現在、ニュースや株式市場において「レアアース」に関するトピックがこれまでにない盛り上がりを見せています。特に大きな契機となったのは、2026年2月に報じられた、日本の排他的経済水域(EEZ)内である南鳥島沖付近において、レアアースを含んだ泥の試掘に世界で初めて成功したという衝撃的なニュースです。
昨今、日中あるいは日米の対立が深まる中で、戦略物資であるレアアースを自国でまかなう「国産化」への期待は、安全保障の観点からも極めて重要視されています。これに呼応するように、株式市場でも関連銘柄の株価が大きく変動していますが、果たしてこれが中長期的な恩恵に結びつくのか、実際の業績に反映されるのはいつなのかという点については、多くの投資家がまだ明確なイメージを持てていない状況にあります。
今回は、レアアースを取り巻くサプライチェーンを整理し、有望な企業と慎重に見守るべき領域を浮き彫りにしていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
レアアースは現代産業を支える「産業のビタミン」
そもそもレアアースとはその名の通り「希少な金属」であり、全部で17種類の金属元素の総称を指します。
レアアースは「産業のビタミン」という別名を持っており、鉄などの基礎的な金属にほんの少量加えるだけで、製品の性能を劇的に向上させるという極めて特殊な性質を持っています。
具体的な用途を挙げれば、電気自動車(EV)の駆動用バッテリーや、スマートフォン内部に組み込まれている強力な磁石、さらにはLED照明や液晶ディスプレイなどが挙げられます。
これらの製品において、発光の鮮やかさを高めたり、強力な磁力を生み出したりするためにレアアースは欠かせない存在です。
しかし、その採掘の現状は極めて偏っており、世界シェアの約7割を中国が占め、精錬プロセスにおいては実に9割以上を中国が握っているという、中国依存度の高い資源なのです。
輸出規制がもたらす「5.4兆円」の危機
レアアースがこれほど注目されるようになった背景には、深刻な地政学リスクがあります。
2025年後半から日中対立や米中対立が激化する中で、中国はレアアースの供給支配力を外交政策のカードとして使い始めました。2026年1月には、中国政府が日本向けのレアアースなど重要資源の輸出管理強化を発表し、現在は全面禁輸とまではいかないまでも、輸出許可の審査が非常に厳格化されています。
もし中国からの輸入が1年間完全に停止した場合、日本経済が受けるダメージは甚大です。
みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によれば、日本の名目GDPに対して約0.9%のマイナス影響が出るとされています。日本のGDPを約600兆円規模と仮定すると、その金額は約5.4兆円にものぼります。
日本は2010年当時には依存度が9割もありましたが、現在は分散化が進んで7割程度まで低下しているものの、依然としてこれほど巨大な経済リスクを抱えているのです。
南鳥島沖プロジェクトの光と影
こうした危機感の中で、レアアース国産化の希望となっているのが南鳥島沖のプロジェクトです。
2026年2月3日、探査船「地球」が水深約5,700mの海底からレアアース泥の引き上げに成功したという報道は、世界初ということもあり、資源安全保障の観点から大きな期待を呼びました。これを受けて高市首相も、米国と協力して中国に依存しすぎないサプライチェーンを構築することに強い意欲を示しています。
しかし、手放しで喜べる状況ではありません。
政府が掲げるロードマップでは、商業的な採掘が始まるのは2030年頃を目指すとされており、実現までにはまだかなりの時間を要します。
さらに最大の課題はコストです。深海から引き上げるコストは、中国産の市場価格と比較して数倍から数十倍に達すると予想されています。今後は、いかに安く生産する技術を磨けるかという、技術的な壁を乗り越える必要があるのです。
