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トランプがイランを攻撃した本当の理由――米中エネルギー覇権戦争の行方と日本の岐路=高島康司

中国の対抗手段

それでは中国にはどのような対抗手段があるのか、具体的に見てみよう。

<1. 備蓄の厚み>

中国の陸上原油備蓄は2026年1月時点で12億バレルと世界最大、精製処理量ベースで108日分、輸出を止めれば130日分の輸入カバーがある。

<2. パイプライン代替>

ロシアからパイプライン経由で石油・ガスを受け取り、北極海航路を通じてArctic LNG 2からも供給を受けることで、ホルムズとマラッカの両方のチョークポイントを回避しようとしている。

<3. 電化の進展>

中国は既に世界初の「電力国家(electrostate)」であり、2024年だけで再生可能エネルギーに6250億ドルを投じた。これは米国がエネルギー覇権を振るう前に、中国がそもそもエネルギー輸入依存から抜け出すことを意味する。

<4. 皮肉な現象>

ホルムズ危機下で中国はむしろ米国の原油とLNGを大量購入に転じ、日本が望んでいた米国エネルギー供給を中国が奪ったという事態が起きている。つまり米国エネルギーは武器というより、中国が状況次第で利用する商品になっている。

さらに安価なLNG輸出はむしろ中国の再生可能エネルギー発展を補助し、中国の地政学的影響力を拡大させ、権威主義的目的を後押ししているという逆説も指摘されている。

中国中心のエネルギー供給システム

そして重要なことは、中国はこのような対応を駆使することで、アメリカとは異なる中国主導のエネルギー供給システムを構築する可能性があることだ。それは5つの層で構築される。具体的に見てみよう。

<第1層:エネルギー需要構造の脱石油化(最も根本的な反撃)>

中国の最も決定的な対応は、米国のエネルギー支配ゲームそのものから降りることである。トランプのシナリオは「中国は石油を必要とし続ける」という前提の上に成立するが、中国はこの前提を崩しにかかっている。

中国は世界の太陽光パネルの80%、風力タービンの約60%、バッテリーの75%を生産している。地球上の電気自動車の70%を供給している。中国はこの産業力を影響力に変えている。つまり中国は「他国が石油・ガス輸入依存を減らすために必要とする技術」を独占しつつある。

<第2層:ロシア・中央アジア軸の深化(物理的回避)>

湾岸経由の供給を失う場合の代替ルートは、すでに稼働中である。2026年3月時点で、中国はロシアの化石燃料輸入で世界最大となり、ロシアの輸出収入の43%(85億ユーロ)を占めている。中国のロシア産原油輸入は前月比32%急増した 。

ただしロシア依存一辺倒にはしないという点に中国の戦略的狡猾さがある。Power of Siberia II(西ルート)の交渉は停滞しており、これは主として中国がロシアへのパイプライン・ガス依存を急速に高めることに消極的だからである。中国の戦略は、ロシアとのガス関係で支配的地位を維持し、ロシアの地政学的孤立を利用しつつ、中央アジア等の他の供給源を同時に拡大し、国内生産を増強することのようだ 。

つまり中国は、ロシアを使うが依存しないという、冷徹な非対称関係を維持する。これは米国の湾岸諸国への依存過剰の罠を中国が学んでいるということでもある。

<第3層:人民元建てエネルギー決済圏の拡大(金融インフラ攻撃)>

米国のエネルギー支配の根幹はペトロダラーの循環にあり、中国はそこを突いている。

イランと中国は米国の対イラン戦争という好機を捉え、世界金融システムに対する共通の不満、すなわちドル覇権の終焉という共通目的を追求している。石油市場における米ドルの優位は特に顕著で、JPモルガンの2023年推計では取引の約80%がドルで決済されている。

中国はイランの石油輸出の80%以上を買い上げ、値引き価格で購入しており、これは人民元で決済されている。ただし限界もある。人民元はドルと異なり、北京の厳格な資本規制により自由に交換可能ではない。2024年時点で、中央銀行の外貨準備のうちドルは57%、ユーロは約20%、人民元は2%である。国境を越える貿易のうち人民元決済は3.7%に過ぎない。

しかし重要なのは、ホルムズにおける人民元使用は「世界のドル離れをもたらすものではないが、漸進的な圧力を加え、エネルギー流通における代替手段を常態化させる」という点だ。全面的な置換ではなく、正当性の浸食が目的である。

Next: 着々と進む中国主導のエネルギー供給システム構築…日本への影響は?

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