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プリゴジン殺害の黒幕は本当にプーチンか?日本では報道されない4つの仮説を検証=高島康司

仮説1. プーチンが命令した可能性

まず(1)のプーチンの命令という、主要メディアが喧伝している仮説を見てみたい。

主要メディアでは、これが事実であるかのように語られているが。実はこの仮説がもっとも信憑性がないことが分かる。

まず、プリゴジン殺害のタイミングだが、これはちょうど「BRICS首脳会議」が開催されている最中に起こった。中国とロシアが主導する「BRICS首脳会議」は、プーチン大統領にとって見ればまさに世界の多極化を率いるリーダーとして注目される絶好の機会である。このような場では、プーチン大統領のロシア統治が安定していることをアピールする必要がある。

そうしたタイミングでプリゴジンの殺害を命じることは、ロシアにプーチンの指示には従わない勢力があることを証明することになり、プーチン体制の不安定性を逆に喧伝してしまうことになる。

もしプーチンがプリゴジンの暗殺をするのであれば、「BRICS首脳会議」が始まる前プリゴジンがいた西アフリカで事故に見せかけて殺害するだろう。またはこれを首脳会議の後に実行するだろう。したがって、プーチンが命令したというのは、よほどの証拠がない限り考えにくい。

しかし、プーチンに不利な状況証拠として最も有力なのは、同じ日にセルゲイ・スロヴィキン将軍が降格されたことである。6月27日付の「ニューヨーク・タイムズ」紙は、米政府関係者の話として、スロヴィキンは「エフゲニー・プリゴジンがロシアの軍事指導部に反抗する計画を事前に知っていた」と報じた。

結果的に、スロヴィキンは職を失い、プリゴジンは同じ日に命を落とした。少なくとも、スロヴィキンが反乱の事実を知りながら、それをクレムリンに隠していたとすれば、反乱の背後にいる2人の有力者を排除するための、協調的な計画があったことを示唆することにもなる。

だが、それでもプリゴジンの殺害を「BRICS首脳会議」の最中にプーチンが命じるとは考えられない。首脳会議開催前か終了後に命じるはずである。

仮説2. フランス、アメリカなどの西側勢力の犯行

プーチンが命令したとする説よりも説得力がはるかにあるのは、(2)のフランス、アメリカなどの西側勢力の犯行だという仮説である。これは、7月28日にクーデターで軍事政権が成立したニジェールと関連した仮説だ。

ニジェールはウラン鉱石や金などの鉱物資源の宝庫だが、ニジェールの経済はフランス政府とフランスの多国籍企業、そしてそれらとつながった現地エリートの政治家によって実質的に支配されている。こうしたフランスの新植民地主義の打破を主張して成立したのが、今回の軍事政権だ。したがって、フランスとの関係は敵対的だ。政権の成立直後にまず行ったのは、国内のフランス軍の撤退要請、ウランと金のフランスへの輸出禁止であった。

そして、このようなニジェールに進駐する構えを見せていたのが「ワグネル」である。アフリカを植民地化した過去のないロシアの西アフリカにおける人気は非常に高い。もちろんニジェールでもそうだ。ロシアには国民の圧倒的な支持がある。そうした支持を背景に、「ワグネル」がすでにニジェールに展開しているという情報もある。そうすると、ニジェールの鉱物資源はフランスではなく、ロシアが開発することになる。

こうした状況なので、フランスとニジェールの関係はどんどん敵対的になっている。ニジェール軍事政権はシルヴァン・イッテ駐フランス大使に48時間以内の退去を命じた。ニジェール外務省は、イッテ大使が会談の招待に応じなかったことや、「フランス政府がニジェールの利益に反するその他の行動をとった」ことを理由に、この決定を正当化した。

大使の追放を受けてフランスのマクロン大統領は、「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」によるニジェールでの軍事行動を支持し、追放された指導者モハメド・バズームの統治を回復させると述べた。

また、アメリカもニジェールにはイスラム原理主義勢力を掃討するためのドローン基地を持つ。さらに、「ワグネル」の部隊がすでにニジェールで展開しているという情報もある。主な任務はナイジェリアなどと接する南部の国境警備だ。一方、アルジェリアやリビアに隣接した北部の国境はいまだにフランス軍が警備している。フランス軍は戦闘機を飛ばし、軍事政権に圧力をかけている模様だ。

こうした状況から見ると、特にニジェールに展開している「ワグネル」を追い出し、ロシアの影響力を弱めたい強い動機が、フランス、さらにアメリカにはあることになる。ということでは、フランスやアメリカがその情報機関を使ってプリゴジンを殺害し、「ワグネル」を弱体化させたい動機は十分にある。

Next: 犯人は誰だ?ポーランドやウクライナの情報機関の可能性は…

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