イチカワ<3513>は、製紙工程の中でも紙の品質と生産効率を左右するプレスパート用具を販売する専門メーカーである。紙の製造工程(抄紙工程)において紙から水分を搾るプレスパートは、次工程の蒸気エネルギーを低減するためにより多くの水分を搾ることが求められる。最新のプレスパートでは、抄紙用フエルト、シュープレス用ベルトおよびトランスファー用ベルトの3つの製品が使用され、同社はこれらすべてを開発・製造・販売している。顧客が求めるプレスパートの操業に最大の効果を発揮できる抄紙用具の組み合わせを提案・提供できる国内唯一のメーカーとなる。世界45カ国・約470工場と取引を行うグローバル企業でありながら、特定顧客に依存しない分散型の顧客ポートフォリオを構築している。
事業の中核は、売上高の約97%を占める抄紙用具関連事業であり、製品別の売上高構成は抄紙用フエルト49%、シュープレス用ベルトおよびトランスファー用ベルト46%となっている。地域別売上高構成は、日本が38%、米州が13%、欧州等が18%、中国が17%、アジア等が13%を占めている。また、売上高の約3%を占める工業用事業では、抄紙技術を応用した「サーモテックス」を展開しており、アルミ押出工程など高温環境下での搬送用途に用いられている。
競合環境では、抄紙用フエルトを含むプレスパ-トにおいて全用具を製造・販売しているのは国内では同社のみで、世界でも7社中3社のみとなっている。米国のアルバニーインターナショナルやドイツのVOITHなど世界的企業が存在するが、同社は用具専業メーカーとしての専門性を強みとする。トランスファーベルトでは世界トップシェア47%、シュープレス用ベルトでも世界シェア2位の約3割のシェアを有している。独自製法による「Zimo Cross」は高い耐偏平性と通水持続性を両立し、高脱水性能と長寿命化を実現。抄紙用具は製紙ライン全体の稼働に直結する重要部材であり、顧客にとって切替リスクが大きいことから、長年の実績に基づく信頼関係が高い参入障壁となっている。そのほか、プレスパ-トは他のパートと比較して「製造難度・品質・設備投資」等の面から他社及び新規の参入は困難な状況となっている。
2026年3月期第3四半期累計の業績は、売上高が10,828百万円(前年同期比1.7%増)、営業利益が1,250百万円(同20.0%増)で着地した。売上は緩やかな増加にとどまったものの、高付加価値製品の販売比率上昇や原価低減の取り組みにより利益率が改善した。加えて、海外向けフエルトの販売伸長や円安効果も寄与した。抄紙用具関連事業において日本は国内紙需要の減少を背景に売上高6,349百万円(同6.4%減)となったが、衛生用紙向けは底堅く推移した。北米は受注回復により売上高1,473百万円(同14.5%増)、欧州は受注増と為替影響により1,979百万円(同19.3%増)となった。中国は290百万円(同6.1%増)、タイは大手顧客向け拡販が進み352百万円(同26.1%増)といずれも増収となった。通期では、売上高14,000百万円(前期比0.4%増)、営業利益1,300百万円(同21.2%増)を見込んでいる。
事業環境については、世界的に新聞・印刷用紙の需要がデジタル化の進展により構造的に減少する一方で、物流を支える板紙や家庭紙(ティッシュ、トイレットペーパー等)は底堅い需要を維持している。世界最大の紙生産国は中国で世界生産量の約4分の1を占めており、次いで米国、日本が続き、比例して需要が続いている。さらに、インドなど新興国では人口増加や生活水準の向上を背景に紙需要の拡大が見込まれており、単価が相対的に低いものの価格改定が進展しつつあるため、中長期的な成長市場と位置付けられている。
中期経営計画では、2030年に売上高142億円以上、営業利益率8.2%以上の達成を掲げている。岩間工場内に建設中の新ベルト仕上加工機で生産能力を強化し、好調なベルト販売の更なる拡大させる。また、海外ベルトが好調な中で、海外フエルト市場におけるシェア拡大を重要課題とし、現在の水準から大幅な引き上げを目指したオーガニック成長に加え、海外同業他社との資本提携やM&Aも視野に入れている。また、AI活用による業務効率化や販管費抑制を通じて、収益性向上を図る方針で、高品質・高付加価値製品の拡販とオペレーションの高度化を両輪とする戦略である。そのほか、長期ビジョンでは、工業用その他で新たなビジネス領域への挑戦を行い、第二の柱として新規事業創設を模索していく。総じて、国内はキャッシュカウ事業として売上高の維持・更なるシェア拡大、海外ではフエルト世界占有率を4%から10%(2030年度目標)に拡大させ、工業用事業の拡大・新規領域での挑戦で連結売上高の20%を目指す方針となっている。
株主還元については、安定的かつ積極的な利益還元を基本方針とし、配当性向30%以上を目安としている。2010年度以降は15年連続で減配なしの状況で、2026年3月期は年間90円配当の予定、前期から10円増配となる見込み。配当方針の見直しは継続的な検討課題として認識しているようで、高い自己資本比率を維持しつつ、財務の健全性と収益力向上を背景に長期的な企業価値向上を目指す姿勢を明確にしている。自己資本比率は75.7%と高水準で、安定した財務基盤を背景に長期的な研究開発と海外展開を継続できる体制を整えている。
最後に社内環境について、同社は、素晴らしい社員が力を発揮でき、社員自身が誇りとやりがいを感じられる会社づくりを目指している。その基盤の上で業績を着実に伸ばし、株主への還元を実行するとともに、顧客に対して高品質な製品を継続的に提供していくという好循環の実現を志向している。直近株価は急騰しているが、PBR0.7倍台で推移するなか、配当利回りは2%超え現在とバリュエーション面では割安感が残っている。
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