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消えた中国包囲網。日本はこのまま「一帯一路」の野望に飲み込まれるのか?=斎藤満

習近平主席の「野望」と「矛盾」

そこでまず、習主席が提唱する「一帯一路」構想をおさらいしておきましょう。

この構想、もとはと言えば、習主席が2013年9月に中央アジアを歴訪した際に提示した大規模経済開発構想が発端で、それが2015年になり、国家発展改革委員会が中心となって、「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動」として交付されたものです。

その名からも伺えるように、陸路(一帯)と海路(一路)の両方から、現代版のシルクロードを建設し、その大規模なインフラ投資を通じて、中国や当該経路の地域の経済発展を促進し、完成後には中国とユーロッパとの結びつきを強める効果が期待され、いずれも習近平国家主席が歴史に名を遺す一大イベントと位置付けられます。

陸路(一帯)は中国蘇州から西に向かい、新疆から中央アジア、中東、トルコを経て、ドイツなどヨーロッパにつながります。そして海路(一路)は、中国の福州、広州からシンガポール、インド洋のスリランカ、紅海を経てサウジ、エジプト、そして地中海に入りギリシャ、イタリアのヴェネチアへとつながります。

その大規模な構想を可能にするには資金的、金融的な裏付けが必要となり、それを賄うのがAIIBということになります。

つまり、中国が一国で進めるには資金面でも限界があり、広く欧米やアジア周辺国の資金も導入する必要がありました。実物面での「一帯一路」構想と、資金金融面でのAIIBが、セットで進められることになるわけです。

これがアウトラインですが、そもそも習主席が進める最近の経済改革と、この「一帯一路」構想は相容れない面を持ち、さらに周辺国の資金事情や中国が抱える債務問題の深刻さを考えると、この「一対一路」がスムーズに進むのか、その実現には多くの疑問符がつきます。

ロスチャイルド資本が構想を後押しか

「一帯一路」構想は、発展途上国にとっては有効な経済政策ですが、発展段階の異なる地域での進め方を中国が指導できるのか疑問です。そもそも中国はこれまでの発展途上国型経済モデルから転換し、経済や産業の構造改革を進めようとしていたはずです。それを周辺の「途上地域」のために、自ら構造改革を差し置いて以前の成長モデルに戻るのは理解に苦しみます。

それでもあえてこれを進めようとしている裏には、簡単には進まない鉄鋼、石炭、セメントなどの過剰生産能力の削減問題があり、結果としてこれを積極的に「一帯一路」構想で活用して過剰生産能力問題を拡大均衡の中で吸収しようとしている面があります。また、新たな「人民元経済圏」の構築を目指している、との見方もあります。

西側からは中国版「マーシャル・プラン」ではないか、との批判もあります。戦後米国が欧州経済復興に支援の手を差しのべながら、欧州を取り込んでいった記憶が残っているようです。そして中国国内的には、これを契機に、習国家主席が独裁的指導力を高め、「現代の毛沢東」を目指そうとの意図がうかがえます。

さらに、トランプ大統領の背後で影響力を行使するロスチャイルド資本が、積極的に欧州と中国の橋渡しを進めるべく、この構想を後押ししているように見えます。中国だけのインタレストで動いているのでないとすれば、ますますその全貌を理解することが容易でなくなります。

習近平氏の野望はわからないではありませんが、残念ながらここまで金銭的な裏付けが進んでいません。AIIBへの出資も欧州勢が協力的でないために順調ではないようで、事務局は何とか日米の協力を取り込みたいようです。

だからこそトランプ大統領の「親中派」色を利用して今のうちに協力を取り付けたいとの思惑もあるようですが、簡単ではありません。計画の多くが資金面のネックから立ち往生する懸念があります。

Next: トランプの親中路線はまやかし。この秋にも「中国叩き」再開へ

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