい技術を見つけて、解き放っていきます。割安感の輪の中から成長に向かっていけるのは、アクティビストのおかげです。

井村:とても感情が入っていましたね。

テスタ:一番アクティブだったんじゃないですか?

井村:たしかに、最もアクティビストでしたね。会場の前方にいる方も「うんうんうん」と頷かれています。日本の経営や経営陣の考え方に難があるのではないかという、世界の視点からのご指摘でした。

さて、ここでみなさまにお聞きしたいのですが、今の株価の位置が「安い」のはみなさまの共通認識だと思います。しかし、ここから上がるかは別の話だと思います。みなさまの感覚として、この先、日本株が日経平均3万円、3万5,000円、4万円と上がっていくと思うかどうか、アンケートを取らせてください。日本の未来はこの先明るく、どんどん上がって日経平均5万円、10万円も夢ではないと思いますか? 来場の方で、そう思う方は挙手をお願いします。

イェスパーさんは力強く手を挙げられていますが、会場のみなさまは若干温度が低い方もいて、4割程度の挙手となりました。すべて浸透している訳ではないが、期待を持っている方もそれなりにいるといった結果になりました。

それでは、広木さんからも指摘があったように、今の株価が安いことはすでにわかっていますので、そこから株価が上がらないことのほうが大事なポイントになってきます。ここで冨山さんに質問ですが、経営の視点から、日本株が上がらない理由には何があると思いますか?

冨山:30年くらいの長期の時間軸で見ると、要するに成長しなくて儲かっていないからです。伸びていないのです。なぜそうなったのかと言いますと、先ほどのイェスパーさんの意見につながるのですが、基本的にみんな安定が大好きです。ですから今のままが良いのです。

井村:現状維持ということですね。

冨山:日本の上場企業はサラリーマン共同体ですから、今そこにいる仲間や共同体を守りたいという考えが、すべてにおいて優先されます。しかしながら、今は破壊的イノベーションの時代です。成長しようと思ったら、組織は新陳代謝を上げなければいけないし、安定を捨てなければいけません。日本社会全体がそうなのです。

この30年間、この国は安定を選択して成長を捨てたのです。そのせいで、これだけ財政が悪化して、いろいろな借金が溜まってしまったわけです。だから、リスクを取らなければなりません。

しかし、この問題はけっこう根が深くて、中長期的な問題が非常に多いのです。なぜなら、社会全体でリスクを取りに行くことは非常に大変です。ある意味、総理大臣がバンバン失言するくらいでなければ、リスクは取れません。

井村:おっしゃるとおりですね。加えて、経営側が株式のインセンティブを付与されていないため、リスクを取る必要がないのかもしれません。リスクを取っても見返りがないために企業価値を上げるインセンティブが働かないのではないかと思います。

冨山:申し訳ないですが、インセンティブを付与しても、それほど効果はないと思います。考えてみてください。新卒で一緒に入社して、同じ所に30年、40年も一緒にいて、その中で自分だけ金持ちになったら確実にいじめられると思いませんか? それよりも仲良く安定しているほうが良いのです。そのように考える人を経営者に選んでいるのです。

井村:しかし、アクティビストたちの方法として、いの一番に挙がるのは、経営陣側に株式のインセンティブを付与して同じ船(セイムボート)に乗せることではないかと思います。

冨山:申し訳ありませんが、40年間同じ釜の飯を食ってきたセイムボートと、アクティビストから提案された株のインセンティブのセイムボートと、どちらが重いか考えてみてください。現状、絶対に前者のほうが重いです。

我々はそのような世界に生きていないからわかりませんが、あの方たちは40年間ずっと一緒に、同じ「村」で暮らしているのです。だから、そこを打破しなければ駄目だと思います。

井村:組織的な課題がかなり山積されている状況ですが、東証側も危機意識があり、PBRが万年1倍割れしているような銘柄に対してなんらかの改善計画を出させるところまで踏み込もうとしています。こういった状況を踏まえて、松本さんはどうお考えでしょうか? 日本は変わりますか?

