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世紀の奇策家ジャック・マーは、なぜ日本に潜伏していたのか?習近平が狙うデジタル人民元とアリペイ統合の内幕=牧野武文

習近平を激怒させたジャック・マーの言動

ジャック・マーのジェダイの騎士の物語は、複数のエピソードに分けて映画化すべきほど長い物語です。

ことの起こりは、2020年7月に、アリペイを中心にフィンテックサービスで成長したアントグループが上海と香港に上場を申請したことから始まります。上場をすれば、アリババ、テンセント以来の大型上場になることは確実でした。8月には上場申請が受理をされ、大きな問題がなければ上場されることが確実になりました。

しかし、その最中の10月24日、上海の外灘で開催された国際金融フォーラムで、ジャック・マーは政府批判とも取れる発言をします。

欧米メディアが問題だと指摘した部分は次のものです。「バーゼル合意は老人クラブのようなもので、未来を規制するのに昨日の方法を使うことはできない」。

バーゼル合意とは国際的に導入が進んでいる銀行の自己資本比率の規制です。要は銀行の自己資本に最低ラインを定め、体力をしっかりしてもらい、それができない銀行には退場してもらおうというものです。内容的にはBIS規制のことです。中国もこのバーゼル合意には参加をしているため、中国政府が支持するバーゼル合意を意味のないものだと批判したというのです。それで習近平主席が激怒したということになっています。

ウォールストリートジャーナルの報道によると、習近平主席の怒りを恐れたジャック・マーは、11月2日に、アントの一部を政府に譲渡すると申し出て許しを乞おうとしますが、習近平主席はこれを拒否。

11月3日、上場される36時間前に、上海の証券取引所が、当局の監督指導が行われているため、アントの上場を一時延期すると発表しました。後に、この延期期限は無期限であることも発表されました。つまり、アントの上場は中止になったのです。

失踪したジャック・マー

あるアリババ社員によると、この時、アントの社屋から大きな悲鳴があがり、それがアリババ社屋でも聞こえたほどだったと言います。アリババとアントは同じキャンパス内にありますが、もちろん人の声が聞こえるような近い距離ではありません。それほど大きな悲鳴があがったということです。なぜなら、アントの社員の40%は自社株を保有していたからです。平均で3万株ほどだそうで、上場をすれば確実に数千万元(数億円規模)の資産になります。アントは、社員の半数近くが億万長者という夢のような企業になれるところだったのです。気の早い人は、海南島あたりに別荘を買ってしまっていたかもしれません。

これ以来、ジャック・マーは公的な場所に顔を出さないようになり、世界中で「失踪説」が駆け巡ります。

そして、習近平主席はアリババに対して独禁法による捜査を始め、2022年4月には182億元(約3,000億円)という高額の罰金が課せられます。さらに、5月にはジャック・マー逮捕の報道が流れます。罪状は海外の反中敵対勢力と結託して国家分裂と政府転覆を扇動した容疑です。

ところがこれは中央電子台が「馬某」と報じたものであり、別のマーさんであったようです。中国では逮捕者の人権を守るために、刑事事件であっても実名報道はほとんどされず、「某」と伏字にするのが一般的です。これが誤解をされたようですが、陰謀論が好きな方は、これは実在しない逮捕であり、ジャック・マーに対する習近平主席の警告メッセージだと言います。

その直後、ジャック・マーは日本に飛び、身を隠すために長期滞在をしていたというストーリーです。

Next: ジャック・マーついに中国帰還か

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