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世紀の奇策家ジャック・マーは、なぜ日本に潜伏していたのか?習近平が狙うデジタル人民元とアリペイ統合の内幕=牧野武文

ジャック・マーついに中国帰還か

そのジャック・マーがいよいよ香港に入り、中国に入るタイミングをうかがっています。ついにジャック・マーの反撃が始まるのか?エピソード4「ジェダイの帰還」に乞うご期待というのが、だいぶ茶化してはいますが、世間で語られるストーリーです。

確かに面白いストーリーですが、私には中国政府がデジタル人民元を着々と拡大させ、国際基軸通貨になる計画を進めているように見えます。魅惑的なストーリーの裏では、日本経済の将来に大きな障害となる人民元の国際化が進んでいるように見えます。

ジャック・マーは“ジェダイ説”の矛盾点

今回は、デジタル人民元とアリペイの関係についてご紹介します。

せっかくの面白い「ジェダイの帰還」のエピソードが始まるところに水をかけるようで恐縮ですが、このストーリーの矛盾点を指摘し、それがすべてデジタル人民元につながっていることをご紹介したいと思います。

まず、「ジャック・マーの発言に習近平主席が激怒」という点が不可解です。問題とされる発言は次のものです。「バーゼル合意は老人クラブと呼ぶべき存在です。バーゼル合意が解決しようとした問題は数十年続いてきた金融システムの老化の問題で、システムの複雑さという問題です。しかし、中国の金融システムの問題はまったく逆で、そのようなリスクはありません。むしろ、システムが成熟していないというリスク があるのです。…老人と若者は関心となる対象がまったく違います。老人は病院があるかどうかに関心を持ちますが、若者は学校があるかどうかに関心を持ちます…(若い中国の金融システムが)古い方法で監督管理されることを心配しています。過去のやり方で未来を管理することはできません」。

つまり、バーゼル合意は、欧米のような成熟した金融システムの劣化した部分を修正するものであり、これから金融システムを成熟させなければならない若い中国には意味がなく不適切な規制だと言っているのです。老人クラブという言葉も揶揄をしているのではなく、「老人は未来よりも過去に関心がある」という比喩です。

そして、ジャック・マーは中国の金融システムに必要なのは「ビッグデータの収集」「ビッグデータに基づくリスク制御」「ビッグデータに基づく信用体系」の3つであると指摘し、それはまさに芝麻信用(ジーマクレジット)などアントが今までやってきたことです。

批判というより、中国の金融システムを進化させる政策の提言であり、なぜこの発言に習近平主席が激怒をするのか、私にはよくわかりません。

昔から傲岸不遜なジャック・マー

そもそもこの程度のことは、ジャック・マーは以前から、アリババがまだ存在を認められていない時代からいくらでも言っています。

2008年12月に、中国起業家雑誌社が主催した「2008年第7回中国企業リーダー年次総会」では、ジャック・マーは「銀行が自ら変わろうとしないのであれば、私たちが変えていく」と発言をして注目をされます。まだアリペイは淘宝網(タオバオ)専用のオンライン決済、つまりタオバオポイントのようなもので、ようやく光熱費などの支払いに対応をし始めた頃です。ECで少し成功した若手起業家が「銀行を変えてみせる」という傲岸不遜な発言をしているのです。

この発言は中小企業への貸付についてのものでした。ジャック・マー自身もアリババの前の会社を創業する時に、創業資金を借りるためにある銀行に貸付の申請をしましたが、大量の書類を用意し、たびたび呼び出されて3ヶ月、結局貸付は拒否されました。ジャック・マーは怒ります。銀行もビジネスなので、貸付を拒否することは仕方がない。しかし、なぜその判断をするのに3ヶ月かもかかるのかということに怒りました。もし、すぐに判断をしてくれたら、ジャック・マーはもっと時間を有効に使えました。これでは若い起業家が出てこれないと怒ったのです。

その後、2015年になって、アントは網商銀行を設立します。この銀行の貸し出しは310方式です。3分でスマホから申請ができ、1秒で貸付判断がされ入金まで行われ、貸付業務にあたる人は0人というものです。芝麻信用のクレジットスコアにより、貸付額、貸付判断がアルゴリズムで自動的になされる仕組みです。もちろん、小口貸付のみですが、それでも農家や個人業者には非常にありがたい仕組みです。

Next: 中国政府にアリペイが奪われるのはジャック・マーの想定内だった

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