ユシロ<5013>は、金属加工油剤の国内最大手であり、独立系メーカーとして確固たる地位を築いている企業である。同社は、工作機械で金属を削る際に用いられる切削油剤や、金属を成形する際の塑性加工油剤などを主力製品として展開しており、特に日本の全自動車メーカーと取引がある点は業界内でも類を見ない。同社のビジネスモデルは、営業チームが顧客と密に連携し、各工程の部材や加工部位に応じた最適な製品を提供する技術提案型に特徴がある。
事業は、売上の大部分を占める金属加工油剤関連事業と、クレンリネスやキー・マテリアルなどを主とするビルメンテナンス事業で構成しているが、地域別で、日本・南北アメリカ・中国・東南アジア/インドの4地域が報告セグメントとなっており、日本のみ金属加工油剤とビルメンテナンス製品を生産・販売している。世界各国に拠点を構え、海外売上高比率は6割を超えるグローバル企業で、前期時点の地域別売上高は、日本35.0%、南北アメリカ40.7%、中国11.2%、東南アジア/インド13.1%。近年は原材料価格高騰への適正な価格転嫁や、航空機・医療・半導体といった非自動車分野への注力により、収益力の大幅な向上を実現している。
同社の強みは、第一に圧倒的な顧客基盤と高い市場シェアである。国内ではすべての4輪・2輪自動車メーカーと直接の取引があり、エンジンのトランスミッション加工などで使用される油剤においておおよそトップシェアを誇る。第二に、高度な認証に裏打ちされたグローバルな技術力である。2018年に買収した米クオリケム社を通じて、米ボーイング社などの航空宇宙産業から要求される厳しい製品認証を取得しており、参入障壁の高い航空機向けの裾野まで販路を広げている。第三に、独創的な研究開発による新領域の開拓力である。世界で初めて高純度シクロデキストリン誘導体の大量合成に成功した実績を持ち、切断しても断面を合わせるだけで修復する自己修復性素材「ウィザードゲル」など、従来の油剤メーカーの枠を超えた高付加価値な「キー・マテリアル」を創出する力を有している。
前期2026年3月期の売上高は511.65億円(前期比7.8%減)、営業利益は44.89億円(同11.4%減)で着地した。一見して減収減益に見えるが、これは中国の合弁会社を連結範囲から除外したことによる会計上の特殊要因が主因である。中国を除いたベースでは、日本と東南アジア/インド地域で売上高が増加しており、内容としては堅調である。米州ではクオリケム社が水処理分野で受注を伸ばし、タイでは日系自動車メーカーの生産が低調ななか、販売数量の積み上げと原料代替などの原価低減が奏功し、海外拠点での収益改善が進んでいる。
今期2027年3月期の見通しについては、売上高522億円(同2.0%増)、営業利益40.50億円(同9.8%減)を予想している。引き続き、一層の製造原価低減や業務効率化を進め、持続的な成長のための適切な価格適正化を図り、着実に実績化を進めているビタミンB2光触媒(ヒカリアクション)技術を活用したソリューション製品の事業化や、自己修復性素材及び機能性添加剤を活用した各種製品の量産体制の確立、顧客のEV製品シフト・ESG志向を踏まえた製品の拡販・投入を強力に進めていくようだ。
市場環境では、全体的には自動車生産台数は増加するが、WWエンジン生産(ICE+HV)は横ばい傾向にある。日本・アメリカ・中国ではEV向け製品の本格投入する一方で、東南アジア・インドなど成長する市場では製品問わす拡販を続けていく。
今後の成長見通しについては、中期経営計画「EXPLORER PLUS」に基づき、内燃機関向け依存からの脱却と新領域での収益コア構築を加速させている。成長ドライバーとして期待されるのが、航空機・医療・半導体分野での拡販である。特に世界的に需要が増加する航空機分野では、機体洗浄剤やエンジンオーバーホール用薬剤の販売を強化し、収益の柱へと育てる方針である。エリア別で、国内では自動車以外の分野の売り上げ拡大を図り、航空機需要の伸びがあるアメリカ、ICE生産の拡大がある東南アジアで売上の成長を狙う。また、新規事業として「キー・マテリアル」の製品化を推進しており、自己修復性素材については素材メーカーや研究機関からの引き合いが急増している。さらに、光と酵素を活用して除菌・消臭を行う光触媒(ヒカリアクション)技術を付与した特色ある製品の市場投入も進めており、これら新領域の開拓が将来的な業績の押し上げに大きく寄与する見通しである。自動車分野においても、EV化に伴うギガプレス用離型剤やCO2削減洗浄剤といった次世代製品の投入により、環境変化を商機へと変える戦略を徹底している。
直近は、5月20日にライオンハイジーン株式会社と共同で、独自の光触媒特許技術を応用した新製品を開発したことを発表した。今回開発した製品は、ユシロの独自特許技術であるビタミン B2 を活用した光触媒技術を、食品工場向けに応用した防カビ施工剤となる。食品工場では、高温で多湿の環境であることに加え、食品由来の汚れが設備や建屋内に付着しやすく、カビの発生が恒常的な課題となっていた一方で、従来のコーティングでは生産品の安全性や生産設備の運用面の制約が大きいことから、十分な対策を講じることが極めて困難だった。今回開発した施工剤は、専門的な施工技術や複雑な管理を必要としない上に、食品添加物として使用可能な成分のみで構成されているため、食品を扱う現場でも安心して使用できる設計となっている。現場作業者が日常業務の中で扱いやすい、実用性の高い衛生ソリューションとなる。本共同開発を足がかりに、同社独自のビタミン B2 を活用した光触媒技術を食品工場分野で本格展開していくようだ。
株主還元については、安定的かつ持続的な配当を基本方針として掲げ、連結配当性向30%以上を基準としている。2026年3月期の期末配当金は、当初想定68円から82円に増額、通期の年間配当金は112円であった。また、成長投資とのバランスを考慮しつつ、機動的な自己株式の取得も実施しており、資本効率の向上に向けた姿勢は鮮明である。同社の最新のPBRは0.9倍前後と1倍を割れている状況にあるが、経営陣は重要課題と認識しており、ROE10%以上の安定的な確保とIR活動の強化を通じたPERの向上に取り組んでいる。
総じて、ユシロは自動車産業で培った強固な収益基盤を維持しつつ、航空機や新素材といった高成長分野へのトランスフォーメーションを成功させつつある。2027年3月期においてもPBR1倍割れ改善に向けた資本効率の最適化や連結配当性向30%以上としているなど株主還元の強化といった株主を重視する姿勢も明確であり、同社の持続的な企業価値向上と今後の躍進に期待していきたい。
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