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消費税ゼロも定数削減も「筋悪」だらけ。根本を見ない短絡思考で国が滅びる高市政権の臨時国会が始まる=高野孟

マイナーチェンジに終わる人事改造

この党・内閣人事改造は、高市にとって、1年後の自民党総裁選で再選を確実にするための戦闘体制づくりでなければならない。しかしとにかく手駒が少なくて、

(1) 側近と言っても、木原稔=官房長官と片山さつき=財務相くらいか。とは言え、高市は誰に対しても心を打ち明けて何でも相談するということがないので、同志的な紐帯で結ばれている訳ではない。
(2) 政権の支柱は、政権の生みの親と言っていい麻生太郎=副総裁とその義弟の鈴木俊一=幹事長のラインで、これが政権運営を事実上、取り仕切っている。彼らにとっては高市は単なる道具にすぎず、使い勝手が悪くなれば切り捨てる対象となるだろう。
(3) 高市派というものはなく、その代わりを果たしているのが日本維新の会である。これまでは閣外協力だったが、いよいよ頼るところがない高市は、維新からの入閣を求めるだろう。馬場伸幸=前代表の名が挙がっている。また高市の政策アジェンダというものはなく、維新の言い分をほぼそのまま取り入れた維新との連立合意が引き続き彼女の導きの書となるだろう。

一時は、鈴木俊一を閣内に取り込んで副総理兼財務相で消費税減税の論戦の主役に仕立てて高市の防波堤とし、幹事長に木原稔、官房長官に片山さつき……といった、少ない手駒のぐるぐる回しで何とか新鮮味を出そうという案も浮上したようだが、何度も言うように、腹を割って相手とじっくり話して、「そういうことで、一つよろしく頼むよ。あの件はうまく転がるように手を打っておくから」「分かりました。お引き受けします」といった自民党的対話ができる人でないので、人事を動かすのは難しい。それを補って裏で立ち回る黒子役も今の官邸には不在である。従って、新聞辞令を掻き集めると、片山も木原も小泉進次郎=防衛相も、さらに茂木敏充=外相も留任して、骨格部分は何ら変わり映えのしないマイナーチェンジに終わるだろう。

注目される林芳正=総務相の動向

茂木も小泉も、もちろん1年後の総裁選に狙いを定めている。彼らは閣内に居て高市とは付かず離れず大人の関係を保ちつつ、自分の分野の仕事を着々とこなし、それを実績として総裁選に挑もうとするのだろう。加えて、茂木の場合は、高市がこの調子ではいつ精神的に行き詰まって政権を投げ出さないとも限らないので、敢えて閣内で副総理格として存在感を高めておき、いざという時は自分が内閣を引き受ける、という密かな考慮も働いていると言われる。

他方、林芳正=総務相の場合は、ここは閣外に出て自由な立場で地方回りに取り組むのが得策と考えるのだろう。25年総裁選の第1回投票で、林は議員票72で、小泉の80には負けたが高市の64を上回って2位につけていた。ところが党員票で高市119、小泉84に対し、林62と大きく遅れをとった。仮に林が党員票をさらに50票上積みして112票をとっていれば高市に勝つことが出来た。

だから地方回りは重要で、林は例えば鹿児島では、森山裕=自民党県連会長と、石破内閣の官房長官と党幹事長、日中友好議員連盟の前会長と現会長という繋がりもあって、密接な関係を築き、9月5日には森山が主催した政経セミナーに県知事はじめ県会議員、鹿児島市会議員、友好団体など1000人を集めて林が講演した。林は3月にも鹿児島を訪れ、森山とともに大隅半島などを視察し、民間人も含めた「林芳正を応援する会」が出来てSNSで繋がっている様子が窺える。総務相は仕事柄、地方視察の機会は多いが、それと、1000人を集めた政経セミナーの講師に立つのとは意味が違って、これはもう総裁選への予備活動なのである。

他に注目されるのは、小林鷹之=政調会長。彼は高市とは付かず離れずながら、同期・同世代の中堅実力派議員をよくまとめて、政権運営のため走り回った。高市としては、経済関係の閣僚に取り込みたいところだが、小林の後ろ盾は高市が忌み嫌う石井準一=参院自民党幹事長であることから、彼を引き立てることへの警戒感もある。また小林の側にも、これからは落目一方の高市との距離をどう計測するか、考えどころだろう。

