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将来の企業価値は「ROIC分析」で丸わかり。長期投資のプロがやってる“凄い企業”と“買い時”の見極め方=栫井駿介

典型的なROIC構造に見る3つのビジネスパターン

この「利益率」と「回転率」の組み合わせによって、企業のビジネスモデルは大きく3つのパターンに分類できます。

<パターン1:高利益率・低回転型(厚利少売)>

これは、利益率は非常に高いが、大量には売れないビジネス構造です。

  • 特徴:高い利益率を確保するために、少量生産や付加価値の高い商材を扱う。
  • 例:高級品(フェラーリなど)、不動産(特に賃貸)、製薬、インフラ。
  • 具体例(不動産):1棟マンション(投下資本)は高額(1億円など)だが、家賃収入が自動的に入るため営業利益率は高い(50%超えもあり得る)。しかし、回転率は非常に低い(0.1など)。
  • 課題:設備や投資額が大きく、事業拡大が難しい面がある。

【注目すべき点】
本来、低回転型のビジネスにおいて、何らかの要因で回転率が劇的に高くなると、その企業は爆発的に儲かります。例えば、半導体の製造装置企業(投資額が巨額で本来低回転)が、市場の需要急増により高回転率を実現した状況がこれに該当します。

<パターン2:低利益率・高回転型(薄利多売)>

これは、利益率は低いものの、販売量が多く、資本の回転が速いビジネス構造です。

  • 特徴:薄利で大量に売りさばく。低価格の商品が多いため、世の中に受け入れられやすく、新しい店舗などを出せば成長を続けやすい。
  • 例:卸売業、小売業、商社、一時期の家電量販店。

【ROIC向上戦略】
パターン2の企業がROICを向上させるには、弱い方である利益率を上げることが有効です。例えば、卸売業者が、既存の顧客基盤を活かして自社製品を開発し、利益率を向上させることで、劇的な業績の伸びが期待できます。

<パターン3:高利益率・高回転型>

これは利益率と回転率の両方を兼ね備えた、理想的なビジネス構造です。

  • 特徴:非常に強力であり、長期投資において大きな強みとなる。
  • 例:プラットフォーマー(Googleなど)、現在の市場環境における一部の半導体関連企業。
  • 事例:ビジネスエンジニアリング
    過去に、元々低利益率・高回転型だったソフトウェア導入支援会社(ビジネスエンジニアリング)が、自社製品の開発・投入により高利益率・高回転型へと移行し、業績が劇的に伸びた事例が確認されています。

戦略的投資判断:増分ROICと未来の成長性

企業分析において重要なのは、過去のROICが高いことだけではありません。より重要視すべきは未来の成長性です。

<成長の限界と増分ROIC>

企業が過去にどれだけ高いROICを上げていても、それ以上の高いROICを生む追加的な事業に、さらなる資本を投下できなければ、成長は限界を迎えます

この未来の投資先から得られるリターンこそが増分ROIC(Incremental ROIC)の概念です。

投資家は、企業が現在行っている投資(投下資本)の先が、企業の強みなどを活かして高いリターン(ROIC)を生むところなのか、それとも現状維持のための投資にすぎないのか、を見極める必要があります。

<企業価値の最大化とWACC>

企業価値は、以下の数式で表現されます。

企業価値∝(ROIC−WACC)×投下資本

WACC(ワック:加重平均資本コスト)は、資本調達にかかるコスト(割引率)を示します。

企業価値を最大化するには、ROICが高い方が良いのは当然ですが、(ROIC – WACC)がプラスでなければなりません。もしROICがWACCを下回るような事業に資本を投下(投資)し続けた場合、投下資本が増えるほど企業価値は毀損されてしまうからです。

<Microsoftの事例>

Microsoftはかつてオフィス事業の成長限界が見え始めた時、将来的に高いROICを生むと判断したクラウドビジネス(Azure)に巨額の資本を投下しました。この未来への戦略的な投資が、現在の大きな成長を支えています。

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