松本:東証の危機感はかなりあります。東証フォローアップ会議でも東証の上場部はかなり前向きで、今までとは少し違う感じがあります。そちらの詳細は、「東証フォローアップ会議」と検索していただければご覧いただけます。

冨山:けっこう過激に取り組もうとしていますよね。

松本:手前味噌ですが、私を筆頭にメンバーがかなり過激なのです。議事録を見ていただくとわかるのですが、最初から東証がかなり前向きだったことに加えて、メンバーがどんどん意見を出すのに合わせて、東証も実際の案を変えてきています。

井村:声を聞いてくれているのですか?

松本:はい。この半年ぐらいの間に案も変わってきていて、PBRが1倍割れをしている会社にはきちんと説明させようという案も出ています。

冨山:落とし前をつけさせようと。

松本:はい。東証から、一度は「いつか説明させよう」といった順次施策が出てきたのですが、メンバーは「当分の間では駄目だ」と言いました。日本特有の法律用語として「当分の間」は「永久」を意味してしまいます。そのため、「その表現では駄目だ。きちんとした期限の記載を書いてください」という声があがったため、現在は「今春まで」など、東証によるフォローアップ案にすべて期日が記載されています。

そのため、私自身も「投資家の意見に耳を傾けましょう」といった事項をまとめた社外取締役向けのハンドブックを作成して、上場企業の社外取締役全員に送付する案を出しました。

冨山:日本的特性として、ポジティブなインセンティブを与えるよりも、松本さんのおっしゃった取り組みや、私が携わったコーポレートガバナンス・コードの策定のような、「お上の言うことを聞かないとペナルティを受けてしまう」という状況にすることで、サラリーマン型の経営者は友達を裏切ることができるのです。友達に対して「お前が嫌いだからリスクを取るのではなく、某に理不尽なルールを押しつけられたので、悪いけどリスクを取って安定を捨てるよ」と言うことができます。本当に日本的な特性ですが、松本さんや私のような人間がいわゆる悪者になるということが大事ですね。

井村:言い訳を作ってあげることで、東証がようやく重い腰を上げ始めた今が、経営者にとって良いタイミングになるということですね。

計画書にはかなりの効力があり、「株主還元を某年に某パーセントに上げます」というようなヒントが記載されていますので、投資家のみなさまも改善計画書などを読んでいただくと投資のヒントになるかと思います。

松本:今回は本決定ではありませんが、計画や経過措置の間に全部クリアできなかった場合に、東証はすべて監理銘柄へ入れる、思い切ったことを言いました。

井村:上場廃止にさせるということですか?

松本:例えば、10年の改善計画を出した会社があった場合、改善計画書では上場廃止にはしないものの、3年経ったら監理銘柄には入れるとしています。

井村:上場廃止にはしないが、計画達成させるまでずっと監理銘柄に指定され続け、見世物状態になるということですね。

松本:はい、今度はそこまで踏み込みました。

冨山:執行猶予、保護観察のような状態ですね。

テスタ:「廊下に立っていろ」と先生に怒られている感じですね。

井村:1つ目のテーマでかなり時間を使ってしまいましたが、熱い議論をいただきました。ありがとうございます。

日本と海外の経営の違い

井村:続いて、「日本と海外の経営の違い」という2つ目のテーマに移りたいと思います。スライドに記載されているデータは横軸が企業年齢で、右に行くほど年数の経過を表しています。縦軸はROA、つまり利益率とお考えください。

青い折れ線グラフが米国企業です。年を取っても利益率が高いままということが見て取れると思います。対して、赤い折れ線グラフが日本企業です。10年目をピークに、それ以降は利益率が悪化する一方だということが顕著に示されています。

日本企業の場合はROAの分母となるような総資本を過剰に蓄え続ける傾向があります。一方で、分子となる利益のところで低収益な事業を止められずに続けていった結果、利益が伸び悩んでROAも悪化していくように読み取れます。なぜこのような違いが生まれるのか、専門家の知見と経営的な視点から冨山さんにお聞きしたいと思います。

冨山:先ほどの話とつながりますが、結局日本の企業モデルというのは「有機的な村」のような感じです。事業の寿命は長くて30年で、最近では10年ぐらいで事業の中身が入れ替わってしまいます。最近の入れ替わりは特に激しく、野球からサッカーに変わるぐらいの変化が起きています。