臨時国会は筋悪の法案ばかり

第2幕第二場は臨時国会で、改造人事が早く終わっていれば9月28日の週に、そうでなければ翌週に、招集されることになろう。高市は、維新との政策合意を実現することしか考えていないので、先の特別国会で国家情報局設立、副首都、国旗毀損罪、皇位継承のため養子縁組制の導入などの法案を成立させたのに続き、この臨時国会では衆院議員定数の1割削減、飲食料消費税の2年間ゼロの2つを達成することを目標とする。しかしこの2つは、共に内容が著しく筋悪で、議論が尽きないものであるにもかかわらず、自民党内の正常な合意形成の手続きを経ておらず、与党が一丸となって成立させようという態勢になっていない。

筋悪と言うのは、そもそも消費税を目先の景気対策のために上げたり下げたりするという発想が間違っていて、構造的な制度設計として、例えばイギリスであれば、

・標準税率20%:ほとんどの一般商品やサービスに適用 ・軽減税率5%:家庭用の電気・ガスなどに適用 ・ゼロレート0%:一部の食料品、書籍、医薬品など ・非課税(免税):金融・保険、教育、医療サービス

――とメリハリのはっきりした区分がなされており、それはフランスでも同様で、

・標準税率20%:大半の一般商品や高級品に適用 ・軽減税率10%:住宅改修、交通費、飲食サービスなど ・軽減税率5.5%:食品や水道水、書籍などの生活必需品 ・特別税率2.1%:新聞、雑誌、一部の医薬品など

税を取ろうとするなら、分かりやすく納得されやすい仕組みにしないとダメで、日本のようにそもそも標準税率が10%と中途半端に低く、飲食料品などの軽減税率が8%と中途半端に高く、しかもその後者をゼロにしようとしたら、システム改修に1年かかるということを財務省も知らなかったという大失態。仕方なく1%にしてシステム改修を半年に縮め、その分の6000億円強を中低所得者に給付することになった。さらに2年後にそれをまた8%に戻すときに、再びシステム改修に半年かかるんですかね。こんな複雑怪奇なことをして、末端の飲食店や飲食料品店も税務署も市役所もてんてこ舞いさせられて、それでこれが本当に物価高対策として機能するのかどうかの保証もない。馬鹿げた話としか言いようがない。

この先、人口が減少し高齢化が進む中で、10年、20年後を見据えて

(1) 国民負担率をどう設定し、
(2) その負担を税と社会保障費でどう徴収し、
(3) その税の部分を直接税と間接税の直間比率をどう定め、
(4) その上で初めて、間接税部分の軽減区分をどう設計するか――

という大元からの議論をするのが、野田と安倍が2012年秋に約束した「税と社会保障の一体的改革」であったはずで、それが放ったらかされていることが、国民全体が将来に希望を持てなくなっている深刻な根本原因であるというのに、高市政権がやっているのはまるで子供の遊びのようなことなのだ。

衆議院議員を1割削減するのに、比例で45議席を減らせばいいというのも筋悪で、今の制度では小選挙区で勝ち上がった者がA級、比例だけで当選した者がB級、小選挙区で負けたのに比例復活に引っかかった者がC級と、比例当選者が差別対象になっているのをいいことに、比例を削っても文句を言ってくる奴は少ないだろうという安易な考え方に立っている。しかし、小選挙区に比例代表を並立したのは、小選挙区制だけでは極端な結果になりやすいのを補正し、また少数政党が存立の余地を全く失うことのないよう配慮するためで、比例だけを削って制度の根本趣旨が歪められないかどうかの慎重な検討が必要なところである。

両方の法案に共通しているのは、事柄の根本を見ないで、目先の取り繕いのために制度をいじくり回すという短絡思考で、こんなことに耽りながらこの国は滅びに向かうのである。高市劇場第2幕第二場で観せられるのはそういう誠に残念な光景である。


※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年9月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by: 首相官邸

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