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世紀の奇策家ジャック・マーは、なぜ日本に潜伏していたのか?習近平が狙うデジタル人民元とアリペイ統合の内幕=牧野武文

アリペイが奪われるのはジャック・マーの想定内

さらに、2012年にアリペイが対面決済を始める時、社内でも反対の声がありました。ジャック・マー自身も、信頼する人から対面決済をしないように忠告されたそうです。「そんなビジネスを始めると、あなたは逮捕されるかもしれないよ」というものでした。

アリババがアリペイの対面決済を始めて、さまざまな商店で使えるようにすると、それは人民元に代わる第2の通貨になってしまう。それは非常に危ういビジネスだというのです。

この話を受けて、ジャック・マーは身辺整理を始めます。財産の目録をつくり家族に渡し、アリババでは自分がある日突然いなくなった場合の統治体制をどうするかを決めます。そして、「私が牢屋に入ることになっても、アリペイはやる。私が牢屋に入ることになっても、アリペイが牢屋に入らなければそれでいい」と言って対面決済に乗り出します。

また、政府関係者と会うと、必ず「アリババは、いつでもアリペイを政府に無償で譲渡する用意がある」と公言しました。つまり、中国の金融システムを破壊するためにやっていることではなく、中国の金融システムを近代化して、中国に貢献するためにやっているのだという姿勢を明確にしたのです。

ですから、今回、アントの統治権を失っても、それはジャック・マーにすれば織り込み済みのことで、いつかやってくる事態だったのです。起業家として手塩にかけてきた企業を手放すのはつらいだろうとは思いますが、ジャック・マーにとっては起こるべきことが起きただけにすぎません。

スタートアップには優しい中国政府

このメルマガの読者の方は、よくご存知だと思いますが、中国では新しい産業が登場すると、当初は規制が行われず、政府は黙認をします。この期間にスタートアップ企業は伸び伸びと成長することができます。中国では「野蛮な成長」という言葉が使われます。野蛮に蔑みの意味はなく「野生的な成長」程度の意味です。

中国政府がこのような黙認をする理由はよくわかりませんが、新しい産業がある程度成長するまでは妨げとなることをしない方が中国経済にとって得策だという判断と、企業の成長が早すぎて規制の根拠となる法整備が追いつかないという両方の理由があると考えられています。

しかし、産業が成熟をして、法整備が追いつくと、消費者を保護し、業界の秩序を取り戻すため、一気に規制をかけます。これは「整頓」と呼ばれます。それは起業家もわかっていることで、だからこそ、彼らは猛スピードで仕事をこなし、爆速成長するのです。タイムリミットがあるからこそ、ビジネススピードがあがるのです。もちろん、その分、仕事は雑にならざるを得ません。しかし、どちらが大切なのかを彼らは判断をして動いています。

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