悪徳業者を徹底的に排除している中国越境EC
今、中国のECの大きなテーマになっているのが、「を高めること」と「悪質業者の排除」です。ECにはフルマネージドモデルとバザールモデルの2つのやり方があります。この名称は確定した言い方がなく、フルマネージドは「B2C型」、バザールモデルは「S2B2C型」と呼ばれることもあります。
フルマネージド(B2C型)は理解しやすく、一般的なお店と同じです。ECが商品を仕入れて消費者に向けて販売をします。中国では京東(ジンドン)、日本ではアマゾンがこのタイプです。一方、バザール(S2B2C型)は、多数の出品業者が出品し、消費者がそれを買うというマッチング型です。中国ではタオバオ、日本では楽天やアマゾンのマーケットプレイスがこのタイプです。
フルマネージドモデルでは、品質管理はしやすくなります。ECのバイヤーが問題のある商品を仕入れなければいいだけです。ところがバザールモデルでは、品質管理がものすごく難しくなります。大量の出品業者が出品するために、そのすべてを事前にチェックすることは不可能に近いからです。多くの場合、問題のある商品が消費者にわたってしまって、それから事後で対処することになりがちです。
中国のECは、越境ECとして海外に展開をし、なおかつ株式上場もねらっていますから、このタイミングで、品質管理のレベルをあげる必要に迫られています。そこで、まず簡単に返品ができる仕組みを整え、消費者に与える手間を軽減し、同時にそのような問題のある商品を販売する業者を排除する必要に迫られています。
面白いのは、日本の楽天もバザールモデルであるのに、ゼロではないと思いますが、品質問題が日常的に起こっているということはありません。楽天の場合は、まず出店審査が非常に厳しく、その後の品質管理も労力をかけて行っています。
これは、日本のECの使い方によるところもあるかもしれません。次の図は、米国のECの返品率です。

米国のECで返品率が高い商品ジャンル。衣類と靴が56%と非常に高くなっている。全平均は25%前後になる。出典:Magneto IT Solutions
全体で平均して25%ほどになります。中国ではさらに高く30%を超え、40%に近づいているとも言われます。また、他の国もだいたい米国と同じレベルです。
つまり、ECというのは「買う場所」ではなく、「取り寄せてみる場所」なのです。まず取り寄せてみて、箱を開けて、そこで初めて商品の実物を見て吟味をし、問題があると感じたものは返品をします。オンライン出張販売システムなのです。
一方、日本の返品率は5%から10%と、非常に低くなっています。つまり、店頭と同じ感覚で「注文=購入」の意識であり、返品をするのはよほどの理由がないと申し訳ないと感じてしまうのです。これはこれで美しい日本の心で大切にすべきですが、海外の返品前提のECが入ってきた場合には不快な思いをすることも出てきます。
また、日本全体が返品を前提としないために、返品手続きは複雑なまま改善されづらいという問題もあります。そこにかかるコストは当然価格に反映されることになります。ECというのは「現物を見ずに買う」ということが大きな課題になっているため、返品しやすくすることで消費を刺激するというのが海外のECの考え方です。
中国の越境ECは、このような返品手順を非常に簡素化、合理化をして消費者が問題を感じたら返品しやすくしています。なおかつ悪質な出品業者が損をする仕組みを導入して排除するということを進めています。この点では、アマゾンなどの国際的なECよりも対応が進んでいます。
アマゾンは、自社仕入れ自社販売というフルマネージドモデルが中心であったため、品質管理がしやすく、中国のECのような品質問題が比較的起こりづらい環境でした。しかし、マーケットプレイスでの販売量が増え、さらには中国越境ECに対抗するために低価格帯商品を充実させようとすると、中国越境ECと同じように「返品のしやすさ」「悪質業者の排除」をしていかなければならなくなります。ここにECの巨人アマゾンにも隙があり、そこが中国越境ECに侵食されることに――
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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
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』(2024年8月19日号)より一部抜粋
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