先ほどの例えで表すと、同窓生仲間はみんな野球選手なのです。「これからはサッカーをやらなきゃ駄目なんだよ」「でも誰もサッカーなんてできないよ」という話になるわけですが、どうするのかというと、野球選手にサッカーをやらせることになるのです。その結果、ミゼラブルな敗退戦を繰り返したというのが、この30年間のデジタル領域で起こったことです。

野球選手だけの集まりで何が起こるかというと、儲からないことはわかっていても止められずに野球を維持するわけです。これが低収益事業です。また、新しい事業に関しても選手の入れ替えができずに野球選手だけで無理に進行するため、儲からずにアセットばかり積み上がります。

井村:そうしてどんどん多角化していき、低収益の事業ポートフォリオが出来上がるということですね。

冨山:そうです。当然アメリカもヨーロッパもすごい勢いで事業内容を入れ替えています。事業ポートフォリオも、組織機能のポートフォリオも、人も入れ替えているのです。

井村:新陳代謝ができているということですね。

冨山:日本は、基本的に新陳代謝を嫌うのです。これは日本社会全体の問題で、例えば先ほどの岡藤さんの話に紐づけると、日本が世界の中で最も低いのは廃業率と起業率で、先進国の中でも顕著に低く、さらに成長率も低いです。この3つは明確に相関しているため、会社内においても産業レベルで新陳代謝をさせないと、収益率は戻りません。そのため、くどいようですが松本さんや私が悪者になっているというわけです。

井村:なるほど。先ほどの議論とけっこう関連するところがありますね。経営の違いに関して、登壇者の方からご意見ある方はいらっしゃいますか?

松本:アメリカの場合は、やはり上場企業は成長し続けないと株主が黙っていないため、とにかく成長しないといけません。成長するために「成長性が落ちた事業は誰かに渡す」といったことを常に行っています。

日本は「何かをやめる」、つまり排出することが非常に苦手です。日本とアメリカの生産性の差を見ると、ほとんどが「やめる」ことがきちんとできているかで説明できてしまうような要素です。

日本も、生産性が落ちてきてしまった事業部などは、新興企業で、新しい考え方のビジネスに高い生産性で取り組んでいる会社へ渡してしまいます。そうすると、新興企業は古くから続く企業のブランドや販路を得られますし、古い企業は生産性が落ちたものを外すことができ、全員にとって生産性が上がります。そのようなことがアメリカでは一般的に行われていますが、日本はずっと抱えてしまいます。そのような状況を今後変えていく必要があります。

井村:社会的に俯瞰して見た時に、おそらく社会的に総余剰が拡大するようになります。非効率同士が固まって、効率的な事業として出来上がるということですね。

松本:例えば、A社とB社は両方とも、甲と乙というビジネスを行っています。しかし本当は、A社は甲が得意で、B社は乙が得意です。そうすると、事業をスワップしてAに全部甲を集めて、Bに乙を集めたほうが効率は良くなりますし、世界におけるA社、B社の甲と乙に関するシェアも上がり、非常に強くなります。

井村:規模の経済も利くようになり、あらゆる面で経営が効率化されますね。

松本:人を減らそうということではなく、単純に生産要素を交換するだけで全体の生産性を上げることができるはずなのに、今の日本は非常に止まってしまっています。

おそらく昔は、財閥、銀行や経産省などが行っていたのですが、それを世間が「持ち合いは駄目だ」「経産省があまり言うな」「財閥は解体」と言い出したことで、誰も手出しできなくなり、そのような交換が起きなくなりました。

冨山:ガバナンスが空洞化してしまったのですよ。そのせいで、先ほどお伝えした「同窓生モデル」で停滞している方向になってしまっています。

井村:ここでも、ガバナンスの問題があるということですね。

冨山:そこを修正するだけで、生産性の向上余地は非常にありますよね。

井村:なるほど。

冨山:実行するだけで、今のグラフの半分ぐらいの位置まで上げられると思います。

井村:イェスパーさんもいかがでしょうか?

