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イランとイスラエルの緊張で食糧危機になるのか?予想以上に大きい日米経済への影響=高島康司

さらに悪いことに、イランとイスラエルの直接紛争の継続の可能性は、明らかに市場には織り込まれていないことだ。そのため市場は強く反応し、これからインフレが予想を越えて加速する懸念もある。戦争の状況によっては、原油価格は1バレルあたり100ドルまで上昇する可能性があるとする予想も多い。ちなみに4月17日現在で、原油価格は1バレルあたり85ドルだ。

原油だけでなく、貴金属からコーヒー、ココアまで、他の重要な商品にも上昇圧力がかかっている。資産市場という観点からは、銅、金、その他の商品価格の急騰が特に警戒感を高めている。

最悪のシナリオでは、イスラエルによる強硬な報復がエスカレートのスパイラルを引き起こし、前例のない地域紛争に発展する可能性がある。すると、原油だけでなく、あらゆる商品と資産の相場が急騰することは間違いない。

いまのところ、イスラエルの報復攻撃はイラン領内の核関連施設や、イラン国外のイラン系武装勢力の拠点になる見込みが強い。そうなればイランも報復を自制し、全面的な戦争にはならないと思うが、どうなるかはまだ分からない。

もちろん、インフレの再燃から「FRB」が利下げどころか、さらなる利上げに踏み切るようなことにでもなれば、日米の金利差から円安はさらに加速する。現在、1ドル、154円程度だが、下手をすると160円程度にもなるかもしれない。イランとイスラエルが報復の連鎖になると、こうした状況も十分に考えられるだろう。

原油価格の急騰が引き起こした食糧危機

いま、アメリカを始め各国がイスラエルに報復しないように自制を求めているが、イランとイスラエルの戦争が拡大すると、食糧危機の発生まで懸念されるようになっている。だがそれは、ホルムズ海峡の閉鎖など、貿易ルートの途絶によるものではない。貿易ルートの遮断という事態が起こらなくても、食糧危機が発生する可能性はある。

そのモデルとなるのは、2008年から2009年に起こった食糧危機である。これについては、過去のメルマガの記事で何度か紹介したことがある。これがどういう危機だったのか、再度解説する。

2008年はリーマンショックで頂点に達した金融危機の年だったが、食糧危機の本格的な到来も叫ばれた年であった。トウモロコシを中心とした穀物の価格は高騰し、低開発諸国で大規模な抗議運動や暴動が起こった。コメは217%、小麦は136%、トウモロコシは125%、大豆は107%も上昇した。穀物を飼料とする食肉価格も急騰した。現在よりも激しい高騰である。このときは本格的な食糧危機がやってきたとして、日本でも食糧備蓄を勧める声が大きくなった。

しかし、食料の価格高騰は1年ちょっとで収まった。それというのも、価格高騰の基本的な原因が原油価格の高騰にあったからだ。このとき原油価格は、史上最高値の1バーレル、147ドルにもなった。この価格水準ならば、コストのかかるトウモロコシが原料のバイオエタノール燃料でも十分に採算が取れる。そのため多くのトウモロコシ農家が食料の生産からバイオエタノールの生産へとシフトしたのだ。これが、食料としてのトウモロコシの価格の高騰を招いた。

一方、トウモロコシの価格上昇は、穀物全体の値上がりを期待した投機マネーの流入を招き、国際市場で農産物価格が吊り上がった。この結果、価格高騰は穀物全体に拡大した。さらに、当時世界各地の農業地帯を席巻した天候異変による凶作も影響した。

だが2009年になると、アメリカのシェールオイルの生産も始まり、原油価格は急速に下落した。それに伴い、バイオエタノール燃料の生産は採算が取れなくなり、多くのトウモロコシ農家は食料の生産へと回帰し、供給が増大したトウモロコシの価格が下落した。その結果、穀物市場への投機マネーの流入も止り、穀物価格も下がった。このようにして2009年後半には食料価格は元の状態に戻り、食糧危機の懸念はなくなった。

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