6つの期間
これらのパラメーターから見ると、覇権国は次の6つの期間を経過して繁栄から衰退に向かう。
1)平和と繁栄
2)金融バブルと格差の拡大
3)バブルの崩壊と景気後退
4)通貨の印刷と信用の拡大
5)内戦と戦争
6)債務の清算と新しい覇権国による世界秩序の再構築
以下がこれらの期間の具体的な特徴だ。
<(1)平和と繁栄の時期>
まず、このビッグサイクルの出発点は大きな戦争の後にやってくる。この時期に新しい覇権国を中心とした世界秩序が形成される。戦争の後なので、新しい覇権国に挑戦を挑む国はない。その結果、平和と繁栄の時期がやってくる。
<(2)金融バブルと格差の拡大>
平和と繁栄の中で投資が活発となる。信用の供与は拡大し、債務は増大する。これは金融バブルの発生に結果する。このとき、覇権国の経済力は強く、世界貿易におけるシェアも大きいので、覇権国の通貨が世界の基軸通貨となる。
しかしこの繁栄期は、富が異なった社会層に不平等に配分されるので、格差の拡大期でもある。富裕層とそうではない層との格差は一層拡大する。
<(3)バブルの崩壊と景気後退、(4)通貨の印刷と信用の拡大>
しかし、バブルはいずれは崩壊する。すると中央銀行は、経済を維持するために一層多くの通貨を印刷するが景気の後退は続く。
<(5)内戦と革命>
一方、社会的格差の拡大は富裕層と貧困層の対立を激化させ、富の再配分を強いるなんらかの革命に至る。これは平和的に実現されることもあるが、内戦に至ることもある。
このとき、政府の第一の責任は完全な崩壊を回避することにある。しかし、政府の財政が行き詰まり、社会矛盾緩和の財政支出ができなくなると、システムは崩壊し、内戦を抑制できなくなる。
<(6)覇権を転換させる大戦争>
国内の混乱によって、覇権国の国力は衰退する。反対に、競合国の力が増大して覇権国に挑戦できるほどになると、紛争の発生から戦争が起こる。これらの内戦と外国との戦争から、新たな勝者と敗者が生まれる。その後、勝者が集まり新しい世界秩序を形成する。そして、新しいサイクルは続く。
この覇権国の興亡のサイクルは、古代ローマ帝国から続き現代に至る。このサイクルの歴史は他のサイクルの歴史と融合して、我々の集合的な歴史を形成している。
覇権国の興亡
これらの過程を、覇権国の「上昇期」「成熟期」「衰退期」の歴史的段階にさらに分けて整理すると、次のようになる。
<(1)上昇期:平和と繁栄>
●ステージ1:新しい秩序の始まり
ステージ1は、革命が終了した後に発生する。革命に
は2つのステップがある。
ステップ1:確立された旧い秩序を打ち破って勝利する。
ステップ2:権力を回復し、以前の秩序に忠実だったすべての人を粛清。
粛清は、特に勝利した権力者が闘争する場合には、革命そのものよりも残忍である場合がある。革命に勝利した指導者は、軍事戦略(敵を破壊する)から政治戦略(建設と協力)に移行する必要性を理解する必要がある。
ステージ1は、全員が再構築を希望する時点で終了する。
●ステージ2:構築段階
このフェーズは初期の繁栄のフェーズだ。次のような特徴がある。
・健全な政府財政
・高い労働生産性
・活発な生産的投資と研究開発
・小さい社会的格差
・異なった社会層で共通の価値観を共有
こうした状況で、新しいシステムが成功するには、ほとんどの人々、特に大規模な中流階級に繁栄をもたらす必要がある。この段階での最良のリーダーは、構築し、妥協することができるリーダーだ。
例:毛沢東は戦争の指導者であり、トウ小平は平時の指導者だった。
●ステージ3:平和と繁栄
多くの創造性、革新性、生産性。収入が増えるので借金も返済できる。
このとき、リーダーはインスピレーションを与えることができる先見の明のある人物でなければならない。リーダーは次のことができる必要性がある。
・刺激的な未来の絵を描く
・実際に国民にそれを実感させる
・報酬を獲得して再投資させる
・健全な財政を維持する
・良好な国際関係を追求する
例:ウィリアム・グラッドストン、ビスマルク、鄧小平。
このステージに止まる期間が長ければ長いほど国は繁栄する。
このときリーダーは、次のリスクを回避する必要がある。
・社会経済、仕事、価値観、機会、収入の格差の拡大
・ステータスに応じて特権を得るエリート主義
・生産性の低下
・過剰な借入につながる財政悪化