イェスパー:これは外国人投資家の目から見てすばらしいことであって、やはりサクセスストーリーもあるのです。レガシーが高いファナック、あるいはソニーにも言えるのですが、一度会長や社長を変え、本業のビジネスで世界一になりたいという気持ちがあります。ただし、本業のビジネスだけではなく、財務部門でも世界一になりたいという気持ちも必要です。

財務でトップになると本業が少し下がるということがないわけではありませんが、やはりゼロサムゲームということで、基本的には本業でトップになると財務でもトップになります。そのため、実は外国のアクティビストは日本が大好きなのです。天国なのです。

サクセスストーリーはだんだん出来上がってくるものです。ファナック、ソニー、オリンピック、セブンイレブンなどがそうです。また、松本さんのおかげでアクティビストファンドのポジションも上がってくると思います。

井村:アクティビストの活動によって成功事例がどんどん積み上がってきていて、外国人もそれを認知しているため、同じことを他の日本企業でも繰り返すということですね。

冨山:英語で言うところの「ローハンギングフルーツ」、つまり低いところにぶら下がっているおいしい果物がたくさんあるわけです。

井村:では、けっこうおいしい果物に見えているということなのですね。

冨山:「だったら、このぐらいは成果を出しなさい」ということになるのです。

井村:なるほど。外圧から日本企業が自発的に変わっていくチャンスになるかもしれないというところですね。

アクティビストの存在意義

井村:最後のテーマは「アクティビストの存在意義」について議論したいと思います。アクティビストからの外圧によってあるべき姿に変わってもらおうという、圧力をかける点も存在意義の1つにあるかと思います。冒頭でもテスタさんにお聞きしましたが、今の議論を聞いて、アクティビストの存在意義について考え方の変化やアップデートがあったかと思うのですが、どう思われましたか?

テスタ:そうですね。簡単に言うと、株を買って文句を言って株価を上げて、それで売るというのが、私の中でのアクティビストファンドの存在意義です。

井村:厳しい言い方ですね。これまでの話ですと、企業と並走しつつ、企業価値を向上させるパートナーということになると思いますが。

テスタ:自分が株を持っている会社だけに言うのではなく、日本全体の企業へ意見を言うのであれば、それは利益を得なくてもできると思います。それはできないのでしょうか?

井村:いや、利益を得るというインセンティブがあるからこそ、まずアクティビストが動いているということがあると思います。

テスタ:お金を儲けるためということを大前提としているのに、それを言わずに「日本のためにこうしたほうが良い」「会社をこうしたほうが日本全体のために良い」と言っているのは、周りから見ると、自分の持っている株を上げたいだけに見えます。

井村:「自分が儲けたいだけじゃん」と見えるということですね。

テスタ:そう思っている人が多いと思います。

井村:たしかに外から見ると、「配当を上げろ」「資本効率を上げろ」ということは、一昔前の「配当を上げろ」ということを言い換えているだけで、結局自己資本を圧縮するようなことを行うため、「結局儲けたいからやっているだけじゃないか」と見えるということですね。これに関して、松本さんはいかがでしょうか?

松本:もちろん投資してくれている人たちは「日本が変われば良い」「会社が良くなれば良い」とも思っていると思いますが、ファンドを運用している人間は受益者に対してプロとしての責任があるため、一番大切なことは、やはり「儲けてほしい」ということだと思います。当然、運用者の責任として儲かることをやるべきだと思います。

ただ、お金というのは非常に面白くて、やはり生産性を上げたほうが儲かりますし、会社を良くしたほうが株価は上がります。

もちろん、ただ単に「会社の中にある現金等を全部払い出せ」といって、全体の時価総額は下がっていき、企業価値も株価だけ上がって、株を持っている人だけが儲かるという本当にひどい企業もあります。そのような間違ったお金の使い方をしているところへプレッシャーをかけて、正しいお金の使い方をさせることで、株価も企業価値も時価総額も上がることを狙っているのがエンゲージメント運用だと思います。

井村:今の話に出てきたところを少し突っ込んでうかがいたいのですが、マーケット内で金に物を言わせて、株式を10パーセント、20パーセントと買い、議決権をかなり買い占めた後に発行体の方と協議して、自己株を高値で、すべてTOBで買い取らせるようなこともある種の節税スキームにもなっていると思います。みなし配当を利用したスキームやアプローチについては、どのように感じられますか?

