「世紀の空売り」として知られる、2008年のリーマン・ショックを予見して巨額の利益を上げた投資家マイケル・バーリ氏。彼の動向は常に世界の投資家から注目を集めています。映画「マネーショート」のモデルにもなったバーリ氏が現在(2025年時点)、再び空売りを仕掛けていると話題になっています。この記事では、マイケル・バーリ氏の過去の成功、現在の投資スタンス、そして彼が警戒する現在の市場環境について詳しく解説します。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
マイケル・バーリ氏とは?リーマン・ショックでの「世紀の空売り」
マイケル・バーリ氏は、もともと医師でありながら、独自の視点で市場の歪みを見抜くことで知られる投資家です。彼の名を一躍有名にしたのが、2008年に発生したリーマン・ショックでの空売り成功です。
<リーマン・ショックの原因となったサブプライムローン問題>
リーマン・ショックの根本原因は、サブプライムローンと呼ばれる住宅ローンにありました。これは、返済能力の低い人々にも住宅ローンを貸し付けたもので、アメリカの貧富の差が大きい状況を背景に広がりました。銀行は貸し付けたローンを「証券化」し、投資家に販売することでリスクを分散させようとしました。
しかし、これらの証券の中身は、質の低いローン(借り手の返済能力が低い)であり、本来のリスクが無視されていました。さらに、当時のアメリカでは「住宅価格は上がり続ける」という神話があり、もし借り手が返済できなくなっても、担保である住宅を売れば返済できるだろうと考えられていました。これは、日本のバブル期における不動産神話に似ています。
バーリ氏は、こうした市場のファンダメンタルズから見て、サブプライムローンの状況がおかしいと判断しました。彼はローンのリストを一つずつ調べ、「これは危険だ」という結論に至ったのです。
<周囲の嘲笑をよそに空売りを敢行>
当時、住宅市場は好調だったため、バーリ氏の空売りは周囲のトレーダーから嘲笑されました。しかし、彼は自身の分析を信じ、空売りや「クレジット・デフォルト・スワップ(株価が下落するなど特定の事象が起きた場合に利益が出る商品)」といった手法を用いて、市場の暴落に備えました。
結果として、サブプライムローンの破綻が連鎖し、リーマン・ブラザーズ証券の破綻を招き、2008年にリーマン・ショックが発生し、バーリ氏はこの予見に基づいた投資で大きな利益を上げました。この出来事は、映画「マネーショート」で詳細に描かれています。
リーマン・ショック後から現在までのバーリ氏の動き
リーマン・ショックで成功を収めた後、バーリ氏はしばらく表舞台から遠ざかっていましたが、後にサイオン・アセット・マネジメントというファンドを設立し、2019年頃から再び活発な動きを見せ始めます。
<ゲームストップ株での成功>
2021年には、一時大きな話題となったゲームストップ株に投資し、ここでも成功を収めました。ゲームストップは、店舗型のゲーム販売店で、当時非常に割安に放置されていました。コロナ禍でRedditの個人投資家たちがこの株に注目し、株価が急騰したことで、バーリ氏も大きな利益を得ました。