2000年代からフリーターを選んだ若者たちは現実を知ることになった。フリーターというのは、「企業が低賃金で若者を雇って好きな時にクビを切る使い捨ての人員だった」という現実だ。最近、日本政府は「リスキリング」を強調しているのだが、その意味は何なのか?(『 鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編 鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編 』)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
政府は「同じ会社に長く勤める」メリットを無くそうとしている
現在、日本では勤続20年を超えた人の退職金には「所得税の軽減措置」がある。今までは、勤続20年までは控除額は40万円なのだが、20年を過ぎると控除額が70万円に増額される。
つまり、20年以上働くと控除額が大きいので、退職金をもらえる額が増える。そのため、退職金を1円で多くもらいたいと思う就労者が「勤続20年まで会社を辞めない」という選択を取ることもあった。
これは終身雇用の中でできあがった制度だったが、すでに企業は終身雇用などできるような体力もないし、要らない人材は切り捨てたいというのが本音なので、できれば長く勤めたら得する報奨(インセンティブ)を取り除きたい。
こうした意図を汲み取って、いよいよ岸田首相は『新しい資本主義実現会議』の中で、軽減措置の見直しを検討することを発表した。「所得税の軽減措置」を外して、長く勤めても退職金が多くもらえることもなくなる。
税金の控除を外すというのは、要するに税金が増えるということでもある。増税されたのと同じ効果がある。「控除を外す=見えない増税」である。この点はインボイス制度で免税事業者を課税事業者にするのと同じ発想であると言っても良い。
人材の流動化=クビを切りやすい環境にすること
政府はこれを「人材の流動化を促進する」という言い方で進めているのだが、「流動化」というのは、誰が考えても「クビを切りやすい環境にすること」なのだから、中高年を切り捨てる政策が進んでいるということなのである。
どこかで見た光景だとデジャブーに浸る人もいるだろう。そうなのだ。これは「あの時」と同じものだった。
1990年代の後半。もう若者を終身雇用で雇う余裕のなくなり、使い捨ての人材が必要だと思うようになった日本企業は、急激に正規雇用とは別に「非正規雇用」という雇用を増やしていった。
日本の大企業は、経団連やら経済同友会みたいな団体を通して日本政府に非常に強い影響力を及ぼすので、日本企業が「年功序列も終身雇用もやめたい」となったら、その政策を日本政府が行う。
それで、国をあげて非正規雇用の拡大に突き進んでいったのだが、これに対して若者たちは反対したのかというと、しなかった。なぜなら「非正規雇用は自由な働き方」とか「新しい時代のスタイル」とか言われて、まるで素晴らしいことのようにマスコミにも喧伝されたからだ。