今回は日産自動車<7201>についてです。日産の株価は直近で大きく下げています。ここまで下がった背景と、日産の今後について考えてみたいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
激安の日産株
これが日産の直近1年の株価推移です。
1年くらい前は616円あったところから、今は400円くらいというところで、特に決算があった7月後半に大きく下がり、さらに8月5日の急落の後、戻ってこないという状況です。
ここまで下がった主な理由は業績です。
7月25日に第1四半期の業績が発表され、利益がほとんど無くなってしまったという内容でした。
ここまで業績が悪くなった理由を端的に言うと米国です。
米国での売上台数が減少したということもありますが、それ以上に米国で在庫がかなり溜まってしまっているということです。
在庫を捌くためには値引き販売をする必要があり、それによって利益がほとんど無くなってしまったという状況です。
自動車業界は、2020年~2022年くらいまでの間、半導体不足で自動車の生産ができない状況が続き、2023年くらいになってようやく半導体の供給が追い付いてきて、それまで供給できなかった分を供給できるようになりました。
その反動需要と、日本企業の割安解消の動きがあり、トヨタ自動車など自動車の株価は最近まで好調で推移してきました。
日産も2023年の間はトヨタやホンダと同様に株価が上がってきましたが、この1年で差をつけられてしまった状況です。
なぜ日産“だけ”?
なぜ日産だけがこれほど悪いのでしょうか。
日産の歴史を辿ると、2000年頃にカルロス・ゴーン氏がCEOに就任して、そこから様々な改革を行ってきました。
一度潰れかけた日産がルノーの支援を受けて回復を果たしましたが、その後ゴーン氏が私腹を肥やしていたことが白日に晒されて事実上追放されてしまいました。
ゴーン氏の改革は良かったのですが、その後の経営が必ずしも芳しくなかったところがあります。
高い目標を掲げるだけ掲げてあとは現場任せというのがゴーン氏のやり方で、そうなると現場としてはとにかく販売台数の目標を達成しなければならず、利益を減らしてでも販売台数を増やすということが横行しました。
一時はレンタカー会社にとにかく自動車を卸して販売台数を稼ぐようなこともやっていて、結果として日産のブランド価値はどんどん毀損していきました。
ゴーン氏が追放されてからは、経営体制を大きく変えようと動いてきました。
量を捌くのではなく、高級感のあるものを販売しようということで、電気自動車の「アリア」などを発売しました。
高級感のあるSUVで、価格も高く利益が取れそうなので日産の経営も立ち直りつつあるように思われたのですが、ふたを開けてみると今回の決算のような利益が無い状況となってしまいました。
自動車は北米でいかに売れるかどうかが会社全体の業績を左右するので、やはり北米が肝になってきます。
他社がどんどん新しいモデルを出しているのに日産は追いついておらず、さらに在庫が溜まっていてそれを捌くために利益が萎んでしまっている状況です。
そうなると、調子が良かったように見えた昨年度の業績にも疑問がわきます。
数字の上では過去最高の売上高を達成して利益も5,600億円となっていましたが、果たして本当にこれほどの実力があったのかということです。
特に昨年度は中期経営計画の最終年度で、目標達成のために販売を押し込んで数字を作ってきたということがあるのでしょうが、その中期経営計画が終わるや否やこの業績なので、疑いの目が向けられても仕方がない状況です。