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キリン、ビール事業「敗北」で株価振るわず…長期投資家は買い?配当利回り3.4%と今後の成長性をどう評価するか=佐々木悠

M&Aで多角化と海外展開を加速

キリンは2000年から2010年代にかけて、海外の飲食関係企業を買収することで海外展開を加速させました。アジア・オセアニア地域を重要市場とし、オーストラリアで酒類・飲料事業を展開しているライオンをはじめ、ミャンマー・ブルワリー(2022年ミャンマーの内戦の影響で撤退)などを買収しながら海外展開を進めていきました。また、2008年には、協和発酵工業株式会社とキリンファーマ株式会社が合併し、協和発酵キリン株式会社(現、協和キリン)を設立するなど、医薬事業も展開していきました。

飲料メーカーであったキリンがバイオ医薬に参入できた背景には、ビールは酵母の働きによって味などが変わるため、生命体の生化学的な発酵メカニズムを探求していたことがあります。医薬品参入前にも、酵素やアミノ酸の製造販売実績があり、研究成果は生理学の薬剤開発まで及んでいました。既存の事業と親和性が高かったのがこの医薬事業なのです。
この海外M&Aと協和キリンの設立によって、多角化とグローバル化を達成してきました。

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出典:統合報告書 海外子会社一覧

本稿冒頭で営業利益はV字回復していると説明しましたが、その成長元となっているのが医薬事業、つまり協和キリンの利益成長です。

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出典:SPEEDAより作成 セグメント間取引による調整は考慮していない

この協和キリンの最大の収益源は、Crysvita(クリスビータ)という希少疾患のための新薬です。2018年4月から欧州・米国で販売を開始し、希少疾患(FGF関連低リン血症性くる病)に直接作用する世界初の医薬品として利益を伸ばしています。当面は特許切れの心配もなく、しばらくは貴重な収益源となるものと予想されています。

キリンが掲げる今後の成長事業

キリンが今後の成長ドライバーとして掲げているのが、健康(ヘルスサイエンス)におけるビジネスです。既存事業で培った「発酵・バイオ技術」を基に、免疫、脳、腸内環境を重点領域と定め、新たな事業の柱とする目的です。
2023年にオーストラリアのブラックモアズを買収し、アジアパシフィックを中心としたグローバルでの成長戦略を実行していく体制が整いつつあります。さらに、2019年に資本業務提携を締結していたファンケルを完全子会社化することで、この健康領域でのビジネスを強化していく方針が伺えます。

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出典:統合報告書

キリンが健康領域を重点領域とする理由は、コロナ禍で健康や免疫への関心が高まったことに加え、同社の大きな経営テーマであるCSV経営が関係しています。CSVとはCreating Shared Valueの略で、ざっくりと説明すると「社会課題を解決することを重視しながらも、自社の経済的な利益につながる」というものです。CSVの考え方をもとにすると、確かに健康事業は社会貢献につながりつつ、自社の利益を伸ばせる可能性があるでしょう。この社会的課題を解決したいという考え方に共感していることも、長期投資していく理由の一つになるかもしれません。医薬事業に加え、このライフサイエンス事業が成長していくことが期待されます。

Next: 配当金は今後も維持される?長期投資家の判断は…

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