東洋合成工業<4970>は、1954年創業の化学メーカーである。事業は、半導体用フォトレジスト材料などを手掛ける感光性材料事業(2026年3月期売上高構成比63%)と、高純度溶剤・香料中間体・化学品物流を担う化成品事業(同37%)の2セグメントで構成され、半導体材料を扱う感光性材料事業が売上の大半を占める。売り上げの90%が半導体・ディスプレイ・その他電子材料関係となっており、中核となるのが、半導体回路の微細加工に不可欠な感光材の主要成分「PAG(光酸発生剤)」で、同社は世界シェア首位を握る。g線・i線といった旧世代から、KrF、ArF、そして最先端のEUV(極端紫外線)世代まで全世代のPAGを手掛けるのは同社のみで、EUV用PAGでも高いシェアを持つ。化成品事業は、売上の約7割を電子材料向けなどの高純度溶剤が占め、香料材料が約2割、ロジスティックが約1割を構成する。ロジスティック事業は、東京湾岸の中心に位置する高浜油槽所のタンクを顧客に貸し出す不動産賃貸に近い安定収益モデルとなっている。
同社の強みは、半導体の黎明期からPAGを手掛けてきた長年の技術蓄積である。旧世代から最先端のEUV世代まで全世代を一貫して供給できるフルラインアップ体制は、社内に蓄積されたノウハウに支えられており、他社が容易に追随できない参入障壁となっている。また、需要に先回りした先行投資の姿勢を継続しており、顧客の需要が顕在化した時点で速やかに供給体制を整えられるよう、他社に先駆けて生産設備への投資を進めてきたことが、世界シェア首位の地位を支えている。半導体プロセスにおける材料の認定取得には長い期間と高い品質保証の継続性が求められ、これが顧客との強固な関係と高いスイッチングコストを生んでいる。
業績面では、2026年3月期の連結業績は、売上高419.56億円(前期比8.5%増)と3期連続の増収で過去最高を更新した一方、営業利益36.68億円(同10.6%減)着地した。感光材事業では、AI用途の強い需要が継続し、先端フォトレジスト向け材料および高純度溶剤の販売は増加、ディスプレイ向け感光材も、スマートフォンやTV用パネル生産が一定水準で推移し、販売は堅調だった。一方、中期経営計画に基づく大型設備投資に伴う減価償却費などの固定費負担が先行し、利益を圧迫した「固定費の負担が重い1年」であった。ただ、新設備および生産情報システムの稼働開始に伴い、第4四半期単体では四半期として過去最高の売上高を記録するなど、回復の兆しもみえている。
2027年3月期の会社予想は、売上高475億円(前期比13.2%増)、営業利益50億円(同36.3%増)大幅な営業増益への転換を見込む。新設備の稼働率向上と増産効果により、先端半導体向け材料を中心に販売増加を見込む。為替前提は1ドル155円で、イラン情勢の中、安定供給を第一に原料調達を行って中東情勢に伴う原燃料価格・物流費等の上昇影響を現在想定できる範囲で織り込み、収益改善に取り組んでいくようだ。
市場環境を俯瞰すると、同社の主力である感光材には複数の構造的な追い風が吹いている。半導体市場は過去40年間で30倍に拡大(年平均成長率9%)してきたが、成長が加速し、2030年までには1兆ドルの予測は26年には前倒し達成、2050年には5兆ドルの予測も加速する見通し。生成AI・データセンター関連需要を背景に、EUV・ArFを中心としたフォトレジスト市場は中長期的に拡大する見通しとなっている。生成AIやデータセンター向けの先端ロジック半導体への投資が拡大し、HBM(広帯域メモリ)など先端メモリの採用も広がるなか、EUVリソグラフィの本格普及によって露光に用いる材料の使用量も増加している。信越化学工業が群馬県伊勢崎市で大型の新工場を2026年に稼働させる予定であるなど、フォトレジスト主要5社が軒並み増産投資を進めており、同社の感光材需要は中期的に拡大が見込まれる。一方で、半導体材料は地政学リスクと無縁ではなく、米中間の半導体規制の動向は注視すべき論点である。中国はフォトレジスト材料の国産化を国策として進める動きもあり、先端材料領域における日本企業の優位をいかに持続できるかが今後の焦点となる。
同社は中期経営計画「Beyond500」(2023年3月期〜2027年3月期)のもと、最終年度に売上高500億円以上、営業利益80億円以上、営業利益率16%以上を掲げ、5年累計で300億円規模の設備投資を進めてきた。千葉工場における第4感光材工場の新設をはじめとする大規模な生産能力増強がその中核である。足元の2027年3月期の会社予想(売上高475億円、営業利益50億円)は中計の最終目標には届かない見通しとなっているが、先行投資の負担が利益面に重くのしかかった点が背景にある。27年3月期は、市川工場・淡路工場で出荷能力増強投資を計画しており、これまでに能力増強を行った設備を最大限活用し、最先端品質を満たす安定供給体制の強化に取り組んでいく。そのほか、同社は今後のさらなる事業拡大を見据え、事業拡張用地の取得などは着実に行っている。
株主還元については、新設備の立ち上げに伴う一時的な減益局面においても一定水準の配当を維持しており、2027年3月期は前期比10円増配の年間50円を予想している。また、株式分割については、株式の投資単位の引下げが個人を含めた幅広い層の投資家の株式市場参加を促進し、株式の流動性を高めるための有効な施策のひとつであると考えているようだ。
総じて、東洋合成工業は半導体の微細化を支えるPAGで世界シェア首位を握り、生成AIを起点とする先端半導体需要の拡大という構造的な追い風を受ける立ち位置にある。足元は大型先行投資に伴う固定費負担で利益が圧迫されているものの、2027年3月期は大幅な営業増益への転換を見込む。すでに次の成長を見据えた感光性材料・化成品の新たな生産設備や事業用地の確保も進めており、先行投資が収穫期へと向かう局面において、同社の今後の動向に注目しておきたい。
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