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中国の出生率は9つの政策で倍増する?絶望的“少子高齢化”の日本より何倍もマシな理由=牧野武文

中国の子育て費用は約1,000万円

子どもの養育コストを計算するときに必要な消費支出のデータなどは、国家統計局にそろっていますが、2020年以降のデータは使えません。コロナ禍により、消費傾向、消費性向が大きく平常とはずれてしまっているからです。そこで、2019年の統計データを使って考えていきます。

国家統計局のデータによると、2019年の全国平均の消費支出は年間2万1,559元、その中で都市住民は2万8,063元、農村住民は1万3,328元となります。2万元が38万円ほどに相当します。

意外に少ないように思うかもしれませんが、これは消費支出の合計額を単純に人口で割ったものになるので、0歳児からお年寄りまでを含めた額になります。それでも4人家族であれば、2万1559元×4=8万6236元(約166.9万円)となり、それなりの額になります。北京、上海あたりの生活コストは、もはや日本の中核都市とまったく変わらない感覚ですが、全国平均にすると、まだまだ中国の物価は抑えられているようです。

これを、子どもが0歳から18歳まで、同じ生活コストがかかると仮定をすると、2万1559元×18=38万8,062元(約751.1万円)が子どもが成人するまでのコストと考えることができます。ちなみに都市住人では50万5134元(約977.6万円)、農村住人では23万9904元(約464.3万円)となります。

しかし、当然ですが、これは子どもがご飯を食べ、生きていくための基本コストで、他にもいろいろ費用がかかります。子どもをつくるには、妊娠、出産にかかる費用が必要になります。妊娠をすると、栄養のある食事をして、検査を受け、ベビー用品を買い揃えなければなりません。だいたい1万元程度が一般的だそうです。

さらに、分娩、入院費用、産後ケア費用なども必要になります。最近の中国では無痛分娩を選ぶ人が増えていて、費用は高額なものから割安なものまでさまざまです。出産にかかる費用も平均をするとだいたい1.5万元が一般的だそうです。

子どもが3歳になると、幼稚園や民間の就学前教育に通わせることが一般的になっています。これも費用はさまざまですが、仮に月1,000元としておきます。3歳から5歳までの3年間で3.6万元が必要になります。

6歳から17歳までは、義務教育+準義務教育であるため、家庭の教育費負担は大きく減少します。しかし、まったく0にはなりません。文房具を買ったり、教材を買ったり、受験前になると参考書や問題集も必要ですが、現代ではタブレットかPCも必要になります。

国家統計局のデータによると、2019年の一人あたりの支出のうち、教育・文化・娯楽の支出は2,513元となっています。両親と子どもがいる家庭では、3人で2,513×3=7,539元の教育・文化・娯楽費を使っていることになります。

このような家庭では、子どもの教育・文化・娯楽支出が多く、親の支出は抑えられるでしょうから、子どもが2人分、両親が2人で1人分を使っていると仮定します。すると、子どもの教育・文化・娯楽は2,513×2=5,026元となります。ただし、1人分の教育・文化・娯楽は先ほどの子どもの基本コストに含まれているので、基本コストにもう1人分の教育・文化・娯楽費2.513元を追加します。

高校生になると、自宅から通うというのは都市部の限られた人たちで、多くは学生寮に入ることになります。学校の中に管理をされた学生寮が用意されています。高校の多くは都市部にあるため、農村の子どもたちは学生寮に入り、都市に住んで自宅から通える場合でも、学業に集中できるという理由で学生寮に入ることがあります。この費用が年2,000元と仮定をします。

こうして概算をすると、子どもが高校を卒業して成人するまでの養育コストは総額48万5218元(約939.0万円)となります。つまり、中国ではざっと考えて、子ども1人を育てるのに50万元がかかることになります。これは、現実の収入に比較をして高いのでしょうか、安いのでしょうか。

かなり荒い試算であり、経済的に余裕のある家庭と余裕のない家庭では、このコストも数倍は違っているでしょう。しかし、この数字を一応の平均値として、この額が中国の親たちにとって、どのくらいの負担であるかを考え、国際比較をしてみたいと思います。そして、少子化に対して、どのような対策が考えられているのかをご紹介します。