冨山:根本論として、日本はフィデューシャリー・デューティーがはっきりしていない国なのですよ。

井村:顧客優位ですね。

冨山:はい。仮にアメリカで同じことを行った場合、下手すると一般管理職が訴えられてしまい、企業価値が毀損します。アメリカではフィデューシャリー・デューティーがはっきりしていて、10パーセント以上の株式を保有した場合にはおそらくフィデューシャリー・デューティーが発生するため、このスキームはできません。全体の企業価値を毀損させないためにできないようにしているのですが、なぜか日本の商法学者では反対の声が多く、フィデューシャリー・デューティーの義務が法定されません。

井村:仮に「過剰資本を抱えていた会社の資本を吐き出させただけ」という場合には、企業価値が毀損されているかは一言では言えないと思いますが、どうなのでしょうか。

冨山:仮に、その後で株価が下がったとしましょう。そういった時に少数株主がそこを訴える可能性があります。そのリスクをみんな嫌うため、そのようなことをやりません。せいぜい9パーセントぐらいしか保有しないため、そこまで迫力が出ないのです。

今この国にはいろいろな意味で歪みがあります。まっとうなエンゲージメント型のアクティビストをエンカレッジしたいのであれば、絶対にフィデューシャリー・デューティーを確立しなければ駄目です。

松本:日本の法律や制度の中では、少数株主の権利保護が弱いのです。技術的には、そこをしっかりさせるのが一番簡単で、かつ効果があると思います。

広木:先ほどのテスタさんで、「結局アクティビストは自分が儲けたいから行っているだけではないか」という話で、それはそれで良いと思います。アダム・スミスみたいに、みんなが勝手に「自分はこうやる」と動いて、それがすべて集まった結果、社会全体が良くなれば良いというのは1つあると思います。

しかし、先ほどのビデオの中でレオス・キャピタルワークスの藤野さんが、「投資家だけでなく社会全体がアクティビストのような活動をしていけば良いのではないか」と話していました。

例えば、GPIFという大きな年金がありますが、今はそれをユニバーサルオーナーと呼びます。あのような人たちはあまりに巨大すぎて個別企業に投資できないため、マーケットをすべて買うしかありません。

そのような場合に、結局「ここの企業だけ良くなってほしい」では駄目なのです。社会全体が底上げしていかなくてはいけないため、「ESGだ何だ」と言ってエンゲージしていくわけです。それをGPIFだけが行うのではなく、多くのアクティビストファンドが行い、かつ個人投資家もアクティビストのような活動をすれば、「自分は儲けたい」と思いながらも、その動きが企業を良くし、社会を良くすることにつながるのではないかと思います。

井村:なるほど、ありがとうございます。藤野さんのお言葉にもありましたが、アクティビストは自己資本を単純に吐き出させて、去った後に企業価値が毀損されるようなかたちではなく、並走して、むしろアクティビストがいなくなっても企業価値が上昇するように仕上がらなければ美しく見えないのではないかと思います。

質疑応答:パネルディスカッションのテーマについて

井村:では、ここで質疑応答の時間に入りたいと思います。こちらで拾わせていただきますので、質問がある方は会場の中で挙手を、オンラインの方はチャットに書き込みをお願いします。せっかくの機会ですので、思い切って挙手をお願いします。

質問者:ご講演ありがとうございました。パネルディスカッションのテーマについてです。なぜこのテーマでお話しされたのかをお聞きしたいです。冒頭の講演で、楠木先生は「『日本』のような大きな主語で話をすると、やや論点がぼやけてしまう」という話をされていたと理解しています。

例えば、メルカリと日本製鉄のように、ビジネスモデルや収益構造、対象にするターゲット顧客などはまったく違うと思われます。そのため、自分としてはやはり企業というものを個別で判断していき、議論をするべきではないかと思いました。

その話があった後に、なぜパネルディスカッションでは、「なぜ日本の株価が上がらないのか」、なぜ海外と日本を比べて「海外はどうで日本はこうだ」のような、主語がやや大きいテーマでお話しされたのでしょうか?

井村:ありがとうございます。「もっと具体的な話をしてください」といったような、ある種のダメ出しのようなご意見ですが、いかがでしょうか?

