2017年の発売から7年以上が経過した今もなお、世界で売れ続ける「ニンテンドースイッチ」。累計販売台数は1億5,000万台に迫り、任天堂は今期の販売予測を上方修正するなど、その勢いは衰えを知りません。しかし、それとは裏腹に任天堂の株価はピーク時から3割も下落しています。

任天堂<7974> 週足(SBI証券提供)
なぜ、これほどの好材料がありながら、市場の評価は冷ややかなのでしょうか?この一見不可解な現象の裏には、単純な業績数字だけでは見えてこない、いくつかの重要な要因が隠されています。今回はその意外な真実を解き明かしていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
想定外のコスト上昇。売上は絶好調だが、利益は伸び悩む…
株価下落の背景にある最も直接的な要因の1つが、売上の伸びに利益の伸びが追いついていないという現実です。
任天堂は今期のスイッチ2本体の販売台数予測を、当初の1,500万台から1,900万台へと大幅に引き上げました。これに伴い、売上高予測も18.4%増へと上方修正されています。
しかし、注目すべきは営業利益の伸びです。こちらは15.6%増に留まっており、売上高の伸び率を下回っています。通常、売上が増えれば固定費の割合が下がり、利益はそれ以上に伸びるのが一般的ですが、任天堂では逆の現象が起きています。
この主な原因は、2つの想定外のコスト上昇です。
1つは、世界的なAIブームによるメモリ価格の高騰です。スイッチ2にも使われるメモリの価格が急騰し、製造原価を押し上げています。
もう1つは、アメリカでの関税です。これも当初の想定にはなく、利益を圧迫する要因となっています。
結果として、「売上は絶好調なのに、思ったほど儲からない」という構造が生まれているのです。
任天堂の「本当の収穫期」は発売から7年後にやってきた
多くの人が、ゲーム機は発売された時が最も儲かると考えがちですが、実はその逆です。ゲーム機ビジネスの本当の収穫期は、ハード(本体)が広く普及した後に訪れます。
その証拠に、2017年に発売された初代スイッチの業績がピークに達したのは、なんと発売から7年後の2024年でした。これは、ハードの普及台数が増えることで、利益率の高いソフトの販売が本格化するためです。ユーザーは魅力的なソフトで遊ぶためにハードを購入し、ハードが普及すれば、さらに多くのソフトが開発・販売されるという好循環が生まれます。
このビジネスモデルは任天堂の強みですが、投資家の視点から見れば、発売から7年が経過したハードが業績のピークにあるということは、今後の成長の伸びしろが限られているとも解釈できます。市場はすでに、次の成長サイクルに目を向けているのです。
初代スイッチの成功には「コロナ禍」という特別な追い風があった
初代スイッチが全世界で累計1億5,000万台に迫る驚異的な販売台数を記録したことは、任天堂の大きな成功事例です。しかし、この成功の裏には、見落としてはならない特別な要因が存在します。
スイッチの業績が最も大きく伸びた2021年から2024年の期間は、世界的なコロナ禍による「巣ごもり需要」の時期と見事に一致しています。多くの人々が外出を控え、家庭で楽しめるエンターテインメントを求めた結果、スイッチの需要が爆発的に高まったのです。
この「特別な追い風」がなければ、ここまでの歴史的な大成功にはならなかった可能性があります。つまり、スイッチ2が初代の驚異的な記録を超えることは、当時とは社会状況が異なる現在において、非常に高いハードルであると市場は冷静に分析しているのです。