そして、この運用保守ビジネスは非常に利益率が高いのです。ゼロからシステムを作るのと比べて労力も少なく、収益性が高くなります。日立の受注構成の中で、この運用保守の比率が徐々に高まってきていることが、全体の利益率改善に繋がっている側面があると考えられます。
このような社会インフラシステム分野は、高い技術力に加え、グループ会社との連携やM&A後の企業文化融合といった「泥臭いフェーズ」を乗り越える必要があり、参入障壁が高いため、競争が激化しにくいブルーオーシャンと言えるのかもしれません。
景気変動への耐性と株価の見通し
現在の景気情勢を踏まえると、製造業は厳しい状況になる懸念がありますが、日立の事業は景気変動の影響を受けやすい部分と受けにくい部分があると考えられます。工場の自動化(ファクトリーオートメーション)やビルシステムなど、企業の設備投資に依存する部分は景気の影響を受ける可能性があります。
しかし、電力の送電システムや交通・鉄道システムといった社会インフラ分野は、生活に不可欠なインフラであるため、景気動向に大きく左右されにくいと言えます。現在の日立の業績を牽引しているのはこのような分野であり、利益率の高い運用保守ビジネスも増加していることから、売上が爆発的に伸びることはないかもしれませんが、利益は安定して高めていけると考えられます。全体として安定感が高い企業と言えるでしょう。

日立製作所<6501> 週足(SBI証券提供)
直近2年で日立の株価は大きく上昇し、1,500円程度から2倍、3倍弱となっています。PERは23.5倍と高すぎない水準であり、足元の決算では営業利益、純利益ともに過去最高を更新し、今期予想も最高益となっています。事業の強さや安定性が高まっている状況と言えます。短期的には上昇の反動による利確売りなどがあるかもしれませんが、中長期で見れば非常に面白い企業だと感じています。
時価総額は16兆円を超える巨大企業ですが、事業ポートフォリオを整理し、新たな強みを構築して期待値が高まっている現状は素晴らしいと思います。
まとめ:家電メーカーから世界の社会インフラを支える企業へ
今回の分析を通じて、私自身も日立製作所への認識が大きく変わりました。かつての「この木なんの木」や家電メーカーというイメージから、現在は世界の社会インフラを「すり合わせる力」で支えるすごい会社に変貌を遂げていることを改めて認識しました。
これは、かつて抱えていた多様な事業と、近年のM&Aによって獲得した新たな能力、そしてそれらを統合するLumadaという考え方が組み合わさることで実現した、日立ならではの強みと言えるでしょう。
日本を代表する企業として、今後の日立製作所の動向に引き続き注目していきたいと思います
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『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年5月8日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。