人口減少への対処方法はまだ残されている

中国でも少子高齢化が進んでいますが、すぐに悪影響が出るというわけではなく、まだ手を打つだけの時間は残されているようです。「ユーワー」という人口問題に関する公共シンクタンク機関のサイト( http://www.yuwa.org.cn/)があります。ここに中国の人口予測が「悲観的予測」「中立的予測」「楽観的予測」のデータが掲載されています。

ユーワが予測をした2070年までの中国の人口構成では、高齢者人口は2060年をピークに減少に転じるが、少子化が止まらず、その影響で労働人口が大きく減少します。

高齢者人口(60歳以上)は2040年に大幅に増えますが、それ以降は増え方が緩やかになり、2070年には減少に転じます。全体の人口が減る中で、高齢者人口が増えるのは、さまざまな問題を引き起こしますが、最終的に減少に転じるため、対処のしようはありそうです。

一方、年少人口(0~14歳)は減少の一途をたどり、全体の人口を減少させる大きな要因になっています。少子化を食い止める政策が必要になっています。

また、最大の問題は労働人口(15歳~59歳)の減少ぶりです。2070年には5.48億人と現在の61.4%になってしまいます。これは大きな問題で、労働力不足の問題だけではありません。労働人口は現役消費人口でもあるので、あらゆるビジネスが60%に縮小することを意味しています。

しかし、その減り方はしばらくは緩やかで、2040年でも8.40億人、減少幅は5.8%程度です。そのため、この20年で年少人口の減少を食い止めることができれば、2040年以降の労働人口の減少にも歯止めをかけることができます。すると、高齢者人口は2060年をピークに自然減をするので、高齢化の問題も社会に大きな影響を与えない範囲で制御できる可能性が出てきます。

2070年の予測値に基づいた人口ピラミッドでは、非常にいびつな形になっています。人口ピラミッドは、立体があったとして、それを平面に置いた時に安定をするというのが健全です。

問題が根本の部分の細さにあることは明らかなので、根本部分を広くする、つまり少子化を食い止めて、出生率を上げることが中国の喫緊の課題であることがわかります。

少子化対策に積極的な中国政府

政府も積極的に動いています。2021年7月には国務院は「生育政策を進化させ、人口の長期的な均衡のある発展を促進するための決定」を公表し、出産、養育、教育の3つの家庭が負担するコストを低減することを決めました。

これを受けて、8月には「人口と計画生育法」を改正し、その27条で「国家は財政、税収、保険、教育、住居、就職などの措置を支持し、家庭の出産、養育、教育の負担を軽減する」と定められました。つまり、地方政府に対して、家庭の負担を軽減する政策を行えと命じたわけです。これにより、各地方ごとに具体的な支援策の立案が始まっています。

また、大きな優遇政策ではありませんが、3歳以下の子どもを育ている納税者には、毎月1,
000元に相当する減税をすることも施行されました。

労働力人口は、そのまま消費人口でもあるため、中国経済に大きな影響を与えます。この20年の中国の労働力人口を見てみましょう。

中国のこの20年の労働人口の推移を見ると2014年をピークに減少をし始め、その現象の仕方が加速しています。

2014年の10.1億人をピークに減少をしています。2014年までの労働力人口の増え方は急で、その後、ゆっくりと減少に転じています。近年、中国の人口が減少に転じたことから、中国経済の先行きが心配をされていますが、中国のビジネス界隈の人にとっては、労働力人口の減少の方が大きなインパクトがありました。お客さんの数が減るのですから、大きな問題にならないわけがありません。

アリババの創業者であるジャック・マーが、「純粋なECはすでに死んでいる」と宣言をしたのが2016年のことです。そして、「オンライン小売とオフライン小売は深く融合して、新小売になっていく。すべての小売業は新小売になる」という新小売宣言を行い、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)をスタートさせたのが、2017年のことです。この背景には、労働力人口(消費者人口)の減少があったことは間違いありません。

先ほどご紹介した労働力人口の予測値は、企業経営者にとって大きな衝撃になっているはずです。その労働力人口の減少を遅らすためにも、出生率をあげて、子どもの数を減らす必要があるのです。2040年の予測では8.4億人と、現在から6%も減るのも衝撃ですが、2050年には7.39億人と17%も減少をすることになります。しかも、2070年までの予測でも、労働人口の減少は止まる気配がありません。中国の21世紀は、衰退の100年になるのではないかという危機感があります。

Next: 約50%の家庭が高等教育に費用をつぎ込む

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