さらに過去のレポートの影響力
「CSIS」のレポートの影響力を示す例はこれだけではない。さらに過去にさかのぼると、多くの事例がある。その中でも代表的な例を紹介しよう。
2014年10月3日、「CSIS」は、「安倍の危険な愛国主義:なぜ日本の新しいナショナリズムは地域と日米同盟に問題となるのか」というレポートを発表した。これは当時の安倍政権のナショナリズムが東アジア地域の安全保障、及び日米同盟を損なう可能性を警告したレポートだ。そこには次のような警告がある。
「残念ながら現在の東アジアの情勢では、安倍のナショナリズムはアメリカにとって大きな問題である。
もし安倍のナショナリズムが東シナ海において不必要に中国を挑発したりするならば、信頼できる同盟国というワシントンの日本に対する見方を損なう恐れがある」
そして、これを回避するために韓国との間にある「従軍慰安婦」の問題を解決するように提案をする。
「もし安倍の「従軍慰安婦」やその他の問題に対する姿勢が東京とソウルとの協調を損なうのであれば、この地域の軍事的な不確実性に対処するアメリカの能力を弱め、同盟の強化に向けたアメリカの外交努力を損ねることになりかねない」
安倍政権の反応は速かった。このレポートが出た3週間後、日本政府は「国家安全保障会議」の谷口氏を特使として韓国に派遣し、この問題の解決の糸口を探った。その後、日韓、日中は外相レベルの会談を実施し、懸案だった日韓、ならびに日中韓の首脳会談の実現した。
そして、2015年12月、協議を重ねた日韓両国は慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した「慰安婦問題日韓合意」を締結した。もちろんこの合意は、残念ながら次のムン・ジェイン政権によって破棄されたものの、この当時は懸案だった慰安婦問題の最終的な解決として高く評価された。
「東京はこれらの政治問題の重要性をよく認識し、可能な分野で歴史問題の緊張を和らげる努力をすることは重要だ。(中略)これは特に日韓関係で重要である。もし日韓両国が前向きであれば、大きな前進が期待できる。日本が発揮する柔軟性は、日本の保守層がナショナルプライドを放棄することにはならない」
つまり、日韓関係を改善するために、安倍政権のほうから「従軍慰安婦」問題を解決せよということだ。
岸田立候補断念前に出されたレポート
では、今回はどうなのだろうか?
実は岸田が総裁選立候補断念を表明する1カ月と少し前の7月11日、やはり「CSIS」から日本の安全保障政策に向けたレポートが出されていた。それは、次のレポートである。
日米安全保障パートナーシップの進化
https://features.csis.org/evolution-of-the-us-japan-security-partnership/
これはかなり短いレポートで、戦後の日米同盟の経緯を振り返りながら、2024年以降の同盟関係を展望したものである。
次項にその内容を簡単にまとめた。







