モスクワのコンサートホールで大規模なテロが発生した。これはウクライナが犯人であるとプーチンは主張しているが、その可能性について検討したい。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
モスクワのテロの首謀者はウクライナか?
3月22日夜、アサルトライフルで武装した武装集団が、ロックバンド「ピクニック」のコンサートが始まる直前に、モスクワ郊外のクラスノゴルスクにある音楽会場「クロッカス・シティホール」を襲撃した。7,500人収容の会場は、襲撃時にはほぼ満席だった。テロリストは警備員を殺害し、コンサートに来ていた人々を射殺した。
テロ事件後、ロシアの治安当局は、テロを実行した犯人と思われる人物を含む11人の関係者を拘束した。モスクワの「バスマニー裁判所」はその後、テロ攻撃の組織化に協力した罪に問われている他の容疑者4人を逮捕した。「タス通信」によると、彼らはタジキスタンの市民であることが公式に確認され、25日の審問で2ヶ月の拘留が言い渡された。
「タス通信」によると、サイダクラミ・ムロダリ・ラチャバリゾダ、ダレルジホン・バロトビッチ・ミルゾエフ、シャムシディン・ファリドゥニ、ムハマドソビル・ファイゾフの4人は、「人の死に至らしめる集団によるテロ攻撃」の罪に問われている。4人全員が有罪を認めた。
犯行声明を行ったのは、アフガニスタンに拠点を持つ「ISホラサン州(ISKP)」だ。「ISKP」はアフガニスタンを支配している原理主義勢力、「タリバン」に敵対し、アフガニスタンとパキスタンでテロを続けている勢力である。22日未明に犯行声明のビデオを公開した。そこには、4人の実行犯と、彼らが撮影したコンサートホール襲撃の動画も公開された。
ロシアはウクライナが「黒幕」だと考えている
そうした中、ロシアは実際の首謀者はウクライナである可能性が高いとしている。25日、プーチン大統領は、治安機関トップや関係閣僚らと対策会議を開き、イスラム過激派による犯行との認識を初めて明示した。一方で「誰が依頼主なのかに関心がある」と話し、「黒幕」としてウクライナや欧米が関与しているとの見方を強く打ち出した。
プーチンは「我々は今回の犯罪がイスラム過激派によるものだと認識している」としつつ、「事件で誰が得をするのだろうか」と疑問を提起した。その上で「2014年以来、ネオナチのキエフ政権を使って我が国と戦ってきた者たちによる試みの一環かもしれない」と主張し、ウクライナを支援する欧米が「首謀者」との見方をほのめかした。
また、「ロシア連邦保安庁(FSB)」のボルトニコフ長官もテロ攻撃の背後には、アメリカ、イギリス、ウクライナがいた可能性があるとした。ボルトニコフは、記者団に対し、当局は現在、ロシア国内外を問わず、テロに関与したすべての人物の身元を特定しようとしていると述べた。
アメリカ、イギリス、ウクライナがテロ攻撃の背後にいる可能性はあるのかとの質問に対し、ボルトニコフ長官は次のように答えた。「我々はそう考えている。いずれにせよ、我々は今、持っている情報について話している。これは一般的な情報だが、捜査当局も具体的な結果を持っています」。そして、「FSB」はテロ攻撃の直接の組織者とスポンサーを特定するために必要なあらゆることを行うと述べた。
ウクライナや欧米の関与を示す証拠
このように、プーチンやボルトニコフの発言が示しているように、ロシアはテロそのものは「ISホラサン州(ISKP)」が実行したとしても、背後にはウクライナや欧米の関与がある可能性が高いとしている。ウクライナのゼレンスキー大統領はこれを全面的に否定して反発し、日本を含めた欧米の主要メディアも西側犯行説はテロを防止できなかった責任の転化を狙ったプーチンの言動であるとしている。
しかし調べて見ると、今回のテロが「ISKP」というイスラム原理主義勢力によるものだとするのは、不可解な点が多すぎる。もちろん実行したのは「ISKP」だったことは疑いないとしても、この犯行がウクライナやアメリカが「ISKP」を利用して引き起こした可能性も否定できない事実も多い。
事実を簡単に整理しよう。