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安倍晋三銃撃事件が「テロ多発社会」の扉を開いた3つの根拠。“無敵の人”のストレスが暴発する=高島康司

ストレス表出の第4段階としての思想

しかしながら、さらにその上には第4の段階がある。

それは、要人殺害とテロを正当化する思想の拡大である。ISにシンパシーを持つ人々が共感するイスラム原理主義にあたるような思想である。

日本の戦前はテロの時代であった。1921年の原敬首相の暗殺から1936年の226事件まで、日本でも要人を標的にしたテロが横行した。1932年には日蓮宗の僧侶、井上日召が率いるテログループが三井財閥総帥の団琢磨や元大蔵大臣の井上準之助などを暗殺した血盟団事件が起こった。

井上日召は法華経と日蓮の教えを曲解した独自の思想を展開していた。日召によると、宇宙全体が生命体であり、その清浄なエネルギーはすべての生命体に仏として宿っている。生命体が死ぬと、大本に戻って宇宙生命に溶け込み、これと一体化する。しかし、日本を支配している勢力は我欲と権力欲、そして金銭欲にまみれ、自己の内面に宿る仏性を完全に忘れている。

これが日本社会が歪んでいる主要な原因だ。

これを是正するためには、我欲の強い支配層を殺害して大本の宇宙生命に引き戻さなければならない。これは彼らを成仏させることになるので、殺害は善の行為である。このような極端な思想を唱え、「一人一殺」をスローガンとして要人の殺害を正当化した。

この極端な思想は、血盟団の構成員のみならず、昭和恐慌で落ち込んだ経済と、農村の婦女子が身売りをしなければ食べて行けないような極端な格差に喘ぎ、将来の希望と生きる意味を失った当時の「無敵の人々」に広く支持された。これはまさにテロの多発を誘導する起爆剤のような思想になった。

これが、鬱屈した社会のストレスを発散させる第4段階である。

もちろん、この段階にいまの日本が到達しているわけではない。しかし、今回の安倍元首相の殺害が引き金になり、殺害を正当化する極端な思想が形成されない保証はない。

SNSであらゆるメッセージが瞬く間に拡散する現代である。ある鬱積した「無敵の人」のつぶやきが話題となり、そこから危険な思想が出現しないとも限らないのだ。安倍元首相の殺害で、日本は新たな時代に突入したのかもしれない。

要人を狙ったテロが連鎖する戦前のような時代である。

安倍元首相殺害の別な側面「ウクライナ」

しかし、安倍元首相殺害には社会の鬱屈したストレスの発散とは異なったもうひとつの側面があることに気づかねばならない。

それは、長期化しつつあるウクライナ戦争との関係である。

今回の安倍元首相殺害のタイミングを見ると、興味深いことに気づく。いまウクライナでは侵攻したロシア軍との間で激しい戦闘が続いているが、日本のメディアで喧伝されているウクライナ軍の善戦というイメージとは異なり、圧倒的な軍事力を持つロシア軍の勝利が確定しつつある。ロシアは東部のルガンスクとドネツク、そして南部のサボリージャとヘルソンの4州を占領し、この地域をロシアの緩衝地帯にする構えだ。この目標はかなりの程度実現しつつある。

一方、ウクライナのゼレンスキー政権は、ロシア軍の侵攻する2月24日以前の状態まで領土を回復し、さらに2014年にロシアが併合したクリミアの奪還までも目標にしている。いまのロシア軍が優勢な状況だと、この目標の実現はほぼ不可能である。諦めるしかない。

こうした状況でウクライナ戦争を終結する唯一の方途は、ロシアとウクライナとの和平交渉しかない。しかし和平交渉は、ウクライナの領土の一部をロシアへの割譲を許す苦汁の決断を要求するだろう。これにゼレンスキー政権は到底耐えられない。

すると、第三国の仲介でゼレンスキー政権を説得し、和平交渉のテーブルに着かせねばならない。ウクライナの軍事的支援に前のめりになっているアメリカのバイデン政権内部にも、早期の和平交渉を提案する声が次第に強くなっている。

Next: 安倍元首相「暗殺」をめぐる陰謀論も。闇の連鎖に入る日本

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