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路上追放も何のその!中国・上海「足マッサージ店」の堅実&したたか経営術

アジアのローカル景気やおカネ事情を現地在住ウォッチャーがレポート。今回は中国・上海の下町で、路上から忽然と姿を消した足マッサージ店を追跡します!(取材・文 / ジンダオ)

【 取材時の為替レート:1人民元 = 約19円 】

消えた繁盛マッサージ店を探して~上海下町・東宝興路

大家好(だーじぁーはお)!皆さんコンニチワ。
路地ウラウォッチャー・中国担当の「ジンダオ」です。

長崎市出身38歳九州男児!今年で中国在住11年目。文豪「魯迅」ゆかりの魯迅公園がある、現在は日本人があまり住んでいない上海市虹口(ホンコウ / にじくち・ほんきゅ)区に暮らしています。

さて、今回お届けするウォッチネタは、中国の大定番「足マッサージ店」経営のフトコロ事情です!

上海の中心地、人民広場からバスで15分ほど北上したところが虹口区東宝興路(ドンバオシンルー / とうほうこうろ)。このエリアは古くからの住宅街で、中医学の漢方の薬局などもあり独特のムードが漂います。

急速な都市化が進む上海で、いまなお下町情緒を色濃く残す

急速な都市化が進む上海で、いまなお下町情緒を色濃く残す

大通り沿いに集合住宅が立ち並ぶ

大通り沿いに集合住宅が立ち並ぶ

最近では、新しいショッピングモールもニョキニョキと建設中。この東宝興路に、以前から気になっていた“路上”足マッサージ店があるんですよ。ではさっそくお客さんで賑わうマッサージ店を訪問してみましょうか――

建設中のショッピングモール。工事が多く、街の風景はまたたく間に変化する

建設中のショッピングモール。工事が多く、街の風景はまたたく間に変化する

と、「あれれっ」何やらいつもとは違う雰囲気。路上には人影なし。よく見ると、ぽつんと置かれた椅子に、住所の書かれたコンクリート塊が鎮座していました。

ついこの間まで賑わっていた場所に、移転先の案内だけがぽつんと

ついこの間まで賑わっていた場所に、移転先の案内だけがぽつんと

どうやら徒歩数分の場所に移転してしまったようです。でも、もう何年も集客の良い場所で繁盛していた路上店がなぜ急に?そんな前触れはまったくありませんでしたが……。

移転前の路上マッサージ店。常連客で賑わっていたのになぜ?

移転前の路上マッサージ店。常連客で賑わっていたのになぜ?

大儲けからの移転か?それとも、働きすぎて体でも壊してしまったか?何かしら事情があるはず!これは行ってみるしかありません。

移転先を発見!路上を追われた理由は「○○には逆らえない」

新しい住所に行ってみると、「扦脚专业(爪切り専業)」と書かれたガラス戸のドアが。移転前よりもグッとお店らしくなっています。早速潜入して話を聞いてみましょうー!

コンクリート塊に書かれた住所と一致。新たに店舗を構えたようだ

コンクリート塊に書かれた住所と一致。新たに店舗を構えたようだ

店舗内にはあん摩師が2名。気持ち良さげに目をつぶり、あん摩を受ける中国人のお客さんで賑わっています。

お客さんはリラックスムード。この雰囲気は路上時代とあまり変わらない

お客さんはリラックスムード。この雰囲気は路上時代とあまり変わらない

こちらが店舗オーナーの上海人男性、趙さん50歳。どうして路上から引っ越したのか尋ねてみると、「城管」から“追い払われた”とのお答えでした。あぁナルホド……。

「いらっしゃい!見ない顔だね。例の移転先を見て来たのかい?」

「いらっしゃい!見ない顔だね。例の移転先を見て来たのかい?」

ここでご説明。「城管(城市管理)」とは、中国で街の安全や衛生を管理する公務員の方々。街中で屋台運営や路上物販をしていると、一定の確率で「城管」から“心のこもった指導”を受けるのです。

近所ですれ違った城管の方々。「城市」は中国語で「都市」の意味

近所ですれ違った城管の方々。「城市」は中国語で「都市」の意味

この「城管」から目をつけられたら最後。趙さんの路上あん摩店は運悪く“指導対象”エリアにあったため、仕方なく近所の空き物件を見つけて3ヶ月前からココで営業を再開したのでした。

これまで、22年の長きに渡り路上で営業を続けていたそうですが、最近の「城管」は上海人が少ないらしく、コネも人脈も使えないのだとか。

「城管が上海人なら、友人知人親戚のツテを頼って少しお願いすれば、何とかなることが多いんだけども、今回はダメだったね」とのことでした。

店舗を構え心機一転!趙さんのマッサージ店、いまの経営状況は?

