安倍総理の「大義」と「争点」
永田町で吹き始めた解散風を止めることは難しい。したがって今後の注目点は、安倍総理が解散風にどのような「大義」や「争点」を添えていくかというところになる。
「戦後初めて安全保障上の危機が迫っている中、安全保障法制が実際にどう機能するかも含めて、国民の理解を得ることが必要だ」
羽生田幹事長代行はこのように述べ、安全保障関連法の評価が争点の1つになるという見解を示した。しかし、「安全保障関連法の評価」というのは、解散総選挙の大義としてはあまりにも弱すぎる。
ほとんど忘れかけられているが、ここで思い出されるのが、7月28日に突然官邸に現れ安倍総理と昼食をともにしたフリージャーナリストの田原総一朗氏が発した、内閣支持率をV字回復させる秘策として安倍総理に進言したという「政治生命をかけた冒険」発言である。
突然吹き始めた解散風は、この「政治生命をかけた冒険」の序章だと考えるべきではないだろうか。
「安倍一強体制」を取り戻す
田原氏は「解散のような細かな問題ではない」と言っていたが、同時に「自民党内には反対する人がいる」「今やるべきこと」「安倍総理しかできない」「(首相は)やるつもりじゃないか」といったヒントも残している。
これらのヒントから想像されることは、「政治生命をかけた冒険」が、政権維持を優先した「解散」である可能性はほとんどないことである。
「政治生命をかけた冒険」は、「自民党内には反対する人がいる」なかで、「安倍総理しかできない」「今やるべきこと」を実行することを意味するはずだからである。そしてそれこそが今回の解散の「大義」「争点」として総理が掲げようとしている「隠し玉」であろう。
重要なのは、自民党内で「安倍一強体制」が崩れかけている今、「自民党内には反対する人がいる」なかで、総理が「やるつもり」の「今やるべきこと」を実行していくのは難しい、ということだ。
それ故、それを実行するためには、自民党内での「安倍一強体制」を取り戻す必要がある。安倍総理はそのためには「解散」が最善手であると判断したのだろう。
もとより、対野党で見た場合、「自民党一強体制」が揺らいでいるわけではなく、総選挙で野党に敗北することは考えにくい状況である。こうした状況を考えると、「解散」は政権を維持するために行うのではなく、自民党内での「安倍一強体制」を取り戻すために行うものだと考えるべきだろう。
こうした認識に立てば、今こそ安倍総理にとって「解散」に打って出るには絶好のタイミングだということがわかる。