松本:先ほどもお話があったように、東証プライムの上場企業の半数がPBR1倍割れをしています。これは個別の問題もあるものの、全体の問題もあるのではないかとも思うのです。

私のイメージでは、日本は鉄下駄を履きながら競争しているにも関わらず、銅メダルになっているような印象です。お金を貯める一方だったり、年功序列のようなことが多々あったり、安定志向が強かったりする企業ばかりです。それでもなお、GDPは世界で3位ですが、それは個別でいろいろと努力している会社がたくさんあるからだと思います。

全体の枠組みをもう少し改善できれば、全体の底上げになって、より良くなるのではないかと感じています。実際の運用はまさに個の世界であるものの、全体のことを議論する意味があると思い、このようなテーマになりました。

井村:ありがとうございます。付言すると、第2部にもパネルディスカッションの時間がありますが、そこではタブーがないと聞いています。

例えば、今ストラテジックキャピタルが日本証券金融に対してエンゲージメントを行っており、直近の2月7日に臨時株主総会が行われます。話せることも話せないこともあると思うものの、それにどう位置しているかということも、私は気にせず聞かせてもらいたいと思います。

加えてありあけキャピタルの田中さんには、北國フィナンシャルや千葉興業銀行などにエンゲージメントされていることに関してなど、かなり個別具体的な例も聞けるというところもありますので、いったん今回のパネルディスカッションで全体感をご理解いただいた後に、個別のところもご理解いただくという構成になっていると思います。

質疑応答:長期的なエンゲージメントの時間軸について

質問者:松本さんにおうかがいしたいのですが、マネックスのアクティビストファンドで、「長期的なエンゲージメント」の「長期」というのは、具体的にどのくらいの時間軸で考えているのでしょうか?

井村:これは少し厳しい質問です。時間効率、時間利益という考えでいうと、いかがでしょうか?

松本:長くて3年だと思います。ただし、金融商品のリターンはやはり時間当たりのリターンが高くないといけないため、投資家の方はやはり短いほうが本当は欲しいのだと思います。

要するに株主総会に来なければいけないというようなこともあるため、最大3年でエンゲージメントプランを考えています。しかし、エンゲージをかけてある程度の変化を起こそうとしたものの、その結果、株価や企業の中に変化が起きてくると次第にアップサイドが小さくなってきます。

そうなれば、また違う会社で3年ぐらいのプランを考えて「この程度アップサイドがあるのではないか」というものに乗り換えていったほうが良い場合もあると思いますし、そのように、ある意味どんどん乗り換えていくといったようなことは行っています。

井村:期間におけるリターンを意識しながらエンゲージメントもかけられているということですね。

私は第2部のパネルディスカッションで、本当に打ち合わせなしでお聞きしたいと思っていることがあります。セプテーニにエンゲージメントをかけられており、昨年の3月のリリースでカタリスト投資顧問からリリースが出ていることについてです。

直近の株価の動向を見ると、セプテーニがかなり下がっているという状態になっており、こちらの案件は今どうなっているのかということは気にしています。加えて佐藤社長とどのような協議をされており、またどのように仕上げていくのかということは、株価の位置的にも非常に気になっています。

そのことについて話せるか話せないのかわかりませんし、今すでにお話ししてしまっていますが、聞けるならば聞きたいと思っています。

テスタ:しかし、この何年かコロナ禍で人を入れられなかったものが、入れるようになったというのはいいことですね。

井村:確かに、リアルの会場で開催することはなかったですね。

質疑応答:ファンドのボリュームと影響力について

質問者:最初から非常に良い講演だったと思います。マネックスファンドの対象先なのですが、例えばどのような規模感や特徴のものをターゲットにしているのでしょうか? また、ファンドを持ったからといって影響力があるのかどうかわかりませんが、そのボリュームと影響力の関係について教えてください。

松本:マネックス・アクティビスト・ファンドは200億円程度とまだ小さいため、当然持てる議決権の数というのはあまり大きくありません。ただし、我々の各企業に対する影響力というのは議決権の多さではなく、直接CEOなどと対話できることです。

一般のアクティビスト・ファンドの人はあまり頻繁にいろいろと話せるわけではないと思うのですが、私はいろいろな人脈もありますし、業界に長く携わっているために相手が私を知っており、「松本なら」ということで会ってくれるなど、いろいろな機会があります。小さい会社はあまり行わないものの、中規模からかなり大規模な会社まで、トップに直接会って話をして、それによって変えようとしています。

基本は2つあると思いますが、まずはもともと良いビジネスがある会社というのが重要です。駄目な会社をバラバラに分解することで株価が上がって少し儲かるというようなことは行っても仕方がありません。

