投資歴54年の山崎和邦氏が思い出の投機家を振り返る本連載、今回は「緻密な情報分析でハイリスクをローリスクに変える投資家」H氏です。その投資対象はジャンク債から大型株まで多岐にわたります。
質の高い情報を収集し、着実に利益を積み重ねるH氏
今回は某上場企業で代表取締役会長職を務める、いまも現役の大物投資家について書く。
個人の資産運用の機微に触れるから、姓名のイニシャルを避けて仮にHさんとしておこう。
筆者が50年の長きにわたり家族ぐるみの付き合いを続けてきて大いに感銘を受け、いまも最大の信頼を置くのは、投資家・Hさんに集まってくる、その情報の質と量である。
じつに、彼の元には驚くほどの情報が集まる。と言っても怪しげなインテリジェンス情報ではない。事実ではあるが、まだほとんど誰も知らない、あるいは気にとめようとしない、その時、本当に有効な情報だ。
まさにウォーレン・バフェットが言うように「町に血が流れる時」に飛び込んでくるネタだから価値が高い。
このHさんは、以前に紹介した犬走りのPさん(「おれが流した風説じゃない」聡明なワル投機家・Pさんが仕掛けたQ銘柄急騰事件)と異なり、「裏」の世界とはまったく無縁の人物である。20年以上前から自社株の配当金だけで年収3億はあるが、贅を凝らした遊びをやらない。
Hさんの余暇と言えば、学生時代から1級の腕前だったスキーをやりに夏の南半球に行ったり、たまに往復ファーストクラス、五つ星ホテルの海外旅行を愉しむ程度。車も普通のセダンのベンツで、収入を考えればずいぶん質素である。
聞けば、御尊父から伝わった漢籍の一節「事の敗るるは得意の日にあり、ことの成るは窮苦の日にあり」「信を万事の基となす」の二句を座右の銘とし、身を律して規則正しい生活を心がけているようだ。
私はこれまでワルから学ぶことが多かった。かのバートランド・ラッセルが「残念ながら人は善人からよりも悪人からより多くを学ぶ」と喝破するところだ。だがHさんはその範疇ではない。
私は、Hさんが調査して間違いなしと判断した案件は信用することにしてきた。いわば筆者にとっての重要なフィルターである。
Hさんは手堅い一方ではないにせよ、「大きく勝負に出る」ことは原則としてない。ただその分、目をつけた利害打算は決して外さない。
次頁から、その「Hさんフィルター」を通して実践した投資活動の一端をご紹介しよう。
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山崎和邦 週報『投機の流儀』
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