ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の代表、プリゴジンが死んだ。プリゴジンは、6月23日に起こしたクーデターの責任をとらされ、プーチン大統領によって殺害されたとする報道が日本では中心だ。だが、はたして本当にそうなのだろうか?詳しく調べると、まったく異なる犯人説が浮かび上がってくる。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
プリゴジンを殺害したのは誰なのか?
8月27日、ロシア調査委員会は、モスクワ北方で発生した航空機墜落事故で死亡した人々の遺伝子検査を完了し、ワグネル民間軍事会社創設者、エフゲニー・プリゴジンを含む全員の身元を確認したと発表した。
「トヴェリ州での飛行機墜落事故の調査の一環として、分子遺伝学的検査が完了した。その結果、10人全員の身元が判明した。彼らはフライトマニフェストに記載されたリストと一致する」と航空局は声明で述べた。ロシア航空局は先に、乗客リストにはエフゲニー・プリゴジンとドミトリー・ウトキンの名前が含まれている。
8月23日、プリゴジンが登場したエンブラエル・プライベート・ジェットは、モスクワからサンクトペテルブルグに向かう途中、モスクワ北部のトヴェリ州で墜落した。30日、出身地のサンクトペテルブルグでプリゴジンの密葬が行われた。出席を許されたのは、近親者だけだった。また、ロシア当局はこの機体の墜落原因について、当面は国際的規則に基づく調査は行わないとした。はっきりとした理由は分からない。
一方、EU執行部のプレスサービスは、プリゴジンの死について「信頼できる確認がとれていない」とする声明を出した。プリゴジンはEUの制裁対象となっており、制裁解除のためにはEU加盟国による協議が必要である。いまのところ協議が行われていないので、死亡も公式には確認できていないということのようだ。
考えられる実行者
プリゴジンが登場した航空機の墜落が事故であった可能性はまだ排除できない。飛行していたエンブラエル機は16年前の古い機体であり、整備不良による金属疲労の可能性、ならびに機体がなんらかの事故で降下を始めたときに、機体の高度を維持するためにパイロットがエンジンをフルスロットルにしたため、金属疲労のあったエンジンが爆発したという可能性もあるという見解も出ている。事故説の可能性はあるものの、いまのところこれも科学的に確認できていないので、今回はプリゴジンが殺害されたものとする仮説で記事を書くことにする。
日本や欧米の主要メディアではプリゴジンはプーチンの命令で「FSB」が実行したとする説が喧伝されているが、これはもともありそうもない仮説である。証明もできていない。海外のロシア専門家の間では、以下の説が有力視されている。
<仮説1. プーチンの命令(西側が推すシナリオ)>
6月23日のプリゴジンの未遂クーデターを裏切りと見たプーチンは、コントロールが効きにくいプリゴジンの排除を決めた。「ワグネル」はプーチンに近い勢力がコントロール。
<仮説2. フランス、アメリカなどの西側勢力>
アフリカにおける「ワグネル」の力を弱め、アフリカにおける権益を確保するためにやった。
<仮説3. ポーランドやウクライナの情報機関>
「ワグネル」はベラルーシ軍を訓練し、ポーランド国境に配備されている。ベラルーシにおける「ワグネル」の力を弱体化するためにやった。
<仮説4. 「GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)」の仕業>
「ワグネル」内部の権力闘争。「ワグネル」を結成したのは「GRU」。コントロールが不能になったプリゴジンを排除し、「ワグネル」を完全に掌握するために行った。
それでは、それぞれの仮説がどこまで成立するのか、その可能性を検証してみることにする。