実際に爪切りとあん摩をしてもらいながら、オーナーの趙さんや奥様にいまの経営状況を伺ってみました。

まず、あん摩のメニューは、角質取り、爪切り、足マッサージの3種類のみ。価格は角質取り・爪切りが18元(約340円)、足マッサージが30元(約570円)とリーズナブル。これでも、路上営業時(16元 / 25元)よりはちゃっかり値上げしているんですよ。

体力勝負の足マッサージは趙さんの担当

体力勝負の足マッサージは趙さんの担当

現在、借りている店舗のお家賃が月に3,500元(6万6,000円)とのことで、家賃が増えてしまった分を値上げに反映したようですが、客層はご近所の古い馴染みの顧客が中心。かなりまれに私のような外国人もチラホラ。

馴染み客が多い分、あまり景気には左右されず、22年も商売を続けてこられたとのことです。事実、中国の個人営業でこのように長期間営業しているのは、結構稀なケースなので、安定した商売だと推測されます。

足湯のお湯は電気式やかんで湧かし魔法瓶で保温する

足湯のお湯は電気式やかんで湧かし魔法瓶で保温する

プラスチック容器でお湯と水をまぜて温度を調整

プラスチック容器でお湯と水をまぜて温度を調整

移転費用は正直、これと言ってなし!椅子と桶とお湯があればどこでも出来る商売なのが強みです。

1日の平均客数は20名前後、だいたい1時間に2名来店のペースだそう。客単価が30元前後とのことですから、月間売上はおよそ18,000元(約35万円)になります。

昼間のお客さんはあん摩よりも角質取りや爪切りが多いそうで、あん摩が45分で30元なのに比べて、15分程度で18元と効率よく稼げるようです。そのため、あえて外に見える店舗名を「扦脚专业(爪切り専業)」としているのですね。

爪切りは奥様の担当。実は、マッサージより楽に儲かる!

爪切りは奥様の担当。実は、マッサージより楽に儲かる!

営業時間は朝7時半から夜19時半まで。休憩時間をのぞき約10時間労働で、定休日はナシ!路上営業の頃は、雨が降ると強制的に休むしかなかったため、店舗を構えた今のほうが、フルタイムでしっかり稼げるようですよ。

爪切り用の刃物など。初期投資不要の商売だ

爪切り用の刃物など。初期投資不要の商売だ

定休日がないかわりに、夜は早めに営業を終えて自宅でのんびりテレビを見ながら食事するのが趙さんのリラックスタイムだとか。営業中も、あん摩を終えたお客さんと、休憩しながら会話を楽しむなど、あまりストレスはない様子。

常連客のおばあさんと掃除婦さん。編み物をしながら休憩中

常連客のおばあさんと掃除婦さん。編み物をしながら休憩中

それにしても、個人経営の中国人は働き者ですね!

マッサージ中に「日本人!」の大合唱。その真意は――

今回、あん摩をしてもらいながら話を聞いているうち、ところでお前はどこの出身だという話になりました。「日本人だ」と答えたところ、「おー日本人なのに中国語が話せるのか」という、こちらではたまにあるシチュエーションに。

「おまえ、日本人なのに中国語が話せるのか」笑顔で興味津々のお客さん

「おまえ、日本人なのに中国語が話せるのか」笑顔で興味津々のお客さん

それを聞いた横のお客さんまで口を揃えて「日本人、日本人」の合唱となり、休憩にきていた掃除婦も「じ~~~っ」と好奇心いっぱいにこちらを観察。中国に暮らしていて、動物園の動物の気持ちが少し解る、そんな瞬間です(笑)

編み物休憩をしていた掃除婦さんが「小日本(シャオリーベン)!」と日本蔑視の単語を連呼する一幕もありました。とはいえ、その口調から、悪意があるようには感じられません。

「小日本!」写真では怒っているように見えるかもしれないが悪気はない

「小日本!」写真では怒っているように見えるかもしれないが悪気はない

実は、上海市虹口区は戦前の日本人租界地区で、日本大使館や東本願寺、上海海軍特別陸戦隊本部などがあったエリア。約10万人の日本人居留民が暮らし、長崎~上海間の定期船が就航していたことから「長崎県上海市」と呼ばれたほど、歴史的経緯のある場所です。

日本に留学経験のあった魯迅が、虹口区に書店を開いていた内山完造の支援を受け執筆活動を続けた、など日中友好のエピソードもたくさんあるのですが、ふだん日本人と接触を持たない中国人と出会うと、このような発言を受けることも、稀にあります。

一般的にアジアといえば、屋台や路上商売のイメージが強いかもしれませんが、中国・上海の下町では、趙さんのお店のように、当局の規制がいろいろと強まっています。

今後、さらに都市化が進めば、「小日本(シャオリーベン)!」を耳にすることは少なくなりそうですが、そのぶん、古き良き路地ウラの風景は変わっていくのかもしれませんね。

趙さん(50)足マッサージ店経営
に景気アンケート!

趙さん(50)足マッサージ店経営 プロフィール写真

あなたの景気は100点満点で何点?
「景気点数は70点かな。可もなく不可もなく。お客は一定だし。家賃が増えたけど、代金に乗せたしね」

これから景気は良くなると思う?悪くなると思う?
「近くのショッピングモールが完成したら人が増えて、この店にもお客さんがまわってくるかもしれないなぁ。けど、正直分からないね」

いまいちばん欲しいモノは何?
「いま欲しいモノ?うーん、そうだな。三菱のエアコンだな!いくら位で買えるもんだ?5,000元くらいかぁ。路上商売では不要だったけど、こうして店舗を構えたろ?やっぱりエアコンは付けたいな」

路地ウラウォッチャー – ジンダオ

38歳・長崎市生まれ。中国上海に中国語ゼロで渡航して早11年目。語学留学を経て、語学学校の立ち上げ、中国横断3ヶ月バックパックなどドップリ中国にハマる生活。趣味は中華食べ歩きと中華アンティーク収集。訪中当初から中国人に間違えられるアジアンテイストな顔つきのお陰で、中国人に紛れ込むのはお手の物。

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