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中国の“支配ツール”デジタル人民元が国際通貨になる日。北京五輪で本格始動、世界経済が監視下に=高島康司

大湾区でも導入か?

また「デジタル人民元」は、いま習近平政権が整備を急いでいる「大湾区」で本格的に導入される計画だとも見られている。「大湾区」とは、「広東・香港・マカオ大湾岸圏発展計画」のことであり、別名「グレーター・ベイ・エリア」とも呼ばれている。この構想については以前の記事で紹介したが、再度解説する。

香港で抗議運動が始まる3カ月ほど前の2019年3月、中国の内閣にあたる「国務院」は、「広東・香港・マカオ大湾岸圏発展計画」という地域開発プロジェクトを発表した。これは、香港およびマカオの2つの特別行政区と、広東省の9つの都市の経済的統合を実現し、技術革新、金融、貿易などそれぞれの都市が持つ強みをいかし、世界的な競争力を備えた一大経済圏を構築するという計画だ。この計画によって、習近平政権が推し進める「一帯一路」構想に、香港とマカオも統合されることになる。

広東省で参加する都市は、広州、深セン、珠海、仏山、恵州、東莞、中山、江門、肇慶の9都市だ。これに香港とマカオを加えた11都市の人口は約7,000万人にものぼる。計画では、この湾岸経済圏は、中国で最も開放された活力に満ちたエリアとなることが期待されている。

このエリアの通称が「大湾区」である。これは、アメリカのサンフランシスコのベイエリアを中核にしたシリコンバレーのハイテク産業の中心地に、金融センターとしての機能を合体させたような経済圏の構想だ。開発計画は2022年までの短期と、2035年までの長期の2段階に分かれている。2035年までに、11都市の完全な経済統合が実現する見込みだ。

深センが中核

そして、2019年8月18日、このような計画を具体化するガイドラインが、「中国共産党中央委員会」と「国務院」の連名で発表された。

このガイドラインでは、2025年と2035年の2段階で、深センを先の「大湾区」の中心としてさらに発展させるとしている。深センはITや金融だけではなく、観光や健康産業など幅広い分野で発展を促進し、中国の特徴ある社会主義のモデル都市として、世界の大都市のひとつにするという構想だ。

さらに深センで実現する市民の高い生活水準が、中国的な経済発展の水準を示すモデルにするという。これにより、深センが中国の特徴ある社会主義の成功例として、世界に向かってデモンストレーションされる構想だ。

香港の吸収と「デジタル人民元決裁圏」

このガイドラインで明らかなのは、2025年には香港は、「大湾区」の一部として吸収されてしまうということだ。この中核都市の深センは現在の香港と同じ「特別行政区」になると規定されているが、いま香港に適用されている一国二制度が維持されるのかどうかは分からない。

そして、このような「大湾区」に2022年2月の冬季オリンピックを契機にして導入される可能性が高いのが、「デジタル人民元」なのだ。

中国では、まだ政府による金融規制が強く自由化されていないので、株や債権などの金融取引で「デジタル人民元」が解禁されるかどうかは分からない。しかし、深センと香港を中心とした「大湾区」の11都市では、「デジタル人民元」が一般的な流通手段として使われることになるはずだ。

Next: デジタル人民元が中国当局の「監視ツール」となる危険

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