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全担保を賭けて仕手株をカラ売り~投機家Kさんの運命は?

「この不見識め!必ず暴落するぞ」我らの信念を嗤い暴騰した三光汽船

業績などの企業価値を買って株価が下がったらナンピン買いだが、勝負事のつもりで張った相場が想定外に出た時は即刻手仕舞うのが鉄火場の体験知だ(鉄火場の鉄則その1)

未だ若輩の私はそれを心得ずKさんを説得してナンピン、売り上がった。株価はまた上がった。追加保証金の催促が来た。

無理してそれを入金させて、また売り上がった。株価はさらに上がった。

この会社はオーナー社長の河本敏夫氏(※11)が郵政大臣を務め、いずれ総理になるという噂で、その政治資金の必要性から仕手が動いて株価を暴騰させるのだ、という話が市場一杯に伝わっていた。

今のように「風説の流布」が厳しく取り締まられることは少なかった。「風説」は「早耳」と称し歓迎された。「早耳筋の早倒れ」などと言う格言もある。

こういう仕手株を「政治銘柄」または「マル政」と言った。三光汽船こそは現にオーナー社長が大臣経験者で、田中角栄氏・福田赳夫氏と共に総理候補として名を連ねていたのだから格好の「マル政」だ。

自社株価が仕手的に暴騰すると、ふつう会社側は「当社の業績に反映するのは先のことです」などとコメントを出して鎮静化を図るのが見識と言うものだが、三光汽船にはクセモノ専務がいて火に油を注ぐようなコメントを出しまくった。

この不見識め!必ず暴落するぞ、と私たちは信じていた。だが三光汽船は2,530円になった。当初のカラ売りから25倍だ。後年に、ここで一つの訓戒を得た。「相場を張る時は確信を持ったら盲目になる」という鉄則だ(鉄火場の鉄則その2)

33歳の私と42歳のKさんは鉄火場の鉄則を2つとも見逃していたのだ。勝負事にナンピンは禁じ手だということと、信念は投資家を盲目にする、という基本である。これを知らずに売り乗せして遂に資金が尽きて決済に追い込まれた。

この時の悪夢は45年後の今でも時々見て冷や汗と共に目覚め、当時得た訓戒を拳拳服膺する。その時の損金報告書はKさんから貰って常に私の財布の中に安置されていて自戒のお守りとしている。

Next: 相場に負けて「見る目」で勝った~15年かけ得心した3つの教訓とは

※11 河本敏夫
こうもととしお(1911-2001)政治家・実業家。通産相、郵政相、経済企画庁長官、沖縄開発庁長官、自民党政務調査会長などを歴任、将来の総理候補と目された。三光汽船破綻時は第2次中曽根内閣で沖縄開発庁長官だったが辞任に追い込まれた
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