なぜダイキンの販売実績が落ち込んでいるのか
足元では、ダイキンの販売実績が減少傾向にあります。
ここでは、その背景にある要因について詳しく見ていきましょう。
<アメリカの環境配慮>
この販売不振の背景には、2025年から環境配慮のためR410Aという冷媒(エアコンの中で空気を冷やす物質)を使用したエアコンの製造が、法律により禁止されることにあります。

この規制に対応するために、ダイキンはR32という冷媒を使用したエアコンの開発・製造を進めてきました。
R32は、R410Aよりも環境への悪影響が小さい冷媒です。
2024年になって市場では「もうすぐ製造されなくなる安いエアコンを今のうちに買っておこう」という動きが広がりました。
他のメーカーはこの機会を活かし、「今後製造できなくなる安価なR410Aのエアコンを大量生産して販売しよう」という戦略をとっていました。
一方、ダイキンは環境配慮型のR32エアコンの製造に集中していたため、市場が求める安い従来型モデルを十分に供給できず予想よりも販売数量が落ち込みました。
また販売代理店のシェアも他社に取られてしまったことから、将来的なR32エアコンの販売網も弱体化するのではないかという懸念が生じています。
市場の需要を読み違え、顧客のニーズと異なる製品の生産に注力してしまったことが、アメリカ市場における現在の状況です。
<なぜ欧州のヒートポンプ暖房の需要が減ってしまったのか>
現在、欧州の販売状況が良くない理由として、ヒートポンプ暖房の反動減が大きいと考えられます。

ロシア・ウクライナ情勢が悪化した時期に、ヒートポンプ暖房需要が急拡大しました。
ですが、ヒートポンプ暖房需要のピークが過ぎてから売上は減少傾向にあり、昨年頃からは前年比マイナスの状態が続いています。
2021年から2022年にかけて大量に導入されたため、一度設置すれば毎年買い替える必要がないのでこのような反動減が起こっていると考えられるでしょう。
また、天然ガス価格も落ち着いてきています。
ある程度需要が一巡し、天然ガス価格の高騰も収まってきた中で「わざわざ高価なヒートポンプ暖房を導入しなくても従来型の暖房で十分」という考えが広がっているようです。
このことから、欧州ではヒートポンプ暖房の需要が減っています。
ダイキンの事業戦略
先ほど、ダイキンの事業内容を紹介する章でダイキンの売上と販売実績は世界一であると紹介しました。
ここでは、ダイキンの事業戦略について解説します。
<市場最寄化戦略>
ダイキンが世界一の地位を築いた背景には、エアコンの地域ごとの特性に着目した市場最寄化戦略があります。
市場最寄化戦略とは、世界各国に生産基盤を確立して地域に合ったニーズに対応する戦略です。
実は、エアコンは地域によって求められる機能や使い方が大きく異なります。

たとえば、日本では夏の湿度が高いため、除湿機能が重要視されます。
また各部屋に個別にエアコンを設置し、それぞれの部屋で好みの温度に調整できるスタイルが一般的です。
一方、アメリカでエアコンを使うとき部屋ごとの温度調節ができません。
なぜならアメリカではダクト式と呼ばれる空調システムが主流で、建物全体の温度を一か所で管理し空気を循環させる方式が一般的だからです。
このように、地域によって求められる空調の機能や文化が大きく異なります。
ダイキンはこうした地域差に対応するため、世界27カ国に90か所もの生産拠点を設けています。
これが「市場最寄化戦略」と呼ばれるものです。
本来なら生産拠点を集中させた方が効率的かもしれませんが、地域ごとの異なるニーズにも柔軟に対応しタイムリーに商品を供給することがこの戦略の狙いです。
これが、ダイキンが業界トップの地位を保持している理由だと考えられます。
また、地域によって異なる製品特性に加え、故障した際のサポートも重要です。
水漏れなど問題が発生した場合に、現地に拠点があることで細かなサポートが可能になるというメリットもあります。
世界各地にエアコンを届けるため、現地の販売会社を適切に買収しながら地域ごとの販売ネットワークを構築してきたことも大きな強みとなっています。
<市場最寄化戦略が活かされた事例>
市場最寄化戦略が最近特に活かされた例として、ヨーロッパへのヒートポンプ暖房供給があります。
ヒートポンプ暖房とは環境に優しい暖房システムですが、その需要が急増したのはロシア・ウクライナ紛争が始まった時期でした。
当時、ヨーロッパ各国はロシアからパイプラインで天然ガスを輸入していましたが、紛争の影響で供給が減少し電気代やガス代が高騰しました。
それまでは多くの家庭がガスヒーターなどを使用していましたが、ヒートポンプ暖房はガスを使わず空気の温度を変えられる製品であることから需要が急増しました。
そこで、ダイキンは工場を増設し生産量を拡大して欧州市場にヒートポンプ暖房を供給することができました。
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