国際決済手段とアメリカの反対
そして、ステップとしては、上海及び「大湾区」における「デジタル人民元」導入の成功を受けて、今度はこれを国境を越た取引の決済手段、つまり国際決済手段として拡大する動きが始まる可能性が高い。このような動きはアメリカも警戒している。
最近、共和党のマーシャ・ブラックバーン、シンシア・ルミス、ロジャー・ウィッカーの3人の上院議員は、米国オリンピック委員会の指導部に宛てた書簡を出した。そのなかで彼らは、プライバシーの問題を理由に、北京オリンピックの期間中に「デジタル人民元」を受け取ったり使用したりすることを禁止すべきだと述べている。
その理由は、「デジタル人民元」はブロックチェーンを基盤にしているからだ。ブロックチェーンでは、流通と使用のすべてのデータが記録されるので、使用状況が中国政府の監視下に置かれる。
3人の上院議員は、アメリカの選手が、中国共産党がアメリカをスパイする能力を高めるためのトロイの木馬として利用される危険性があるというのだ。彼らは、オリンピック委員会のスザンヌ・ライオンズ理事長に宛てて、「オリンピック選手は、デジタル人民元が、中国市民や中国を訪問する人々を監視するために、かつてない規模で使用される可能性があることを認識すべきである」と書いている。
すべての経済活動が中国政府の監視下に
「デジタル人民元」の導入はなにをもたらすのだろうか?
デジタルなので、送金や決済の手間はほとんどかからない。国際送金もいまのように高い手数料を支払って銀行を経由する必要はない。ビットコインなどの仮想通貨のように、相手のウォレットのアドレスに送るだけで送金は済む。
これが貿易や金融などの国際決済に使われると、決済のコストも時間も大幅に短縮されるので、メリットは大きい。
しかし、3人の米上院議員も指摘するように、「デジタル人民元」は使用状況がすべてブロックチェーンに記録されるので、これを使う経済活動はすべて中国政府の監視下に置かれることになる。特定の個人がどこで何を買い、何に投資をしたのか、そして税金の不払いがないかどうかなども全部わかってしまう。
「デジタル人民元」が支配する経済では、脱税という言葉も死語になるだろう。
これが中国国内の経済に限定されているなら、まだよいかもしれない。しかし、これが国際的な決済手段として広く使われると、中国の影響力を行使するための手段として使うことができる。
中国の方針に従わない国や企業、そして個人をターゲットにして、決済できなくさせてしまうのだ。それは、特定のウォレットの決済からの排除などを通して行うことができる。