判断が難しい丸紅
最後に丸紅を分析します。
丸紅の特徴は、金属事業に次いで、農業関連の肥料・農薬・種子などの販売などを行うアグリ事業や、豚肉、コーヒー、トウモロコシなど様々な食料品の生産・販売等を手がける食料品事業の売上規模が大きいことです。
丸紅の今期の業績は売上が▲33.3%(3兆7,506億円)、▲20.0%(1,514億円)です。他社に比べて売上が大きく減少していることがわかります。
その理由は、金属資源関係の悪影響は同じですが、利益規模2番手のアグリ事業の業績が悪化しているためです。
今期は農薬および肥料の価格下落の影響を受けて業績に悪影響を与えています。これも昨年のロシア・ウクライナ情勢による飼料価格急騰、そして現在の価格沈静化の影響があると考えられます。
出典:丸紅 決算説明資料
しかし通期で見ると、最終利益が7%の上方修正です。主要因は英国市場で電力卸・小売り事業を手掛ける子会社スマーテストエナジーが、利益を拡大したことによるものです。
出典:丸紅 決算説明資料
業績が厳しい中でも好調の要素もある、総合的に判断が難しい印象を持っています。
総合商社の全体像
いかがでしたでしょうか?5大商社の現状について分析・解説してきました。
総合商社全体の特徴をまとめます。
・資源価格の下落の影響は不可避
・それに代わる自社の強みの産業が好調であれば最悪の状況ではない
・為替の影響も大きく、円高へのリスクは平等に存在している
・絶好調、という企業は見当たらない
これを踏まえて現在の株価の評価を見てみましょう。
参照:マネックス証券より作成 23年11月28日終値時点
私は、この中であれば住友商事が魅力的に見えます。何故ならば、上方修正の要因が為替などの外部環境によるものではなく、事業の好調にあるからです。加えて株価指標的にも相対的に割安になっています。
一方で為替のリスクを考えると、三井物産には注意が必要だと感じます。
総合商社の良いところは、様々な事業を持っていることです。
資源関係が調子を落としたとしても、他の事業で巻き返すことができると考えます。一方で、このような多角化企業はコングロマリットディスカウントという株価が割安(低PER、PBR)のまま推移しやすいというデメリットもあります。
昨年はバフェット効果や為替の影響、資源価格の高騰で総合商社に注目が集まった一年でした。ここから再度注目を浴びるには、金利高解消による市場全体の活性化や、多くの会社が参入する再生可能エネルギーなど新エネルギー関連の注目度が高まることなどが必要でしょう。
反対に(くどいようですが)為替が円安に触れる際は注意が必要です。金利が下がれば円安も解消される可能性もあり、これはトレードオフとも言えます。金利の動向も確認しながら、今後も総合商社の動向を追っていきたいと思います。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
』(2023年11月28日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。