ソフトバンクグループ<9984>を分析したいと思います(原稿執筆時点2025年10月18日)。現在、景気が大きく変動しているにも関わらず、ご自身の保有株のパフォーマンスが振るわないと感じている方もいるかもしれません。実は、現在の景気を大きく牽引し、パフォーマンスに大きな差を生み出している最大の要因は、ソフトバンクグループの株価上昇にあると言っても過言ではありません。なぜソフトバンクグループが急上昇しているのか、そしてポートフォリオのパフォーマンス向上のために、今からでも株を買うべきかどうかについて解説します。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
ソフトバンクグループ株、止まらない上昇
ソフトバンクグループの株価は現在、非常に大きく上昇しています。

ソフトバンクグループ<9984> 週足(SBI証券提供)
特に今年に入ってから顕著であり、今年の4月に発生した「トランプショック」による大幅下落から特に上がり始めました。8月の決算発表時には約1万2,000円程度でしたが、すでに2万円を超える数字となっています。
投資会社であるソフトバンクグループの評価を行う際、足元の業績(PLの利益)は相場の良し悪しに直接影響され、数千億円規模の損失を出すこともあるため、あまり意味をなしません。重要なのは、「何に投資しているのか」、その「投資の期待値はどれだけか」、そして「リスクはどれだけか」という点です。
ソフトバンクグループは現在、AIにフルベットしているという状況です。
株価急騰を支える3つの要因
ソフトバンクグループの価値を押し上げている主な要因は以下の3点です。
- 長期投資が花開いた「Arm(アーム)」
- 世界の注目を集める「Open AI」への大規模投資
- 「孫ディスカウント」の解消:NAV倍率の是正
ソフトバンクグループは、かつてイギリスの半導体設計図を作成する会社であるArmを、3.3兆円で買収しました。当時、割高だと批判されましたが、数年前に上場し、その価値を増やしています。Armの買収は2016年頃に行われましたが、それが今のAI時代と一致し、2025年現在に花咲いているという、長期投資の成功例となっています。
Armのビジネスモデルは、Armが作成した設計図が使われた製品が売れれば売れるほど売上が増える仕組みです。AIブームにより半導体の利用が増加しており、売上は右肩上がりで、今後も価値向上が期待されています。
ソフトバンクグループは、あのChatGPTを運営するOpen AIに投資を行っています。
・2024年9月には、日本国内のソフトバンクグループがOpen AIに出資することを発表しました。
・2025年3月には、最大400億ドル(約6兆円)もの大規模投資を行う計画が示されました(ソフトバンクグループ単独では最大300億ドル、約4兆円)。すでに100億ドル(約1.5兆円)程度は実行済みです。
これまでのSBGの大規模投資に対してはリスク視されることが多かったですが、今回のOpen AIへの出資は「世の中の大きな流れと一致した」と評価されています。これにより海外投資家を惹きつけ、SBGへの資金流入が加速しています。
非上場企業であるOpen AIへの投資は、普通の投資家にはできません。ソフトバンクグループを経由することで、間接的にAIの本命とされるOpen AIに投資できるという点が、投資家にとって魅力的であると言えます。
ソフトバンクグループが長らく意識してきたのが「NAV(Net Asset Value:時価純資産)」です。
NAVとは、保有する株式や資産の時価総額から借金などを引いた、企業が持つ純粋な価値のことです。本来、このNAVと企業の時価総額は一致しているべきですが、ソフトバンクグループは長年、時価総額がNAVよりも低い状態(割安)が続いていました。
これは「孫ディスカウント」とも呼ばれ、ウォーレン・バフェット氏のバークシャー・ハサウェイがNAVよりも時価総額が大きい「バフェットプレミアム」を持つことと対比されていました。ディスカウントの主な原因は、経営に対する疑念です。投資家は、SBGが将来、投資効率の悪い行動を取ったり、今ある資産を減らしたりするのではないかという懸念を抱いていたためです。
しかし、孫氏がこの1年ほどAIに集中し投資を積み重ねてきた結果、この割安感が修正される段階に入りました。直近(10月14日の終値に基づく分析)では、ディスカウント率が8%程度まで縮小し、株価はNAVとほぼ遜色のない水準にまで上がってきています。これは「無理のない上昇」とも言え、割安感が解消されたことを示しています。
