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プリゴジン殺害の黒幕は本当にプーチンか?日本では報道されない4つの仮説を検証=高島康司

仮説3. ポーランドやウクライナの情報機関

また、ウクライナやポーランドの情報機関が今回の殺害に関与したとする仮説も説得力がある。

このシナリオのカギになる国がポーランドである。現在のポーランド政権はポーランドの伝統にこだわるナショナリスティックな右派政権であり、ウクライナやベラルーシに対して領土的野望を持ってもおかしくない政権なのだ。これを理解するためには、ポーランドの歴史を振り返る必要がある。

周知のように、1939年9月に始まったナチスドイツのポーランド侵攻で第二次世界大戦が始まった。ナチスドイツとソビエトとの秘密協定があり、ナチスの侵攻とともに東部にはソビエト軍が侵攻した。その結果、ポーランドはニ分割され、西部がナチスドイツ、東部がソビエトの支配下に置かれた。

ナチスドイツの降伏後、1945年のポツダム会談により、第二次世界大戦後のドイツ・ポーランドの暫定的な国境が設定された。これを「オーデル・ナイセ線」という。ポツダム会談ではスターリンは1939年以降にソビエトが支配した地域の返還を拒み、ソビエトに併合してしまった。併合された地域は現在のウクライナとベラルーシの西部である。その代わりとして、ドイツの一部を西部ポーランドに併合した。この結果、ポーランドの領土は戦前に比べ、西に移動した。

現在のナショナリズムの傾向が強い右派のポーランドの政権は、戦前の領土を回復するという野望を持っていると見られている。そうしたポーランド政府から見ると、現在のウクライナ戦争は野望を実現する好機として映ってもおかしくない。ウクライナがロシアに負けそうになると、ウクライナ支援を名目にウクライナ西部に軍事侵攻し、そのままウクライナに居続け、将来的な領土併合の条件を作ろうとするかもしれない。

ポーランドのこのような野望を感じて警戒しているのが、ベラルーシだ。ウクライナ戦争を機にポーランド軍がベラルーシに侵攻する可能性を警戒している。そのためベラルーシのルカシェンコ大統領は、失敗したクーデター後にベラルーシに入った「ワグネル」をポーランド国境に配備し、軍事演習を始めた。これに対し、ポーランドもベラルーシ国境で軍事演習を行っている。

そして8月28日、ポーランドのマリウシュ・カミンスキー内相は、ラトビア、エストニア、リトアニアとの共同記者会見で、ベラルーシとの国境を閉鎖する可能性があると警告した。

「ポーランド国境、リトアニア国境を問わず、重大な事件が発生した場合、我々は直ちに報復する。これまで開かれていた国境はすべて閉鎖されるだろう」とカミンスキーは述べた。カミンスキーは、「ワグネル」を 「非常に危険」でありながら「戦意を喪失させた 」勢力であるとし、「(我々は)何でもできる」と主張した。

そして次のように要求した。

「我々はミンスク当局に対し、「ワグネル」がただちにベラルーシ領内から退去し、不法移民(ワグネル)がただちに国境地帯から立ち去り、母国に送り返されるよう要求する」

これは極めて強い警告である。ポーランドとベラルーシの緊張はかなり高まっている。こうした状況で、ポーランド、そして同盟しているラトビア、エストニア、リトアニアが、もしかしたらウクライナとともに、「ワグネル」を弱体化させるためにリーダーのプリゴジンを暗殺したとしてもおかしくないだろう。

Next: 「ワグネル」の内部抗争か?もっとも説得力のある説は…

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