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なぜ2000年代に流行した中国のSNS「QQ」再び脚光?日本の中高年が知らない、若者が好んで使う理由=牧野武文

なぜ若者はQQを使うのか?

答えを先に言うと、若者に好まれる設計を積極的に取り入れているからです。QQの運営チームは、若者が好むポイントをよくわかっていて、意識的に好まれるものは残し、新たな機能追加を行っています。QQのどのような点が若者に好まれているのかがわかると、「若者に好まれるSNSとはどのようなものか」がわかってきます。

QQは2000年11月にテンセントがリリースしたSNSです。当時は当然ながらパソコン上のソフトウェアでした。重要なのは、QQは非常に先進的なサービスだったということです。当時は、SNSという言葉はまだなく、QQは「インスタントメッセンジャー」と呼ばれていました。

当時のインターネットのコミュニケーションの方法は、電子メールとBBS(掲示板)が主体でした。そこにイスラエルのミラビリス社が画期的なソフトウェア「ICQ」を発表します。これは、パソコンの画面に常駐をしておけば、友人がログインしているかどうかがわかり、クリックをすれば、チャットや音声通話ができるというものでした。ICQとは「I Seek You(あなたを探す)」の音をとったものです。現在のSkypeやFacebookメッセンジャーに近い感覚です。このICQは、世界で利用者が1,000万人を突破し、1998年に米AOLが4.07億ドルで買収をし、AOL Instant Messenger(AIM)となりました。

これに興味を示したのが、当時、潤訊という企業でポケベル関連の研究開発をしていた馬化騰(マー・ホワタン/ポニー・マー)です。ポニー・マーは、ポケベルよりも高機能のモバイルデバイスが登場することを想定して、それに乗せるコミュニケーションソフトウェアの研究開発を行っていました。ICQに注目をし、インスタントメッセンジャー開発の企画を上司に進言しますが、却下されてしまいます。そこで、友人と退社をして起業をして開発をすることにしました。これが騰訊(テンセント)です。社名は、馬化騰の名前と勤めていた会社の潤訊の名前からとっています。英語の社名も当時有名だったルーセントテクノロジーを真似て、テンセントにしています。

当時は、会社で企画が却下されると、外に出て起業し、開発を進め、数年である程度のビジネスに育てたら、元の会社に買収してもらい復職するというパターンがけっこうありました。平社員が数年で事業部長になれる可能性がありますから、挑戦してみる価値はあります。テンセントも、ネーミングの仕方から見て、当初はそのような気楽な起業のつもりだったのかもしれません。

ポニー・マーは最初の1年で1,000人、2年目で4,000人、3年目で1万人を突破する目標を立てていました。ところがQQはリリース9カ月目に利用者数が100万人を突破します。これは潤訊に買収されることよりも、自分でやった方がいいのではないか。そう考えたのかもしれません。

歴史を作り上げてきたQQの重要な機能4つ

QQについては、過去のメルマガで触れているので、ここではサービス内容については詳しく触れません。感覚として、FacebookやMIXIをイメージしていただければいいかと思います。
ただし、後のテンセントにとって、重要な機能が4つありますので、それについてご紹介しておきます。

1.個人商店にも連絡しやすい「QQホットライン」

QQは常にパソコンの画面に表示をしていて、友人のリストが表示されています。在籍中のランプがついていたら、クリックするだけでチャットができ、音声通話もできるようになっていました。

これを利用したのが個人商店です。顧客や関係者との連絡に使ったのです。顧客がお店に行く前に在庫があるかどうかを確認したいという場合は、QQで連絡をとり、在庫の有無を尋ね、取り置きをしてもらってから行くということができました。この当時は、多くの個人商店が名刺やチラシ、看板などに「QQホットライン」としてQQのアカウントを掲載していました。

このサービスは、次第に発展をして、現在のエンタープライズサービス支援/コンサルサービスにつながっています。

2.大流行したソーシャルゲームの先駆け「QQゲーム」

QQ上ではさまざまなゲームを楽しむことができました。大流行したのは「QQ農場」です。畑に種を蒔いて育てる単純なゲームですが、水や肥料をやったり、収穫をしたりしなければなりません。注目すべきはソーシャルゲームになっていたことです。QQ上の友達の農場を訪ねることができ、そこで水やりを手伝ってあげたり、逆に作物を勝手に収穫して盗んでしまうこともできました。もちろん、ゲーム上のことなので怒る人はまずいません。そういうじゃれ合いがが楽しめたのです。

その後もヒットするソーシャルゲームが続き、現在のゲーム事業に発展していきます。

3.WeChatペイの基礎を作った「QQ幣」

当時の中国はオンライン決済の仕組みが少なく、QQの中では「QQ幣」という貨幣が使えました。銀行振込みでQQ幣を購入すると、自分のアカウントにチャージされる仕組みです。これにより、ゲームの有料アイテムを購入することができるようになりました。また、ブログであるQQ空間や、自分のアバターに服を着させて披露するQQショーなどで面白いコンテンツを発表する人に投げ銭をするなどができました。

これが後に「財付通」となり、現在のWeChatペイにつながっています。

4.Spotifyよりもいち早く音楽配信をスタートした「QQ音楽」

さまざまな音楽が聴ける音楽ストリーミング配信です。2005年という時期に始まっていることに注目をしてください。翌年、SpotifyとNapsterがスタートしますが、ユーザー同士が自分の音源を他人に聞かせるというもので法的な問題があり、社会問題ともなりました。QQ音楽は、その中で、いち早くレーベルと交渉をし、正式に音楽配信をしていたサービスです(ユーザーが自分の音源を友人に向けて公開する機能もあった)。

これが後に、エンターテイメント事業に育っていきます。つまり、今日のテンセントの主要事業は、ほぼQQの中から生まれているのです。

時代はPCからスマホへ、衰退するかと思いきや利用者数は増加中

しかし、QQはパソコンベースであるため、スマートフォンが台頭をしてくると、QQのモバイル版の開発が難航をしました。機能が多すぎて、モバイルアプリに詰め込むことが難しかったのです。また、コミュニケーションの仕方も「画面に常駐しておき、いつでも連絡が取れる」というスタイルは、スマホになじみません。

そこで、2011年にスマホ時代のまったく新しいSNSとしてWeChatをリリースします。多くの人がQQからWeChatに引越し、QQは時代の役割を終え、いつか人がいなくなって終わるものだと誰もが思いました。

ところが、この数年、QQの利用者数の減少が止まり、2022年上期には400万人ほど増加するとーー

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知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』(2024年3月18日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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