中国が世界の生産シェアの6割を握るレアアース。中でも電気自動車や軍事装備に不可欠な重希土類が、わずか5〜10年で枯渇するという重大事態に直面している。30年以上にわたる乱獲と地層破壊、そして専制体制がもたらした情報隠蔽――その構造的欠陥が、中国が誇った「資源外交の武器」を自ら腐らせた。一方、日本は南鳥島の深海に眠る世界最大級の重希土類鉱床の商業生産を2028年以降に控える。歴史的な「主役交代」が、静かに、しかし確実に近づいている。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
中国のレアアース「重希土類」が枯渇する?
中国で現在、予想外の事態が持ち上がっている。中国は、レアアース(希土類)の生産で、世界の6割(精錬で9割)のシェアを握る。このレアアースの中で、最も高価とされる重希土類の国内資源が、5~10年先に枯渇するという重大事態に直面しているのだ。中国は、これまで、この重希土類レアアースを外交の「武器」に使ってきた。その武器が間もなく消えるとなれば、中国の「威圧外交」も姿を消すはずである。世界情勢を揺るがせてきた中国の振る舞いが、静かになるであろう。
鄧小平は、レアアース資源の存在を誇りにしてきた。中国に、石油資源は存在しないが、レアアースは存在すると胸を張った。だが、その誇りとする重希土類が、30年足らずで枯渇とは、中国で何が起っているのか、にわかに注目を集めている。それは、中国で「資源管理」がまったく行われていなかった結果だ。レアアース資源が、無尽蔵と錯覚して「乱獲」したからである。資源は本来、有限である。この分かりきった事実が、目先の利益追求で乱獲されたのである。
もっとハッキリ言えば、レアアースの地層を痛める形で採掘されたのである。この採掘方法は、地層へ酸性溶液を撒くという原始的方法が、環境を破壊しながら長く行われてきた。これによって、未だ採掘されていないレアアース地層を広範に「ダメージ」を与えることになった。「技術的無知」と「短期の利益追求」が重なりあい、こういう事態を招くことになった。技術的な内容は後で取り上げることにする。
失敗した資源管理策
中国の歴史を振り返ると、「資源管理」思想がゼロであることが分かる。現在、月の沙漠のように一木一草も生えていない黄土高原は、かつて鬱蒼とした森林地帯であった。それが、明の時代に入って首都北京の建設や、万里の長城の築造のため大量の森林伐採が行われた。伐採の後には、植林するという発想がなかったのだ。これに対して日本は、江戸時代に幕府直轄地での伐採を固く禁じる布令を出していた。中国と日本では、資源管理の考え方がまったく異なっている。この違いが、現在のレアアース採掘面にもよく現れている。
これから、中国のレアアース「乱獲」の実態をみていくが、鄧小平によって貴重資源とされたものの、採掘現場はまったくの野放図な採掘であった。計画性が、微塵もみられなかったのである。重要な素材であるから資源保存を大事に行う。そういう視点が、まったく欠如していた。レアアースの中でも、重希土類のDy(ジスプロシウム)・Tb(テルビウム)は、電気自動車の駆動モーター、風力発電のタービン、産業用ロボット、ミサイル誘導、航空宇宙といった最先端機器の小型化と高性能化に必要な「永久磁石」の素材である。
中国が現在、日本企業に対して輸出規制を行っているのはDyやTbなどである。日本の軍事化阻止という名目だ。中国が、外交威圧の切り札に使うほど重要なレアアースが現在、どのように採掘されているのか。それは、驚くほど「粗放」であった。
Dy・Tbは、地殻中の存在量が極端に少ないという特色がある。経済的に採掘できる鉱床が、ほぼ中国南部(江西省・広西省など)に集中しており、しかも「イオン吸着型鉱床」という特殊な形態で存在している。それだけに、採掘に当っては慎重の上にも慎重を期すべきものであるが、そういう配慮はまったくゼロであった。
イオン吸着型鉱床とは、花崗岩が風化してできた粘土層の表面にDy・Tbなどの重希土類が「イオンとして吸着」している状態だ。鉱石ではなく、泥に近い柔らかい粘土の表面に薄く張り付いているだけという特殊な状態である。鉱石のように、金属が「粒」として存在するのではない。
イオン吸着型鉱床の採掘では、粘土層に酸性溶液を流し込んで、レアアースを溶かし出す方法だ。問題は、この酸性溶液が地層全体に浸透してしまうので、他の鉱床を傷付けてしまい、その粘土層全体が「死んだ土」になるという大きなリスクを伴っている。つまり、採掘が鉱床そのものを破壊するという、極めて矛盾した結果になる。金属鉱山のように「坑道を掘って鉱石を取り出す」方式ではなく、地層そのものを化学的に溶かしてしまうため、実際の採掘可能面積が限定されるのだ。
専制社会の欠陥暴露
中国では、さらに違法採掘や過剰採掘によって、環境破壊型採掘が30年以上続いたため、 本来は100年持つ鉱床が30年で食いつぶす結果を招くことになった。
これは、中国という国家制度がもたらしたものでもある。専制社会の構造的欠陥は、悪い情報を上げずに隠蔽することだ。悪い情報を報告すると、責任を取らされるからだ。現在、中国の経済統計が「かさ上げされている」と指摘されている。これは、悪いデータを隠している結果だ。
レアアースの違法採掘や過剰採掘も、これと同じ背景で行われてきた。