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脱・家電で変貌「日立製作所」は買いか?M&Aと収益改革で時価総額16兆円、“令和の日立”の実態に迫る=元村浩之

海外での成長とグリーンエナジー分野の強み

日立は国内だけでなく、海外でも社会インフラシステムの受注を拡大しています。

特に欧州を中心に、鉄道システムなどの受注が好調です。日本の鉄道が時刻通りに正確に運行する高い信頼性は、海外でも高く評価されています。また、欧州では公共交通機関の利用を促進する流れがあり、鉄道だけでなくバスなどを含めた公共交通システム全体を統合するシステムの需要が高まっています。

日立は日本での実績が豊富であるため、注目されているようです。

地域別の売上比率を見ると、日本が約4割、アジアが約2割、北米と欧州がそれぞれ約15%前後となっています。依然として日本が最も大きいですが、欧州の売上比率が伸びていることが分かります。これは鉄道システムだけでなく、グリーンエナジー分野の売上拡大も寄与していると考えられます。

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出典:日立 統合報告書

欧州は再生可能エネルギーの導入が進んでいますが、太陽光や風力といったグリーンエネルギーは発電が不安定という課題があります。日立は、洋上風力発電などで得られた電力を消費地まで効率的に送電するためのシステムを提供しています。時間帯や場所によって変動する電力需要と供給に合わせて、全体の制御や最適化を行うシステムです。機器、制御、システムのあらゆる方向からアプローチが必要となるこの分野で、日立は買収した事業も含めて強みを発揮しており、世界シェアは約5割もあると言われています。

今後の成長性という点でも、海外、特に欧州やグリーンエナジー分野が重要になってくるでしょう。

競合との比較に見る日立のユニークさ

海外の競合としては、シーメンス・GE・ABBなどが挙げられます。

これらの企業も日立と同様に社会インフラ関連を手掛けていますが、日立とは異なる特徴があります。例えばシーメンスは製造自動化などに非常に強いですが、日立のように様々な事業や部署を連携させて新しい価値を提供するというよりは、それぞれの事業が比較的「縦割り」になっているイメージがあり、部分的に非常に強い領域を持っていると言えます。

一方、GEはかつてジャック・ウェルチ氏の時代に「一番になれない事業からは撤退する」という選択と集中を進め、収益性を高めましたが、その結果「何でも一括でできる」というわけではなくなりました。

これに対し、日立は多くの事業を抱え続けた結果、たとえ利益率が低い事業があったとしても、現在ではそれらを「すり合わせる」ことで、一括でシステムを担える体制が偶然にも出来上がったと言えます。

これは今からGEなどがやろうとしても難しい状況なのではないでしょうか。日立がこれまでの多様な事業で培ってきたノウハウを組み合わせることで、唯一無二の存在になりつつあるのかもしれません。

これは、かつてGE的な経営がもてはやされた時代から、社会がより高度な、全体最適化されたインフラシステムを求めるようになり、日立のような多様な事業を統合する力が重要視される時代への揺り戻しとも考えられます。DXや自動運転など、今後日立が活躍できるフィールドはさらに広がっていく可能性があります。

利益率向上の背景:運用保守ビジネスの増加

近年の日立の業績を見ると、売上も伸びていますが、それ以上に利益率が向上している印象を受けます。これは、M&A、特にグローバルロジックの買収によって、「筋の良いシステム」の受注が増えていることが要因の1つと考えられます。

「筋の良いシステム」とは、単にシステムを構築して納品するだけでなく、その後のシステムの運用・保守まで継続的に受注できるようなものです。社会インフラシステムは、一度導入すれば必ずその後の維持管理が必要となるため、運用保守はストック型のビジネスになります。

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