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ニッポンよ、邪悪になるな。Google社員の働き方に仕組みやルールよりも大事なことが隠されている=辻野晃一郎

OKRによる目標管理を最大活用

「OKR(Objectives and Key Results/目標と主要な結果)」は、もともと経営学者のピーター・ドラッカーが提唱した「Management by objectives」という目標管理の仕組みが源流と聞きます。インテルの3代目CEOだったアンディー・グローブが好んで用いたとも言われています。グーグルでは、それをグーグル流にアレンジして、OKRと呼ぶ組織運営の仕組みとして全社的に活用していました。

数値目標など、できるだけ定量的な目標(Objectives)を明確にした上で、目標の達成を評価するための指標(Key Results)をいくつか設定し、その達成度を定期的に検証しながら軌道修正を繰り返していく仕組みです。これを使って、いわばソフトウェア開発におけるアジャイル的なスタイルで経営や組織マネジメントを行っていました。

日本企業では、3年越しや5年越しの中期計画を策定し、それをブレークダウンした単年度の事業計画に基づいて事業運営するのが一般的ですが、グーグルには、中期計画も事業計画もありませんでした。理由は、世の中の変化があまりにも激しいので、3年越し、5年越しの中期計画を策定したところで、あまり意味を持たないどころか、場合によっては有害にさえなると考えていたからです。

VUCA(ブカ)とも呼ばれる予測不能な時代に、綿密な計画を作ること自体に価値を見出していなかったのと、一度計画を作ってしまうと、それに囚われて硬直化してしまうことを嫌ったのでしょう。実際に、ここのところ、米中覇権争いの激化や、新型コロナによるパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻など、短期間にさまざまな不測の事態が発生して世の中が大きく変動しています。

グーグルのOKRは、何項目かにわたる全社レベルの大きなOKRに基づいて、各部門が部門ごとのOKRを策定し、最終的にはそれに沿う形で個人個人が自分のOKRを策定し自己申告します。それを上司とのやり取りを経て調整したものが各人のOKRとなり、3カ月周期で上司と共にレビューします。レビューの結果は、本人の業績評価に反映されると共に、さまざまな状況変化も踏まえて、次の3カ月間のOKRの軌道修正に活用されるというものです。

会社全体の大きな目標を常に認識しながら、それと紐づけて自分自身の目標とその達成具合を意識し、達成度や状況の変化に合わせて柔軟に軌道修正を掛けていくことを習慣づける上で、とても有効な手法であったと思います。

日本でも、最近の新興企業などがこのOKRを真似して導入するところが出てきているようですが、一般企業ではまだまだなじみが薄い仕組みだと思います。しかし、思考停止状態で旧来の中期計画策定をルーチン化しているような企業にとっては、予測不能な時代の目標管理手法として、学べる点もあるのではないでしょうか。

グーグルの世界最強の働き方

以上、まだまだ書き足りないこともありますが、「グーグルが最強の企業になったわけ」と題して4回にわたり紹介してきました。

実は、グーグル急成長の秘密は、本稿でも幾度か触れた「グーグルの掲げる10の事実」の中に余すところなくすべて公開されている、と言っても過言ではありません。グーグルは随時このリストを見直し、事実に変わりがないかどうかを確認しているそうです。私のメルマガと合わせて、この「10の事実」の各項目をじっくりと読み解いていただければ、業態や規模の大小を問わず、どのような企業や組織にとっても、きっと有益なヒントがいくつも見つかるでしょう。

さらには、最新の取り組み含めて、情報開示に積極的な企業でもあるので、公式ブログなどでその動向にアンテナを張っておけば、今後の世の中のトレンドについて見えてくることも多いと思います。

ここ数年、日本では「働き方改革」が声高に叫ばれてきました。そこにコロナも加わって、在宅ワークやオンライン会議などもようやく普及し始めました。しかし、働き方というのは、政府や経団連の旗振りに合わせて、みんなで横並びのルールを作ってそれに合わせることなどではありません。

企業の働き方は、その企業の競争力に直結しています。グーグルが世界最強の企業になったのは、テクノロジーやデータを味方にして、クラウドやデジタルの力をフルに生かしたユニークで世界最強の働き方を、グーグルがさまざまな試行錯誤を繰り返しながら自助努力で構築してきたからに他なりません。

「より優れた働き方とは何か」を常に他社に先駆けて真剣に追求し続け、日々進化させていく……グーグルの働き方に対する向き合い方は、そのようなものであったと思います。


※本記事は、辻野晃一郎氏のメルマガ『「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年6月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に購読を。

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「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~ 「グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中」~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』(2023年6月2日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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