一方で、やはりリターンを出さなければいけないため、例えばキャッシュが大量にあるといったように、つつくことによって短期的にも株価が上がるという要素があり、かつ良いビジネスを展開しているのであれば、そこを残して良くないビジネスをほかの会社に移すなどして、さらに全体の企業価値も上げていけるような対象を見つけて投資を行い、企業のトップや社外取締役と話をして、変化を起こしていくといったことも行っています。

井村:ありがとうございます。第2部のほうでもアクティビストに勢ぞろいしていただき、投資対象をどのように選定しているのかといったところもお聞きしたいと思っているので、そちらもぜひご参考にいただければと思います。

質疑応答:海外のアクティビストによる日本企業へのエンゲージメントについて

井村:時間の関係上、残り1問ということで、せっかくオンラインで書き込みをいただいていますので読み上げます。

「海外のアクティビストによる日本企業へのエンゲージメントについてはどのように見ているのでしょうか?」というご質問です。後ほど、オアシス・マネジメントのセスさんからプレゼンテーションがあると思います。香港のファンドであるオアシス・マネジメントがフジテックに対するキャンペーンを行っていることについてどのように見ているのか、どなたかご意見をいただきたいのですが、いかがでしょうか?

冨山:このようなアクティビストの議論について毎回思うのは、ファンドがどれだけ中身の濃いことを言っているかです。私はどちらの立場にも立つことがあるため、今回は言われる立場としてお話しします。

そのケースの詳細は知りませんので、やや抽象論になりますが、もしも議論に来て言うことが、先ほど出たような株の買い取り償却と配当を増やすことだけならば、私に言わせれば「こちらはそんなくだらないことを議論するために大事な時間を使いたくない」と思うわけです。

しかし、この議論が、先ほど松本さんが言われたような事業の中身や入れ替えをどうするのか、組織能力をどう強化するのかといった、おそらく会社内では社長の顔を見て言いにくいような、本質を突いている真っ当な経営論をズバリと言ってくれるのならば大歓迎です。つまり問題は、そこでどのような議論がされているかなのです。

井村:国内、海外問わずアクティビスト側の問題ということですね。

冨山:国内か海外かは関係ありません。ちなみに、アナリストや機関投資家と会って話をした場合は、残念ながら今のところロンドンやニューヨークのほうが中身は濃いです。

それこそオムロンクラスの会社になると本気でカバーしている方がいますので、そのような方は非常に深い分析をしているため、議論のクオリティが高くなる場合が多いです。私はそのような海外のクオリティの高い人が入ってきて、非常に中身の濃いエンゲージメントを行ってくれるのは大歓迎だと思います。

井村:なるほど、わかりました。議論の本質が大事だというご回答でした。補足があればお願いします。

松本:このセッションの後にオアシス・マネジメントのセス・フィッシャー氏のビデオが流れますが、おそらくフジテックの話をされると思います。前振りとしてお話ししておくと、セス・フィッシャー氏は日本で非常に評判が悪いです。「もうオアシスだけには関わりたくない」という発行体は多いのです。

しかし、実際にセス・フィッシャー氏と話してみると非常に知性があり、日本の企業のことを深く考えていますし、日本の企業の株価はもっと上がると考えています。そのような中で、フジテックに関してはセス氏の逆鱗に触れたと言いますか、「こんな会社を許しておいていいのか」と怒ってしまったのです。

まだ私も見ていないのですが、ビデオの内容はおそらくザラザラした内容だと思います。しかし、本当は日本企業全体に対して前向きに考えているため、その中で立腹されているという前提で見ていただければと思います。

井村:なるほど。オアシス・マネジメントのサイトなどでも、キャンペーン資料を日本語版で開示されています。自分が読んで「おっ」と思ったのが、「フジテックを守るために」と言っていることです。

「金を吐き出させよう」というような発想ではなく、「日本企業のガバナンスを直すことで企業の統治をもう1回見直し、フジテックの例を他の企業に横転換していけば、日本はもっと強くなるのではないか」と考えているといった印象です。

冨山:その流れで一言お伝えすると、この国では会社を守ることと経営者個人の保身が混同されることが確かに多いです。松本さんのお話を聞いていると、私もしばしばそのような立場にあったため、そこで感情的になる人が多いということは少なからず起こっていると思います。

