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全担保を賭けて仕手株をカラ売り~投機家Kさんの運命は?

相場に負けて「見る目」で勝った~15年かけ得心した3つの教訓とは

前回、「事後15年」にKさんと鎌倉で落ち合って円覚寺へ石田禮助氏(※12)の墓前に詣でた話を書き、そのとき「事後15年に大きな意味がある」と書いた。

事後15年にあたる1985(昭和60)年、三光汽船は破綻して特設ポスト入りし、株価は1円になったのだ!

当時として史上最大の破綻で、本来なら各新聞のトップ記事になるはずの大事件であったが、三光汽船の会社更生法申請が確実となったのは奇しくも昭和60年8月12日。御巣鷹山の日本航空123便墜落事故と同じ日だった。

翌13日の新聞紙面は、日経新聞でさえ第一面トップ記事は日航機墜落事故。三光汽船破綻の記事はその左脇に出るに留まった。

大手企業の破綻を喜ぶのはいかがなものか、等とはこの際言わないでほしい。私とKさんは電話で快哉を叫びあい鎌倉で落ち合った。同じ時期に三光汽船をカラ売りして大損失を被った石田さんのお墓参りのために。

三井物産社長のあと国鉄総裁だった石田さんもKさんも私も、15年の長期で見たら判断は的確だったのだ。相場には負けたがモノを見る目は正しかったのだ。

これは大投機家の物語でも伝説でもない、紀州和歌山支店で顧客Kさんにやらせた三光汽船カラ売りの顛末である。それは将来忘れ得ぬ訓戒となって残り、私に人生と相場を訓えてくれた事件となった。

この事件から私は3つの掟を学んでしっかりと身に付けた。

【鉄火場の掟 その1】
勝負ごとで張った相場は初めの想定通りに行かなければ即刻切る。買ったら投げる。カラ売りしたら買い決済する。このときナンピンは絶対の禁じ手である。英国名門・ベアリングスの日経先物・オプションでの損失(※13)、大和銀行NY支店の簿外取引での損失(※14)、住友商事の銅相場での損失(※15)。これらの大損の歴史に共通するのはナンピン禁じ手の時にナンピンしていたことだ。三光汽船もその一例だ。

【鉄火場の掟 その2】
投資には信念は禁物だ。信念の人というと格好良いが信念に縛られて自在の見方が出来なくなる。

【鉄火場の掟 その3】
相場を張るのは「勘定」一筋に行くべし。「勘定」に「感情」を混入させるな。三光汽船ではこの掟を当初から犯していた。

次回は、南紀の元町長で素封家・Tさんのことを述べよう。彼こそ大投資家であった。日本のバフェットとして私は尊敬し続けてきたし、私が少々ながら金融資産を構築できたのは彼から教わった訓戒のお陰である。

※12 石田禮助
いしだれいすけ(1886-1978) 戦前の三井物産で海外支店長を歴任し、大豆・錫等の取引で成功。78歳で第5代国鉄総裁。三光汽船のカラ売りでは大きな損失を出した

※13 英国名門・ベアリングスの日経先物・オプションでの損失
「女王陛下の銀行」と呼ばれる名門だったが、1995年、シンガポール子会社のニック・リーソン氏による日経先物・オプション取引の巨額損失により破綻。阪神・淡路大震災での日本市場暴落が引き金となった

※14 大和銀行NY支店の簿外取引での損失
1995年、旧大和銀行ニューヨーク支店で、元嘱託行員の井口俊英氏が、米国債の不正取引により総額約11億ドルの損失を発生させた事件。当初の損失をカバーするためポジションを拡大させ破綻した

※15 住友商事の銅相場での損失
1996年、住友商事で、元非鉄金属部長の浜中泰男氏が、銅相場での不正取引により約26億ドルの損失を出した事件。当時、浜中氏の取引は市場シェアの5%を占め「Mr.5パーセント」の異名をとる巨大なものだった

山崎和邦(やまざきかずくに)

山崎和邦

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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