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リーマンショックで売り抜けた伝説の投資家が再び空売り…暴落は近い?売却銘柄と長期投資家が学ぶべきこと=栫井駿介

<機関投資家の構造的な問題>

投資信託などを運用する機関投資家には、お客様から預かった資金を現金で持っておくことが難しいという構造的な問題があります。手数料を取っている以上、現金のままではお客様の資産が減ってしまうため、市場に投資し続けなければならないという内的なルールや、顧客への宣言があります。

市場が大きく下落した後、一時的に現金比率を高めたとしても、時間が経てば再び株を買い戻さざるを得ない状況が生じます。これは、市場が下落した後に自然と上昇を呼び込む要因の一つとなります。

<パフォーマンス評価と追随買い>

また、ファンドマネージャーは四半期や毎月のパフォーマンスで評価されます。市場が上昇している局面で、現金比率を高めて市場から遅れを取ると、パフォーマンスが悪化し、最悪の場合クビになる可能性もあります。このため、市場が上昇している時は、ファンドは買わざるを得なくなり、上昇がさらなる上昇を呼ぶという状況になりがちです。

<「デッドキャットバウンス」と安心感>

経済の状況が悪いにも関わらず、株価が大きく下がった後に一時的に反発する現象を”デッドキャットバウンス(死んだ猫も落とせば跳ねる)”と呼ぶことがありますが、現在の市場もこれに似ているように見えます。

さらに、過去数年間の経験、特にコロナショック以降、市場が下落しても最終的には持ち直してきたという経験から、「下がったら買い」という安心感を持っている投資家も少なくありません。

<長期にわたる金融緩和の影響>

過去2008年のリーマン・ショック以降、政策金利は歴史的に見て非常に低い水準が長く続いていました。コロナ禍でさらに金利は引き下げられゼロ近くになり、ようやく近年になって過去の水準に戻ってきたところです。このように長期間にわたって世の中にお金がジャブジャブだったことが、金融商品、特に株にお金が流れやすく、株価が上がりやすいベースを作っていたと考えられます。

<「中銀プット」への期待>

そして、多くの投資家が期待しているのが「中銀プット」と呼ばれるものです。これは、株価や経済が悪化した際には、中央銀行(FRBなど)が金利を引き下げてくれるだろうという期待です。過去、金利引き下げ局面では株価が上昇した経験があり、このため多少の市場下落は、かえって株価上昇の呼び水になると考える投資家も多いようです。

中銀プットが機能しないかもしれないリスク

しかし、この中銀プットへの期待にもリスクが潜んでいます。

通常、景気後退局面ではインフレ率が低下するため、中央銀行は金利を引き下げやすくなります。しかし、現在の状況、特にトランプ関税のような政策の影響で、たとえ景気が悪化してもインフレが進行する可能性があります。関税により輸入品の価格が上昇し、国内での代替生産も容易ではないため、物価は上がる一方となるでしょう。

物価が上昇している時に金利を引き下げるとどうなるでしょうか?人々は現金の価値が目減りすることを恐れ、物や金(ゴールド)などの資産に資金を投じようとします。これにより、さらにインフレが加速してしまうリスクがあります。

このようなインフレは、特に金融資産を持たない人や年金生活者に深刻なダメージを与えます。働く人々の賃金上昇が物価上昇に追いつかず、年金の額もインフレほどは増えないため、日々の生活が苦しくなります。これは、ロシアがソ連から移行した際に年金制度が崩壊し、高齢者が苦しんだ状況にもたとえられます。

アメリカのように貧富の差が大きい国では、インフレによってさらに格差が広がり、社会不安や暴動を引き起こす可能性すらあります。FRBはこのような状況を看過できないため、インフレが続いている状況では、たとえ株価が下落しても金利を引き下げる、つまり中銀プットを発動するのが難しくなる可能性があるのです。

多くの市場関係者は「FRBが金利を下げるから大丈夫だろう」と考えているかもしれませんが、それができなくなる可能性も考えなければなりません。

バーリ氏のタイミングと長期投資の考え方

マイケル・バーリ氏の現在のネガティブなポジションは、このような現実的なリスクを考慮したものだと考えられます。ただし、バーリ氏の予想が常にピンポイントで当たるわけではありません。2023年にも株式市場が下がる可能性を示唆しましたが、実際には市場は上昇しました。

彼はリーマン・ショック前も2005年頃から危険を察知していたと言われており、頭のいい人は往々にして”早すぎる”傾向があります。危険を察知してから実際に市場が崩壊するまで時間がかかるため、その間は自身の考えに反して株価が上昇し続ける、いわゆる「我慢の時」が続きます。しかし、現状を考えると、いよいよその時が近づいているのではないか、という気もします。

相場全体の動きを正確に予想することは、変動要因が多すぎて非常に難しいことです。そのため、私は投資戦略として、長期投資を選択しています。

長期投資においては、目先の株価のアップダウンは受け入れつつ、本当に素晴らしい企業を選んで購入し、持ち続けることが重要だと考えています。企業が成長すれば、10年といった長い時間軸で見れば株価も上昇するはずだという考え方です。良い株であれば、安易に売却することは考えません。

しかし、長期投資であっても、株価が“変に高い時”に買いすぎると苦しくなる可能性があります。現在の株価水準は、構造的な要因などで高くなっている面もあるため、むしろ買うのをぐっとこらえることが重要です。

Next: バーリ氏の空売りは成功するのか?個人投資家が持つべき視点

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