井村:経営者が保身だけではなく、本当に企業のことを考えて経営しているかどうかをガバナンスの観点から監視するということは、ある種アクティビストの活動の意義・役割として必要だと思います。

メッセージ

井村:以上で本日のセッションは終了です。最後に、冨山さんから一言ずつ順番によろしくお願いします。

冨山:会社の基本的なガバナンス構造は間接資本民主主義です。1年に1回行われる株主総会は、いわば総選挙です。ここで国会議員たる取締役を選び、その取締役が内閣総理大臣たる経営者を選ぶ仕組みなのです。つまり、総選挙がきちんと行われないと、この仕組みは機能しません。そのためにアクティビズムが大事なのです。

先ほどあったように、もしみなさま一人ひとりが資本民主主義の中の選挙権を得ようと思えば、やはり株式に投資し、ある意味で健全なアクティビズムを育む必要があります。それはファンドもそうですし、個人でも行うということが、実はこの国の資本主義を長期的に健全化して伸ばす根本になります。みなさま、そこはぜひがんばってください。

井村:ありがとうございます。続いてテスタさん。

テスタ:そうですね、私はあまり知識がなく来たのですが、お話にあったような日本の問題などがいろいろ根付いているのだと感じました。また、先ほども言いましたが、このようにみなさまの顔を見ることができるのはやはり良いですね。そして1つだけ発見してしまったのですが、なぜか関西にいるはずの私の母が見えるのです。

井村:お母さまが? 本当ですか?

テスタ:来るとは聞いていなかったのですが、おそらくそうだと思います。そのために、私は途中からずっと手汗が止まらないということがありました。

井村:そうですか。いいですね、愛されていますね。ありがとうございます。続いて広木さん、お願いします。

広木:最後の質問で、冨山さんの経営者の方針と会社を守ることとの違いというお話を聞いて思い出したことがあります。ちょうど私たちが証券業界に入った1987年に封切られたオリバー・ストーン監督の『ウォール街』という映画で、マイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーが株主総会に乗り込んでいき、彼の名言となった「Greed is good」、つまり「強欲は善だ」と言うわけです。

「資本主義の根底にはグリードがあり、結局はそれがこのテルダー製紙を守り、機能不全に陥っているアメリカを守るのだ」という言葉がありました。それは非常に印象深く、30数年経ってもまだ覚えています。

先ほどの議論でもずっと言っていましたが、個々のアクティビストは強欲に駆られて行動しているかもしれません。しかし、それが集大成となると、結局は資本主義の根底が社会を突き動かして、善につながっていくのではないかと思いました。ありがとうございます。

井村:すばらしいです。拍手を送りたいようなお言葉でした。会場からも拍手をありがとうございます。それでは、イェスパーさんもお願いします。

イェスパー:「Activism is fan」です。もちろん、デイトレードで「これを買ったら上がった。良かった」と赤提灯で一喜一憂することは、いつでもして良いと思います。しかし、アクティビズムというのは投資家が責任を持ち、会社を良くするために経営者たちと対話することです。

経営者たちも狭い世界で動いているため、誰も作戦を立てられないと思いますが、世界は広くいろいろなことがオープンになっています。日本人は島国構造のため、怖いことかもしれませんが、やはり投資家が責任を持って対話し、「このアイデアは?」「あのアイデアは?」とリフレッシュしていくことが大事です。そうすると、会社だけではなくて産業も日本も良くなるのではないかと思います。責任を持ちましょう。

井村:なるほど。個人も、もっと経営などに興味関心を持ち、発行体に意見として伝えることこそが責任でもあり、日本を強くするということですね。ありがとうございます。では最後に、松本さん。

松本:私は後ほど、まとめてお話しします。

井村:そうですね、時間の関係と、フォーラムの最後のまとめもありますね。お時間となりましたので、次の第2部であらためてお話をうかがいたいと思います。先ほど少しお話ししたような日本証券金融やセプテーニの件など、本当にどこまで話して良いのかわかりませんが、できる限り聞いていこうと思っています。せっかくなのでみなさまもお付き合いください。

以上をもちまして第1部のパネルディスカッションを終了します。みなさま、どうもありがとうございました。

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