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世紀の奇策家ジャック・マーは、なぜ日本に潜伏していたのか?習近平が狙うデジタル人民元とアリペイ統合の内幕=牧野武文

アリババ、百度、育てて食われる新興産業

アリペイ、WeChatペイもそうでした。2017年前後の急成長時代には、キャッシュレス決済として先行していた銀聯の関係者は「不公平だ。向こうは規制なしで伸び伸びやっているが、こちらは銀行の規制の中で新サービスを企画しなければならない。まったく競争にならない」と不平を言っていました。しかし、そのスマホ決済も今では、銀行の決済ネットワークに組み入れられ、商店から手数料を徴収せざるを得なくなり、大型のサービスを実施する時には、多額の準備金や担保金を積むことが要求されるようになり、以前のようには新しいサービスが登場できなくなりました。

ECもまったく同じです。2003年にECが普及をし始めた頃は、規制らしい規制がなく、タオバオも京東も伸び伸びと成長することができました。

2020年にアリババに課せられた多額の罰金も、このECに対する整頓の一環です。対象となったのはアリババを始めとして、百度、滴滴、京東、ピンドードー、美団、

字節跳動(バイトダンス)、携程など34社にものぼります。問題となったのは「二選一」行為で、排他的契約の強要です。タオバオで言えば、販売業者にタオバオ以外に出品をしないように強制し、それに従わない場合は不利な扱いをするというものでした。アリババだけではなく、多くのEC、サービスで横行していた問題です。この問題に対する「整頓」が始まっただけにすぎません。

このような「反壟断法」(独禁法)違反に対する罰金は、当該期間の営業収入の3%から4%という基準があり、タオバオの営業収入は巨大であるために、罰金も182.28億元という巨大なものになりました。罰金を課せられたのはアリババだけではありませんし、罰金額も基準通りに他社にも課せられています。ただし、他社の場合は営業収入がアリババほど大きくはなく、当該期間も短いためにアリババほどの巨額罰金にはならなかったというだけの話です。

この辺りの事情は、「vol.070:アリババに巨額罰金。独占を防ぐことで、市場は停滞をするのか、それともさらに成長するのか」で詳しくご紹介しています。

では、アントを召し上げられてしまったという話はどうでしょうか。この辺りの事情にデジタル人民元が深く関わってきます。

スマホ決済を可能にしたジャック・マーの奇策

アントは、元々はアリババ内部のアリペイ部門でしたが、スマホ決済をするために必要な決済事業者の免許が取得できないという問題を抱えていました。「vol.098:なぜ中国政府はテック企業の締め付けを強化するのか。公正な競争とVIEスキーム」でご紹介していますが、中国のネットサービス企業には外資の参入規制があるからです。ネット企業には外資は完全に参入できません。つまり、日本の企業や日本人がアリババの株を持つことはできないのです。

そこで、VIEスキームを使うのが中国のテック企業では常識になっています。まず、(どこでもいいのですが、法人税のかからない)バージン諸島などにシェルカンパニー(登記だけのペーパーカンパーニー)を設立します。そして、中国の事業会社と、このシェルカンパニーで契約を結び、実質的な親子会社と同然にします。シェルカンパーを契約で親会社にするのです。こうすると、シェルカンパニーは中国企業ではなく国際企業なので、誰でも自由に株を持つことができます。しかし、国内の事業会社はシェルカンパニーとは契約をしているだけで資本関係はありません。つまり、外資は1円も入っていません。

こうして、アリババに投資をしたいという外国人の要望と、中国の外資参入規制の矛盾を解消しています。ですので、ソフトバンクはアリババの株を保有していますが、中国のアリババの株ではなく、シェルカンパニーの国際企業アリババホールディングズの株を所有しています。

Next: あまりにも複雑で巧妙なアントグループの設立の手段

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