無能な欧米の指導層と危機の拡大
一方、このような危機の拡大に対して、ヨーロッパの主要国の指導層は、危険なバイデン政権に追随するばかりで何もできない状態にある。
最近「西洋の敗北」を書きベストセラーになっている歴史学者のエマニュエル・トッドは大戦争に至る可能性を持つ現在の危機の基本的な原因は欧米、特にヨーロッパの指導層の無能さにあるとしている。以下にトッドの批判をまとめた。
・欧米の指導層は、ロシアは経済制裁ですぐに弱体化すると思った。これは完全に間違っていた。欧米の指導層はロシアの現実を認識することができなかった。
・これは、欧米の指導層が決定的に無能であることの証左である。これは、ウクライナ戦争だけではなく、すべての分野でそうだ。彼らはあまりに無能で統治能力がない。
・欧米では格差のあまりの拡大によって、もはや国民という概念が存在しなくなった。異なった価値観と世界観を信じる個人と小集団に分化した。エリートもそうした小集団として、彼らの世界観と価値観を妄信している。現実認識ができない決定的な無能さを示すようになった。また、おそろしく傲慢だ。プーチンや習近平との能力差があまりに巨大だ。
このように欧米の指導層、特にヨーロッパのそれは自分のイデオロギーと価値観で構築した世界に引きこもり、そのフィルターを通してしか現実を見ることができなくなっている。その非現実的な認識が、現在の危機の正しい認識を阻み、状況を悪化させているということだ。
「ネオコン」はトランプ政権にも入っている?
しかしもし、トランプが大統領に就任する来年の1月20日まで、バイデン政権が仕掛けた危機の発生を回避っできれば、ウクライナ戦争やガザ戦争の停戦と和平の実現を約束しているトランプ政権が成立し、最悪の事態は回避できる。これに期待する声は非常に強い。「ネオコン」を排除し「キリスト教ナショナリスト」が中心であるトランプ政権であれば、戦争は回避できるとの期待だ。
だが、本当にそうなるかどうかは、注意して見なければならない。すでにトランプが指名した閣僚に「ネオコン」の系列の人々が紛れ込んでいるからだ。それらの人物は、次のような発言をしている。
・セバスチャン・ゴルカ(大統領補佐官兼テロ対策担当上級ディレクター)
「プーチンは元KGB中佐だ。彼のイデオロギーは民主主義ではなく共産主義だ。大統領就任後のプーチンの行動を見ると、それはモスクワが運営する帝国秩序を復活させようとする試みであり、過ぎ去った時代への郷愁を追っている」
・マイケル・ウォルツ(国家安全保障担当補佐官)
バイデン大統領の国家安全保障担当大統領補佐官ジェイク・サリバンと会談し、政権移行期間中、両政権は国家安全保障問題に協力して取り組んでいることを証し、次のように述べた。
「ジェイク・サリバンと私は話し合い、会った。いまがチャンスだ、政権同士を対立させられると考えている敵対者たちがいるが、それは間違いだ」
このように、セバスチャン・ゴルカはプーチンをロシア帝国の復活を夢見る独裁者だと主張する。これは、バイデン政権の「ネオコン」の主張と一緒だ。ウクライナ戦争はアメリカが主導したNATOの東方拡大の結果、ロシアが安全保障上の脅威を感じたことが原因で始まったが、「ネオコン」系のブリンケン国務長官やサリバン補佐官はそのような見方を否定する。
反対に、ウクライナ戦争は、ロシア帝国の復活を目標にする独裁者、プーチンの野望が原因だと主張する。ロシアとの和平交渉による戦争の終結は、この野望を欧米が認めることになってしまうので、断固拒否しなければならない。ウクライナ戦争は、ロシアの完全な敗北で終わるしかない。これはまさに、セバスチャン・ゴルカの立場と一緒だ。
そしてマイケル・ウォルツは、このようにウクライナ戦争を見ているバイデン政権のサリバン補佐官と認識、および政策を共有しているというのだ。ウォルツもまさに「ネオコン」的なイデオロギーを信じる人物だと言ってもよいだろう。