トランプ大統領がFRBパウエル議長に対し、利下げを迫る圧力を強めている。議長解任には法的制約があり実現は困難だが、トランプは制度の隙を突き責任転嫁を図る。関税政策がインフレ要因であるにもかかわらず、その影響をFRBに押し付けている構図だ。
プロフィール:脇田栄一(わきた えいいち)
FRBウォッチャー、レポートストラテジスト。1973年生、福岡県出身。個人投資家を経て東京都内の大手株式ファンドでトレードを指南。本来は企業業績を中心とした分析を行っていたが、08年のリーマンショックを経験し、マクロ経済、先進国中央銀行の金融政策の影響力を痛感。その後、FRBやECBの金融政策を先読み・分析し、マーケット情報をレポートで提供するといった業態を確立。2011年にeリサーチ&コンサルティング(現eリサーチ&インベストメント)を起業。顧客は機関、個人投資家、輸出入企業と幅広い。ブログ:ニューノーマルの理(ことわり)
トランプはFRB議長を辞めさせたい
トランプがFRB議長を執拗に攻撃しているとのことで話題になっている。
議論となっている理事の解任規定である「正当な事由」というのは、連邦準備法によって定められており、大統領と理事の間の政策相違ではなく、不正行為にあたる(と看做されている)。
が、しかし理事の解任事由は定められているものの、議長の解任事由が定められていないところがキモとなっている。
トランプは、「議長解任は早いほどいい」とまで踏み込んできたが、現行法で考えれば不正がない限り、理事としての解任は不可能なので(パウエルは)26年5月の議長任期を全うすることになる。それをわかったうえで、利下げ圧力を加えていることになる。
さらには、パウエルが26年5月の議長任期を終えたとしても理事としての任期は28年1月までなので当然、政策決定には参加できる。よって理事のパウエルをメンバーたちがFOMC議長に選出することも可能だが、FOMC議長はFRB議長が選出されるのが通例なので、パウエルが26年5月に任期満了となれば、パウエルがFOMC議長になることは考えられない。
関税政策を是正しない限り、インフレは続く…
利下げ圧力に屈するか、トランプからの責任転嫁に耐え続けて任期満了となるか――ということだが、わかっていることはトランプが関税政策を是正しない限り誰が議長になったとしてもインフレは継続するということ。
トランプは就任当初よりバイデンのインフレを引き継いだことは不運だった。ただ、自らの関税政策によってインフレ上乗せ分をFRB議長に転嫁するという行為は非常に愚かだといえる。誰を選んだとしても結果は同じなので。
FOMCに利下げさせれば物価高のリスクはさらに高くなる。利下げすればマーケットが浮揚すると思い込んでいるのかも知れないが、インフレが再び3%を超えていけばマーケットは逆に沈下する。それこそインフレ沈下の目途が立たなくなるので。
まさに「トランプフレーション」
トランプは、バイデンフレーションと揶揄していたが、トランプフレーションといわれても過言ではない状況に。「大統領になったらインフレをすぐに終わらせる」と言っていた。支持を失うばかりだろう。
現時点でパウエルに責任転嫁するのは得策ではない。

『FRBとマーケットの関係がよくわかる本』
著:脇田栄一/刊:秀和システム
上記の私の著書は、いちおう2024年から2025年初頭に記載したもので難しい時期だったのだが、おおよその展開といったところ。ヘビーな展開ですな。
本記事は脇田栄一氏のブログ「ニューノーマルの理(ことわり)」からの提供記事です。
※タイトル・リード・見出しはMONEY VOICE編集部による