いまイランとイスラエルの関係が緊張し、報復の連鎖から大規模な中東戦争へと拡大する危険性も懸念されている。この紛争が食糧危機に結び付く可能性について解説したい。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
イランとイスラエルが戦争へ
4月13日、イランの「イスラム革命防衛隊(IRGC)航空宇宙軍」は、イラン国内からイスラエルへの大規模な自爆ドローンとミサイルの攻撃を行った。イスラエルの空爆によりシリアで精鋭、「コッズ部隊」の上級司令官を含む4人が殺害されたことに対する報復だ。
イランがイスラエルに向けて発射したミサイルとドローンは331発。しかし、神風ドローン185機中185機、弾道ミサイル110発中103発、弾道ミサイル110発中103発がイスラエルの防空システム、「アイアンドーム」によって撃墜された。イスラエル領内で7発の弾道ミサイルの着弾が記録されている。イスラエルの実質的な被害は非常に軽微で、イスラエル南部の「ネバティム空軍基地」に着弾した弾道ミサイルがインフラの一部を破壊したに止まった。
今回の攻撃は、戦争の拡大を望まないイランによって、イスラエルに大きな被害が出ないように調整されていた。イギリスの大手経済紙、「フィナンシャルタイムス」は攻撃の前日に、イランは調整された報復を準備していると警告する記事を掲載した。記事にもあるように、イランは攻撃の実施の前にアメリカと近隣諸国に事前に通告していた。この情報はイスラエルにも伝わっていたものと思われる。
イランは発射した自爆ドローンや巡航ミサイルの数を、イスラエルの迎撃システム、「アイアンドーム」が撃墜可能な範囲に抑えていた。ちなみに昨年10月7日の「ハマス」によるガザ攻撃では、「アイアンドーム」の対応能力を越える3,000発から5,000発のロケットとミサイルが発射され、「ハマス」のイスラエル領内の侵入を可能にした。もし今回イランが本気で攻撃したのであれば、「アイアンドーム」の対応能力を越える数のドローンやミサイルが発射されたはずだ。
一方イランは、報復を求める国内世論の高まりや、保守強硬派の圧力からイスラエルに報復せざるを得ない立場にあった。しかし、イスラエルに大きな被害を与えるほどの攻撃を実施すると、全面的な大戦争になる。これを望まないイランは、イスラエルの被害を最小に抑えるように調整した報復攻撃を実施したというわけだ。事実イランは、この攻撃が最後であるとの声明を出している。
実はいま、イランの経済は成長している。一頃は欧米の厳しい制裁で大変なインフレと経済の後退に見舞われていたが、いまは正式なBRICSのメンバーとなり、中国とロシアとの間で軍事と経済の協力協定が多数結ばれているので、イランは低迷を脱し繁栄している。そのような状況にあるイランは、経済を地盤沈下させてしまうような戦争は、たとえ宿敵イスラエルとの間でも望んではいない。
また、今回の攻撃はイランにメリットがあったことも指摘されている。まずイランは、イスラエル領内を攻撃する能力があることを内外に示すことができた。またイランは、イスラエルの「アイアンドーム」の作動を実際に見ることで、防空システムの突破に必要となるミサイルやドローンの数と戦術を把握することができた。
他方、いまイスラエルの戦時内閣は、目標の選定を巡って内部で意見対立があるものの、イランに報復することでは意見が一致している。報復は、(1)イラン国外のイラン系武装勢力、(2)イラン国内の軍事施設のどちらかになる模様だ。(1)であればイランの許容範囲だろうが、(2)であればイランのさらなる攻撃があり、報復の連鎖から大規模な中東戦争へと拡大する危険性もある。いま、イスラエルの報復がどうなるのか、かたずを飲んで見ている状況だ(編注:原稿執筆時点4月18日。4月19日午前11時現在、イスラエルがイランに報復攻撃を開始したと報道されています)。
予想以上に大きい影響
ところで、今回のイランによるイスラエル攻撃の影響は、予想以上に大きかった。攻撃後の15日のニューヨーク株式市場は、ダウ平均株価は6営業日連続の値下がりとなった。
この背景となったのは、イランのイスラエル攻撃による石油を含めた商品相場の世界的な上昇、そして、それに伴うインフレ懸念の再燃から、「FRB」が利下げの時期を再度見送ったことにある。利下げが始まる時期が遅れれば、金融引き締めが長引き景気を減速させるとの見方から売り注文を出す投資家が多かったのだ。
これが、株式相場を大きく引き下げる原因になった。
しかし、もっと重要なことは、年が明けるにつれて世界のインフレは収まり、物価はピークアウトしたのではないかという期待が完全に裏切られたことだ。むしろ、戦争によるインフレ拡大が大きな懸念材料になった。
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