fbpx

中国の出生率は9つの政策で倍増する?絶望的“少子高齢化”の日本より何倍もマシな理由=牧野武文

約50%の家庭が高等教育に費用をつぎ込む

先ほど、中国の子どもが成人するまでのコストは総額48万5,218元という概算を示しました。しかし、これは18歳までであり、大学の費用が加算されていません。中国では大学までの費用は、親が負担するのが一般的です。親の老後は子どもが面倒を見るという考え方が根強いため、大学などの教育費は投資のひとつだと考えられています。

中国の大学進学率は約45%と非常に高く、その他、職業系の専門学校などの高等教育まで含めると、ほぼ全員が何らかの高等教育を受けています。いわゆる「農村の中学を出て、製造工場に就職」というパターンもまだまだありますが、やはり高収入の職を求めて、働きながら夜学や通信の高等教育を受けたり、休職をして大学などに通う例も増えています。もちろん、仕事をしながら学ぶことは簡単ではなく、挫折をして中途退学してしまう例も多いですが、希望としては誰もが高等教育を受けたいと考えています。

大学は基本的に国立、公立であるため、授業は年5,000~8,000元が相場です。また、音楽や舞踏などの芸術系は高くて、8,000元~10,000元が相場です。また、職業系の専門学校は1.2万元ー2.0万元あたりが相場になります。さらに学生寮の寮費が年800-2,000元が相場です。

これを授業料1万元、寮費1500元として、さらに毎月の生活費が2000元として計算すると、毎年1万+1500+2000×12=3.55万元となり、4年間で14.2万元となります。

つまり、0歳から大学または高等教育を卒業して、社会に出るまでに必要なコストは、48.5218+14.2=62.72万元(約1215万円)となります。これは中国の平均であり、都市部ではこの2倍以上になることに注意をしてください。

比較のために、ChatGPTに日本の養育コストを尋ねてみると、「毎年数百万円から数千万円」と教えてくれました。毎年500万円だとすると、500×22=1.1億円となり、中国の10倍近くなります。

しかし、問題は収入に占める養育コストの割合です。絶対額よりも、この負担感の方が重要です。このようなデータは、OECDやUNICEFを探しても、なかなかいいデータがありません(政府の公的支出に関する国際比較データは豊富にあります)。

先ほどご紹介したユーワーが各国の統計データを集めて一覧にしています。ただし、採用した統計データの年も、2013年のものから2021年までとばらついており、統計の取り方も統一されていません。あくまでも、概観をつかむための参考データとお考えください。

子どもが18歳(成人)するまでのコストが、一人あたりのGDPの何倍になっているかを比較したものです。

世界各国の子どもの養育費(0~18歳)が一人あたりの平均GDPの何倍になっているを見ると、中国は6.90倍となり、非常に養育コストが負担になっていることがわかります。また、韓国も7.79倍と負担感が大きくなっています。中国と韓国は、18歳以降の高等教育の競争も熾烈で、大学までの費用を含めると、より高い数値になるはずです。養育負担の高い国ほど、高等教育の競争が熾烈になるというのは興味深い現象です。

結婚せず子供を産まない中国の若者

このような負担感から、結婚、出産を避ける傾向が生まれてきています。次のグラフは、この20年の出生率です。出生数/人口をパーミル(1,000分の1)で示したものです。

中国の出生率の推移では、政策が終わった2015年以降、出生率が急激に減少するという皮肉な結果になっています。

ピークは2012年の14.57%ですが、先ほどの労働人口のグラフとシンクロしていることがお分かりだと思います。労働人口がピークアウトする2014年から大きく減少を始めています。

出生の前には結婚をしなければなりません。国家統計局の統計から、初婚登記数を2倍して、労働人口で割った割合では、毎年労働人口の何%の人が結婚をしているのかわかります。

これも労働人口のピークアウトとともに減少に転じています。注意していただきたいのは、労働人口という母数が減ったから、結婚する人の絶対数が減ったわけではないということです。結婚をしようと考える人の割合が少なくなっているということなのです。

つまり、2014年の労働人口のピークアウト以来、中国の若者たちは結婚をしなくなり、結婚をしないから、子どもつくらない傾向が急速に進んでいます。

社会が豊かになり便利になってくると、生活の利便性は高くなり、多くの人が自分の人生を楽しもうと考えるようになります。すると、結婚、子づくりという負担感の大きな選択肢を避ける傾向が生まれてきます。

ましてや、労働人口が減少に転じ、中国経済の先行き不安感が出てくると、ますます負担感の大きな結婚、子づくりを避ける傾向が出てきます。

女性の社会進出は日本よりも盛ん

また、今後、中国は女性の働き方が大きな社会関心になっていく可能性があります。中国では社会主義の色彩が濃かった時代に、徹底した男女平等教育が行われ、女性でも仕事を持って働くというのが当たり前になっています。そのため、家事の平等な負担というのは広く行き渡っていて、男性でも夕食をつくるのは当たり前のことになっています。

しかし、子育てに関しては、まだまだ古い慣習が生きていて、幼稚園などに行く前までは母親中心、小学校に上がってからは父親中心というのが、理想の教育法と考える人が、男女問わずに多いようです。そのため、母親に過度な負担がかかる状況になっています。

農家の場合は、田畑を耕す力仕事を父親がこなし、自宅中心の作業をする母親が子どもの世話をするというように、ある程度うまく分担ができていますが、都市部では女性が疲弊をする現象も起きています。女性には98日間の出産、育児休暇が標準で認められていますが、男性の育児休暇の取得率は低く、また、このような育児休暇制度がきちんと行われているのは公務員と大企業であり、中小企業や自営の場合は絵に描いた餅になっています。

中国の労働人口がなぜ減るのか。その答えは結婚と出産が避けられるようになっているから。なぜ結婚と出産が避けられるのか、それは労働人口が減り、中国経済の展望が見えなくなってきているからという堂々巡りになっています。

問題の本質は、日本とよく似て居ますが、違いはその深刻さが桁違いであることです。また、中国には手を打つ時間がまだ残されていることも異なる点です。

Next: 出生数を2倍に増やす9の政策

1 2 3 4 5
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー